気づけば12月。さぁ毎年恒例の1年を振り返る時期がやって参りました。今年を漢字一字で表すなら「酷」でしょう。毎年酷い事はありますが、酷い年明けになったのは間違いなく、元日早々能登半島地震が発生。その爪痕は深く、地震による地盤沈下や堤防の破損が9月の豪雨被害を招き2次災害という惨状となってしまいました。また三が日中には羽田空港での衝突事故に北九州での大規模火災もあり、おめでたい雰囲気は一蹴されるスタートとなりました。
そんな中で恐らく世間の注目を最も集めたのはパリ五輪ではないでしょうか。イスラエルによる各地への軍事攻撃やロシアのウクライナ侵攻が続く戦時下のオリンピック。個性溢れる開会式やブレイキン、無課金おじさんが話題となりました。しかしスポーツの話題なら日本じゃ大谷翔平の方が一枚上手か?結婚や50-50の達成などとにかく話題が尽きないシーズンでしたが、個人的には水原一平の動向が気になるところです。
一平さんはともかく、お金に汚いのは日本の政治家も。パー券のキックバックで私腹肥やす裏金議員の跋扈が判明。その責任を取る形で岸田文雄が辞任し、石破茂に首相が変わったタイミングで衆院選が行われました。また石丸構文など色々カオスだった東京都知事選、それ以上にカオスを呈しまさかのパワハラ知事が返り咲いた兵庫県知事選。世界に目を向けるとトランプが再任したアメリカ大統領選や台湾総統選挙、ロシアでも一応大統領選があり世界規模での選挙イヤーとなりました。
それにしても衆院選の投票率の低さは頂けません。前述の裏金問題をはじめ物価の急騰に追いつかない賃金格差(103万の壁)、そうした経済の低迷が要因であろう闇バイトの横行に何か思う事はないのでしょうか?「どうせ自分の一票じゃ変わらない」という無関心が群れを成している事こそがこの国の最大の問題点なのかもしれません。
その他Vポイント、袴田氏無罪確定、新紙幣、松本人志、令和の米騒動、被団協、猫ミームが話題となった2024年。映画関係でも様々なニュースが飛び交いました。細かいニュース含めると膨大な情報量となるので、個人的にデカかったと思う話題を偏った独自見解まみれで振り返ってみようと思います。
↑内容には関係ありませんが、今年のベストショットを。吉野山の桜はマジで一見の価値あり。
↑去年の内容はこちら
マッドマックスイヤー到来
まずはこの話題から触れないといけません。本企画では兼ねてよりマッドマックスの新作公開の動向を注視してきました。そしてついに今年の5月31日に『マッドマックス:フュリオサ』が公開。2015年公開『マッドマックス 怒りのデス・ロード』の衝撃から9年。長かったような短かったようなその歳月に心血を注いで来た熱き思いが配給/運営側にも届いたのか人生初の一般試写に当選したのは今年の個人的大ニュースとなりました。内容以上に驚きだったのが会場で映画評論の高橋ヨシキ氏をお見かけした事、びっくりしたわ〜。
また各地での「怒りのデス・ロード」の再上映は当然の事ながら、午前十時の映画祭の枠で『マッドマックス』と『マッドマックス2』のリバイバル上映があり、6~8月にかけてはどこかしらでマッドマックス作品が上映されているアツい夏となりました。私自身『マッドマックス2』を映画館で観るのは人生初!感無量でございました。こうなってくるとなぜ何処の映画館も『マッドマックス/サンダードーム』の上映をやらなかったのかが疑問になるほど。コンプリート出来たはずなのに。もしやってる映画館があったら飛んで駆け付けましたよ。さらに関連書籍や「怒りのデス・ロード」のコンプリートエディションなるBlu-rayBoxも発売され、ひたすら財布の紐が緩む緩む…一体にどれだけ金を出したのか分からない年となりました。
ちなみに今年の上半期に放送していた連続テレビ小説『虎に翼』の脚本に「怒りのデス・ロード」の影響があったそうなんです。脚本家の吉田恵里香氏はインタビューにてワイブスたちの子守であるミス・ギティについて語っており
私は、あのおばあさんになりたい。先陣を切るフュリオサにはなれなくても、後ろに続く世代が傷つかないように、自分が盾になって強い人たちに立ち向かっていけたら。
と話しています。なるほど、確かにドラマ内でも先陣を切り時代を変える主役になるか、次の世代の為にバトンを受け渡す脇役になるかといったニュアンスの会話が度々されていたかと思います。って朝ドラですよw あんなに狂った世界観の作品のエッセンスがお茶の間の国民的番組にも流れているのです。”行って帰ってくるだけの映画”とか馬鹿にする奴、出てこいや!
