キャプテン・シネマの奮闘記

映画についてを独断と偏見で語る超自己満足ブログです

第50回:映画『聖なる犯罪者』 感想と考察

今回は、現在公開中の『聖なる犯罪者』について語りたいと思います。毎度ですが、ネタバレ注意です。

 

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イントロダクション

少年院育ちの主人公は、犯罪歴のある人が聖職に携われないことを知っていながらも、司祭者になりたい夢を抱えています。そんな彼が出所後、ふらっと立ち寄ったある小さな村の教会で「司祭者です!」とノリで噓ついたら、あれよあれよと司祭者として働くことになってしまうというストーリー。

これだけ書くとコメディっぽく聞こえますが、実話がベースになっているようなので映画全体のトーンは重厚感で満たされています。

本作は、去年のアカデミー賞国際長編映画賞にノミネートされたポーランドの作品でうす。日本でも大ヒットした『パラサイト/半地下の家族』と並んでノミネートされていたわけですね。っていうか私、ポーランド産の映画を観るの初めてだったかもしれないです。観たことあったかな?

 

服装のパワー

 まず序盤の方はあらすじで書いた通り、経験値ゼロからいきなり告解やミサをこなす主人公の様子が中心に描かれています。重々しい雰囲気なのですが、スマホで即興で調べた文句を使ってみたり、思い付きであろうテキトーな事を言って司祭者として振舞う姿には、つい笑いがこみ上げてきます。

例えば「息子がタバコ吸ってて、注意しても止めないからつい手を挙げてしまう自分をどうしたら…」なんて悩みを打ち明けるお母さんに対して「一度強いタバコを与えれば止めますよ」という回答。噓つけ!主人公自身はヘビースモーカーってのも皮肉なもんです。

そんなとんちんかんなことを言っているにも関わらず、不思議なことにどんどん村人たちから信頼を得ていき、本人も調子付いていくわけです。

村人たちが「牧師さんが言ってることだし…」と信じてしまう理由は、やはり服装だと思います。身なりさえしっかりしていれば、それらしいように聞こえてしまう。「服」というのは、着ているだけで何かしらのメッセージを放つメディア媒体になるということを改めて感じました。

 

知らない方が良い事もある

物語が中盤に差し掛かると、調子に乗った偽牧師が村のある悲しい過去にメスを入れ始めます。この悲しい過去とは、地元の若者たちを乗せた車と移住をしてきたおっさんの乗った車の事故。事故で両サイド共に絶命したのですが、事故の責任はおっさん側にあるとされ、彼の奥さんは村八分状態。ろくに葬式も挙げられない状況だったのです。そんな状況を見かねた偽牧師の主人公は葬式を執り行おうとします。おまけに事故の真実と思われる核心を知ったことで、より強い気持ちを抱くようになります。

この事故の真実、まぁこれを明かすと完全なネタバレになるので避けますが、私はこの真実を村人たちは薄々知っているのではないかと観ていて感じ取りました。知っているけれど、それを受け入れることが出来ないからうやむやな状態で悲しみが続いているのだと思います。そんなギリギリで保っている人々の心に、言い方は悪いですが主人公はずけずけと土足で入っていってしまったのでしょう。決して悪気はないのだけど、察することが出来なった。知らない方が良いことも世の中には存在するのだと思いました。

 

まとめ

 以上が私の考察です。聖職者として噓を付き続ける主人公の行方と掘り返された事故の記憶の着地点が気になる方は、是非チェックを。

いや、これが実話を基にしてるってやっぱ衝撃ですね。多少脚色があるにしても、出来過ぎでしょ。あと、教会に務める本作のヒロインの女優さん。なんか途中から私、ミア・ワシンコウスカにしか見えなくなってました。似てないかなぁー。

はい、ということでこの辺でお開きです。ありがとうございました。

 

※追伸

今作の内容よりも感動したことがありました。

映画館の座席で私の隣を一つ空けた席に同い年ぐらいの女性二人組がいたのですが、上映開始前に聞こえてくる彼女たちの会話がたいへん素晴らしかった。アップリンクの映画館がどうとか、去年公開の『ブックスマート/卒業前夜のパーティーデビュー』の感想とか、タランティーノ監督について等、映画愛駄々洩れの会話が展開させていたのです。

まず「タランティーノ」というワードが同い年ぐらいの女性から発せられた光景に初めて遭遇しました。いや、同姓からもあんまり聞いた事ないぞ。一体どこでこんなアツい会話が出来る人たちと知り合えるのでしょうか。

まぁ本人たちからすれば、“地獄耳立ててんじゃねーよ、キモっ”って話ですけど、こうしたシチュエーションに出くわせるのが映画館の良いところなんですよね。