キャプテン・シネマの奮闘記

映画についてを独断と偏見で語る超自己満足ブログです

第136回:映画『NOPE/ノープ』感想と考察

今回は現在公開中の映画『NOPE/ノープ』を語っていこうと思います。本作に対してはちょっと私の狂乱具合が尋常じゃない。うっかりネタバレをしそうってかネタバレなしで語れねぇぞ!それに事前情報がない方が間違いなく良い案件です。これからご覧になられる予定の方はどうぞお引き取りを。そしてこの記事に戻ってきてくれとは言わないので、一刻も早く観に行ってくれー!

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イントロダクション

平穏な田舎街に突如出現した巨大飛行物体を巡る人々を描いたSFホラー。

ロサンゼルス郊外で映画やCMの撮影で使われる馬の飼育とその牧場を経営する主人公のOJ(ダニエル・カルーヤ)。彼と妹のエメラルド(キキ・パーマー)は、突然空から異物が降り注いだ謎の現象で父親を失って以降、牧場の経営難に苦しんでいた。ある夜馬が脱走し、その追跡をしていたOJは空に巨大な飛行物体を目撃。それは父が亡くなった時に見たもとの似ていた。兄妹はその飛行物体の存在を収めた動画を撮影すれば一攫千金が狙えると画策するが、彼らには想像を遥かに超えた「最悪の奇跡」が待ち受けていた。

監督はジョーダン・ピール。『ゲット・アウト』(2017年公開)と『アス』(2019年公開)で人種差別や格差社会をコメディ風ホラーで描いてきた鬼才。個人的にはめちゃくちゃ好きってわけじゃないですけど、コンスタントに良い作品を撮る監督といった印象です。そして撮影監督には『インターステラー』(2014年公開)や『TENET/テネット』(2020年公開)を手掛けたホイテ・ヴァン・ホイテマ。なるほど、だからあんなキレキレの映像だったのか。

主演はダニエル・カルーヤ。ピール監督の『ゲット・アウト』でも主演を務めていました。その他『ボーダーライン』(2015年公開)や『ブラック・パンサー』(2018年公開)など話題作に出演。そういえば今年アカデミー賞助演男優賞を獲得した『ユダ&ブラック・メシア 裏切りの代償』(2021年公開)はまだ観てないんだよな、観なくては。

またTVドラマ『ウォーキング・デッド』でお馴染みのスティーブン・ユァンを出演しています。『ミナリ』(2020年公開)に引き続き良い作品に出てますね。そういえば『オクジャ』(2017年公開)にも出てたっけか?

テーマがあまりに秀逸

ある理由から上を向いて~歩こ~う~♪とは歌えないこの映画。あまりにも面白かったので私、興奮のし過ぎで泣きそうになりました。ちょっと舐めてかかるものではなかったな。何がそんなに面白かったかと言うと描かれるそのテーマ性です。

まず話の軸となるのが巨大な飛行物体 UFOの撮影に奔走する兄妹。“何としてでもヤツを撮ってやる!”という胸アツな展開を楽しめるのは勿論なのですが、「史上初の映画」についての話が絶妙なスパイスとなります。この話は序盤に主人公の妹エメラルドから語れるもの。私も全く知りませんでしたが、エドワード・マイブリッジという写真家による活動写真が映画の始まりなんだそう。そしてそこに映るのは馬に乗った黒人なのです。つまり初めて映画に、いや映像に登場した人物は黒人だったのです。しかしその名はあまり世間的に知られてはいません。当時の欧米社会じゃ有色人種や女性が歴史に名が残っていることがほとんどありません。今なお残る人種差別がより顕著だったから…。この話を踏まえておくと、人類で初めて映画に映ったのが黒人騎手であったように人類初のUFOと映るのは黒人騎手となるか否かという展開になってくるわけですね。いや~アツいぜ、さながら弔い合戦かのよう。このような映画を「撮ること」そのものがギミックとなっていることがめちゃくちゃ面白いです。

さらに追い打ちをかけるのがチンパンジーのエピソードです。スティーブン・ユァン演じるカントリーテーマパークの経営者は過去に子役として活躍しており、人気を博したホームドラマ「ゴーディ 家に帰る」に出演していました。しかしこの撮影中にチンパンジーのゴーディが突如白人出演者に襲いかかる事件が発生してドラマは打ち切りとなっていたのです。この過去による“トラウマ”が彼の行動原理と見受けられますが、このシーンには昨今耳にするようになったアジア系ヘイトの風刺(イエローモンキーってやつですね)と同時に「観られる」側が一方的に搾取される事に対して我慢ならない意味合いも込められていると思います。バカにされて笑われたりステレオタイプに表現されるのはもううんざりだと。時にオーディエンスは知らず知らずうちに差別や偏見に加担しているかもしれない。存在自体に加害性を秘めているってことなのでしょう。

つまり映画のみらず全てのメディアコンテンツが本作の標的なのです(ゴシックサイトの記者も登場しますし)。誰もがメディアを「送る」側にも「受け取る」側にもなった時代。両サイドの間に横たわるあやふやな垣根を炙り出す事をUFO映画でやるという驚異の離れ業をやっていたと感じました。なんてこった!

このようなテーマを点と点だった話が徐々に繋がっていきそれでも謎が残るストーリーで奇天烈に語られます。お見事と言わざるえないよ、脱帽です。

またダニエル・カルーヤの「目」の演技も非常に素晴らしかった。序盤は死んだ魚の眼をした頼りないお兄さんといった感じ。そもそも会話する時に人と目を合わせようとしません。それが飛行物体を追うと共に目に力が籠ってきます。そしてラストの妹との目線で合図し合うシーンに差し掛かる時には、あの自信のない眼差しはどこ吹く風か。頼れる兄貴に様変わりです。あぁやっぱり役者さんって目が大事な気がするわ。

 

まとめ

以上が私の見解です。

自分で書いておきながらまとまってる気がしません。感じたことや語りたい内容は沢山あるのに思いが先行して上手く言語化できんな。

ともあれ鑑賞前は『未知との遭遇』(1977年公開)や『サイン』(2002年公開)っぽいのかなと思ったら似て非なるものでした。寧ろ社会風刺もちらつかせながらの恐怖と笑いの絶妙なバランス感覚を保つというクセの強さが炸裂。ジョーダン・ピール監督の現状最高到達点だと思いますし、SFホラーの新たな大傑作が降臨したのです。ぶっちゃけベースとなる話はバカらしいですけど、これを良い大人たちがクソ真面目に一級の映画に仕立てるってのが至高の極みなんです。そうだよ、こういう作品が観たくて映画オタクやってんだ!嗚呼…やっててよかったわ。

ということでこの辺でお開きです。ありがとうございました。