しかし新作の「フュリオサ」は北米で売り上げ不振だったそう。あぁ嫌な予感。ジョージ・ミラー監督が手掛けた続編で言えば『ベイブ/都会に行く』(1998年公開)や『ハッピー・フィート2』(2011年公開)も興行不振に陥りシリーズが続かなった作品。つまりマッドマックスシリーズの新作が今後作られるかどうかという話になってくるのではと懸念してしまいます。個人的にミラー監督の作品はどれも面白いと思いますが、大衆とのチューニングが合わない時が多々あるのがミラー監督なのでしょうか?マックスの前日譚にあたる企画『Mad Max: The Wasteland』の実現を切に望む者としては由々しき事態であり、毎度製作が混迷を極めるシリーズの動向を見守り続ける必要がありそうです。
↓今年はマッドマックス関連で色々書きました。
アメリカの映画興行不振
実は興行不振に苦しんだ作品は『フュリオサ』に限った話ではありません。そもそもアメリカの映画興行自体が2024年は芳しくなかったようです。
まず驚きだったのがブラット・ピット&ジョージ・クルーニーのダブル主演映画『ウルフルズ』の公開中止。当初は日本の洋画離れもここまで来たかと思いましたが、製作元であるAppleStudiosの配信中心に注力する方針変更があったようです。その方針転換の原因となったのが『フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン』の興行不振と見られています。こちらはアポロ計画を基にしたスカーレット・ヨハンソン&チャニング・テイタム主演のロマンスコメディ。日本でも7月頃に上映していたかと思いますが、私も観に行ってませんでした。宇宙開発系の映画はどうもそりが合わなくてスルーしちゃいました。ともあれ『ウルフルズ』の方は「スパイダーマン」シリーズも手掛けたジョン・ワッツ監督なので観に行こうと思ってたんですけどねぇ…。続編の構想もあったようですが、それも頓挫。そもそも監督自身は配信への切り替えの説明は受けていなかったと発言しており、今後裁判なりで揉めそうな雰囲気を感じてしまいます。
そして苦戦をしたのは『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』も。前作『ジョーカー』が予想以上のスマッシュヒットを記録した反動というのもありましょうが、低評価が目立ち興収は苦戦。アメリカでは公開僅か2週目にしてAmazonPrimeでの配信が開始となりました。私自身そこまで悪い作品だとは思わなかったので、けちょんけちょんに言われる理由が分からず。確かにミュージカルシーンに面白味は欠けるし、真面目な作りでもっと遊びがあれば良いのにとも思いましたが、アーサー・フレックという一人の物語として観れば充分な出来だと思いました。ただ多く人が観たかったであろう物語は社会的弱者の代弁者であり危険な象徴「ジョーカー」の物語。世間のニーズと合わなかった事は明白な形となりました。
さらにクリント・イーストウッド監督の最新作『陪審員2番』の小規模上映も映画全体の興行不振の影響の余波なのでしょうか?その煽りを食らった形になったのか日本での上映はなくU-NEXTで限定配信というものなかなかしょっぱい状況です。
↓『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』について詳しくはこちら。
ロジャー・コーマン逝去
そんなアメリカ映画を作ったといっても過言では映画界のレジェンド ロジャー・コーマンが今年の5月に亡くなりました。”King of the Bs" B級映画の帝王と呼ばれた映画プロデューサー/監督。私自身、コーマンの手掛けた作品の直球世代というわけではありませんが、マーティン・スコセッシやフランシス・フォード=コッポラ、ジェームズ・キャメロン、ジョー・ダンテといったアメリカ映画を牽引し数々の名作を生んできた巨匠たちが彼から映画のいろはを学んだことは有名ですし、俳優ですとロバート・デニーロやジャック・ニコルソンもコーマン製作の作品でキャリアを積んでいます。こういった話を見聞きすると相当凄かったんだろうなと。勿論今じゃ考えられないような製作現場だったのかもしれませんがその功績は色褪せる事ないでしょう。合掌。
ちなみに国内ですと西田敏行、篠山紀信、谷川俊太郎、鳥山明、小澤征爾など訃報が相次ぎました。年々知ってる著名人が多数亡くなっていく印象があるのは、恐らく私自身も歳を取りその分蓄積された知識からくるものだと思うと、何だか複雑な気持ちになります。
今年の米国アカデミー賞
アメリカ映画の話題で言えばこの話も忘れてはいけません。今年の米国アカデミー賞では日本の作品が大躍進しました。役所広司のトイレ清掃映画『PERFECT DAYS』が国際長編映画賞ノミネート。宮﨑ワールド全開の『君たちはどう生きるか』は長編アニメ賞の受賞。そしてやたら皆さん大絶賛の『ゴジラ-1.0』の視覚効果賞の受賞がありました。『SHOGUN 将軍』のエミー賞受賞もあったので、もしかしたら今年のアメリカはジャパニーズブームだったのかもしれませんが、日本映画の輸出が好調傾向にあるのも影響していそうです。去年は『すずめの戸締り』や『THE FIRST SLAM DUNK』といったアニメーション作品の興行が海外でも好調。国内の年間入場者数が減少している中、海外市場の開拓こそが日本映画の新たな活路となるかもしれません。
そんな中『オッペンハイマー』で助演男優賞を受賞した際のオスカー像の受け取り方がアジア人差別的だとSNSで、炎上したのがロバート・ダウニー・Jr。個人的には差別というよりは、元々あんな性格なんじゃないかと思ったりもしました。なんかこう「スター」特有の図々しさといいますか…。今後のMCUシリーズにおける最大のヴィランとなる予定のドクター・ドゥームを演じる事も決まっているダウニー・Jr(ちなみに征服者カーンを演じてきたジョナサン・メジャースはクビ)。今後アジア圏での信用回復は出来るでしょうか?
