キャプテン・シネマの奮闘記

映画についてを独断と偏見で語る超自己満足ブログです

第11回:『Fukushima50』の感想と考察 ラスト一文で考えたこと

今回は、『Fukushima50』について語ります。

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はじめに

www.fukushima50.jp

東日本大震災から9年目の今年。福島第一原子力発電所で発生した事故に迫った作品になります。

私自身、宮城県に親戚が住んでいることもあって距離感の近い東北。第2の故郷と言っても過言ではありません。だからこそ、あの時テレビ中継で流れた津波の惨状は忘れることが出来ません。今でも緊急地震速報の音を聞くと胸が苦しくなります。さらに原発が水素爆発を起こしたというニュースを見た時は、ガキだった私でも「日本はもうダメなんじゃないか」と思ってしまったほどの衝撃でした。なので、私にとってはこの作品を見るのは「願望」というより「宿命」に近い気持ちでした。

 

作品としては面白い

まず、率直な感想を言えば作品としては面白いということです。刻一刻と迫る危機の中、次々と発生する困難に対して命を賭けて挑んでいく現場の人たちの姿には心打たれます。こういう人たちが居なかったら今頃日本はどうなっていたのかと考えると恐ろしくてたまりません。

さらに『下町ロケット』や『ノーサイドゲーム』といった池井戸潤原作のテレビドラマや今年日本公開された『フォードvsフェラーリ』などと同じような「現場vs上層部」の構図が描かれています。上層部がメンツや保身の為に茶々を入れてくるのに対して、現場舐めんな!って押し返すようなシーンが多々見受けられます。こうした下剋上的な展開は、万国共通でウケが良いようです。このような側面から、ある種の企業エンターテインメントの内容となっています。

まぁ東日本大震災が絡んだ話なので「面白い」という例えは不謹慎な気がして非常に複雑ですが、作品としてはしっかり仕上がっていたと思います。

 

ラスト一文で抱いた疑問

しかし、一つ疑問に思う点がありました。それはラストに登場する一文。

2020年7月、復興のための五輪が、日本で開催される。聖火は、福島からスタートする

この文章を見ると、さも終わった問題のように見受けられますが…待てよ。

まだ終わっていない。

www.yomiuri.co.jp

この記事からも分かるように、未だに汚染水の問題は解決していません。また汚染土の保管場所の問題や汚染された地域の除染作業など現場で戦っている人たちが依然としています。さらに帰還困難区域は残っているので、故郷に帰れていない人たちもいます。だからラストの一文は「今なお戦い続ける人々に捧ぐ」といったニュアンスの方がしっくりきたと感じています。

あともう一つ。これは個人的な要求に近いですが、観客に日本のエネルギー問題について問う内容を盛り込んでも良かったもではないかと思いました。そこで私が思い出したのは、東野圭吾の小説『天空の蜂』です。

bookmeter.com

内容をざっくりと。最新鋭の巨大無人軍用ヘリコプター何者かにジャックされてしまいます。犯人の要求は、全国の原発停止をさせること。要求を飲まない場合は、上空から原発にヘリを墜落させるというのです。そんな犯行を防ぐため原発・ヘリの技術者達が奔走する姿が描かれています。

この小説は2015年に映画化もされているようですね(っていうかこっちも松竹じゃん)。映画の方は見ていませんが、この作品でテーマとなっているものこそ日本のエネルギー問題についてです。日本人が知らず知らずのうちに使っている電力の一部は、使い方を誤ると非常に危険な原子力で生成されているのです。しかし、コストが安い割に多くの電力を生み出す利点を考えると、資源の少ない日本が今の経済を維持するには必要だろうという側面も持っているのです。そんな諸刃の剣である原子力に対して是か非かを問うているのです。エンターテインメント小説でありながら、メッセージ性もしっかり持った良い作品でした。

事故があった以上、この問題から目を背けるわけにはいきません。私自身、是非を問われても答えは出せません。しかし、考えいるきっかけを観客に与えるには良いテーマだったと思うのです。勿論3月11日からの数日間をを描いた作品なので、盛り込むとなると軸がほやけてしまう可能性もあります。しかし、これは映画です。ドキュメンタリーのジャンルではないから肉付けは出来るはずです。

 

おわりに

「宿命」として挑んだ作品。映画館は自粛ムードなので見に行くには厳しい状況ですが、同じことを繰り返さない為、記憶を風化させない為にも様々な世代に見てもらいたいと思います。

そして再び「現場力」試されている状況が日本にやって来ています。医療崩壊だと囁かれる中で、コロナウイルスと懸命に戦っている医療従事者がいます。彼らに対して感謝と共に声援を送ります。

それでは、この辺でお開きです。ありがとうございました。

 

参考:

二極化し、変容もみせる『Fukushima 50』への反応。ニュートラルに観ることは不可能なのか(斉藤博昭) - 個人 - Yahoo!ニュース