キャプテン・シネマの奮闘記

映画についてを独断と偏見で語る超自己満足ブログです

第85回:映画『空白』感想と考察

今回は現在公開中の映画『空白』を語っていこうと思います。毎度のことながら、ややネタバレ注意です。

 

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↑発狂してる顔と土下座のコンボってなかなかのインパクトですね。

 

イントロダクション

『ヒメアノ~ル』(2016年公開)や『BLUE/ブルー』(2021年公開)の吉田恵輔監督のヒューマンサスペンス。

事の始まりは田舎のスーパーの化粧品売り場。そこで万引きをしようとした女子中学生がスーパー店長に捕まるものの逃走。逃げた先で車に引かれて死亡してしまう。これが単なる悲劇で終わると思いきや、死亡した女子中学生の父親が激昂。娘はあらぬ疑いをかけられたとスーパー側を責め立て、さらに学校側にはいじめを疑い糾弾。マスコミやネットをも巻き込んで思わぬ方向へと転がっていく。

主役の一人である荒っぽい父親を演じるのは古田新太。私個人としては『逃げるは恥だが役に立つ』や『あまちゃん』などTVドラマではちょくちょく見かけてましたが、映画ではお初だったかもしれません。そもそも映画での主役は7年ぶりなんだとか。

そしてもう一人の主演である松坂桃李はちょっと頼りなさがあるスーパーの店長。今年は『あの頃。』や『孤狼の血LEVEL2』と変幻自在な演じ分けで大活躍。これは主演男優候補ですな。

 

「正しい」人間はいるのか?

まず本作を観て思ったのが正しい人間とは何かという事でした。

この一連の悲劇が起きた原因を考えてみると勿論、万引きを行おうとしたことが元凶ではありますが、万引きという行為のトリガーを突き詰めてみると、娘に無関心な父親と二人きりの家庭や親しい友人が居ない学校という閉塞的な環境があったように見えます。そう考えると両親や学校の教師もその罪の一端を担っているのではないでしょうか。(ドラマ化もした貫井徳郎の小説『乱反射』とどこか似てるな)

またこのテーマにおいては寺島しのぶ演じるパートのおばさんが結構キーパーソンかなと思います。この方はとにかく人の為に奉仕したい気持ちが強く、ボランティアの参加や店長が非難の声を浴びることから守る行為を積極的に行う人物。それの度が強すぎるせいで自分の行動や考えていることは絶対的に「正しい」と思っており、その正しさを周りに押し付けてしまっているのです。これがまぁー厄介。正しさの押し付けによって苦しんでいる人が居ても気付く事が出来ず、その人を逆に追い詰めてしまってます。

これらのことより何かしら問題や短所を抱えているのが人間であって、高潔で完璧な人間なんてこの世の何処にも居ないとひしひしと感じられました。

 

救いようのない「外野」

今のところ挙げてきた物語の中心人物たちにはまだ救いようがあると思いますが、最も救いようがないのは「外野」です。

事の詳細や内情を知らずに暴力的な「正義」を行使するネット社会やマスコミ。特にワイドショーはあきれ果てるレベルで描かれています。印象操作や捏造を当然の如く行い、火に油を注ぐような報道を通して一体何を伝えたいのか。ジャーナリズムについてを学んだ人が携わっているのか甚だ疑問です。まぁ所詮今のTV報道なんてイエロー・ジャーナリズム程度ってことですね。堕ちたもんだ…。あっすみません、メディア関連については学生の時にかじってたのでうるさくなりました。「イエロー・ジャーナリズム」とは視聴率や発行部数だけを目的とした低俗な報道を指す言葉です。

去年公開の『ミセス・ノイズィ』を観た時も同じような事を感じましたが、無責任な正義を振りかざす世間というのが厄災になる事を肝に銘じ、その片棒を担がないように意識しなくてはいけないと思います。

 

まとめ

以上が私の見解です。

現代日本における不安定な人間関係を考えさせられるある意味グロテスクな作品。

ヒリヒリした雰囲気のせいか中盤ぐらに悲しいでも悔しいでもないよく分からない涙が出てきましたが、その涙はラストでちゃんと感動の色に変わってくれました。空っぽの心を埋めてくれるのはふとした人と繋がりなんじゃないかと思わせてくれるラスト。人にやさしくなんきゃいかんなぁ~。

ということでこの辺でお開きです。ありがとうございました。