ちなみにベルリンやヴェネツィアの国際映画祭が政治的中立性に欠けるとしてX(Twitter)からの撤退を表明しましたが、米国アカデミー賞は今後どのようなスタンスを取るでしょうか?ほんと見ようともしてないのにマスク本人のツイートとかめっちゃ流れてくるもんな。いい加減にしろよって話です。
映画秘宝の復活
そんなアカデミー賞に湧いた『ゴジラ-1.0』が2023年度のオールタイムベストとなっていた事に驚きを隠せなかった雑誌 映画秘宝が休刊から程なくして再復活をしました。いやぁ今までの秘宝だったらトップ10入りすらしてるかどうか。ランキング自体、他の雑誌とあまり変わり映えがしない大衆化の印象は受けましたし、明らかに寄稿者が減少しているのも哀しい点です(ベスト10枠使って近況報告してる人とか正直要らんよ!)。それに文字のフォントが大きくなり全体的に文量が減っているのも、寄稿者が少なくなった影響だと推測出来ます。ともあれ世間じゃ話題にならないようなニッチなところを付くスタンスを崩さない心意気は買いたい。毎回は購読しませんが、たまには買ってみようかな。
ちなみに現在、私が映画情報の主なリソースとしているのがYouTubeチャンネル BLACK HOLEでございます。秘宝とは袂を分けた映画評論家3人から成る映画評論チャンネル。一般のおたよりも含め非常に勉強になります。
映画は富裕層の娯楽?
最後にこんな話題を発見したので言及します。
今年の東京国際映画祭におけるエシカル・フィルム賞授賞式での一幕。エシカル・フィルム賞は、映画を通して環境問題や差別といった社会問題への理解を広げることを目的としたもので今年の審査委員長は斎藤工が務めていた映画賞。その中で取材陣や一般参加者に向けたQ&Aでこのような発言があったそうなんです。
「映画は富裕層の娯楽という認識がある。一般人が広げるのに簡単にできることは?」
なるほど、言われてみればそうなのかもしれないと思いました。
映画鑑賞料金の高騰は言わずもがな。一昨年から2000円台となり、1800円や1500円で鑑賞出来ていた時代は当の昔に。また、各配信サービスのサブスク料金だって年々微増をしており、決してお安い値段とは言えない状況に。かと言ってDVD/Blu-rayはレンタル店の減少も相まって流通量が少なく、なかなか手に取る機会も減っているのが実情です。定価以上の値段がする中古DVDだってざらです。私自身、なるべく2000円より安く観られるようにクーポンを駆使したり安くなる日に集中して観に行ったりとあらゆる手段を講じていますし、欲しい円盤があってもそう簡単には手を出さず。さらには映画以外での出費をなるべく抑えるべく、例えば平日の昼飯なんかは500~600円に収める等常にケチケチしながら日々を過ごしています。
しかし映画は付加価値が強いものである事をどうか忘れないで欲しいと思います。映画を沢山観たって偉くなるわけでも空腹が満たされるわけでもありません。駄作と巡り合い損した思いを抱くかもしれない。でもその1作品1作品が蓄積していく事が心の豊かさに繋がるはずです。そんな心の豊かさこそこの世知辛い現代を生きるために必要不可欠だと信じています。だから無理のない範囲で映画と接触していけば良いと思います。そして映画のみならず、芸術や文化に気軽に手が伸ばせるよう円安終われ!賃金上げろ!
まとめ
以上、6つのテーマの独自見解でした。
その他スティーブ・ブシェミ襲撃事件や『オッペンハイマー』が無事日本公開、黒沢清監督の新作3連打等がありましたが、この辺にしておきましょう。
来年もきっと嬉しいニュースも残念なニュースもやってきます。いち映画オタクの端くれとして今後も追っかけていく所存でございます。それではありがとうございました。
※参考
・朝日新聞 2024年3月12日(火) 朝刊3頁
・朝日新聞 2024年7月1日(月) 朝刊23頁
・朝日新聞 2024年10月24日(木) 朝刊27頁
・『虎に翼』脚本家・吉田恵里香さんと考える「はて?」と声を上げる意味 - Woman type[ウーマンタイプ] | 女の転職type
・G・クルーニー&B・ピット『ウルフズ』なぜ日本公開中止に? 原因は“洋画離れ”ではない|Real Sound|リアルサウンド 映画部