キャプテン・シネマの奮闘記

映画についてを独断と偏見で語る超自己満足ブログです

第157回:映画『SHE SAID/シー・セッド その名を暴け』感想と考察

今回は現在公開中の映画『SHE SAID/シー・セッド その名を暴け』を語っていこうと思います。毎度のことながらややネタバレ注意です。

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イントロダクション

2017年にNYタイム紙が報じた映画プロデューサーのハーベイ・ワインスタインによるセクハラ/性的暴行事件。これを期に世界中に#MeToo運動が広まりましたが、もう6年も経つのですね、早いな。本作は記事を執筆した2人の女性記者の回顧録に基づいた作品です。

ニューヨーク・タイムズ紙の調査報道記者として勤めるミーガン・トゥーイー(キャリー・マリガン)とジョディ・カンター(ゾーイ・カザン)は、大物映画プロデューサー ハーベイ・ワインスタインの数十年に及ぶ権力を笠とした性的暴行の噂を聞き、調査に乗り出す。しかし取材を進めるうちに過去にもみ消されている事や被害者の多くが証言すれば訴えられる恐怖やトラウマから声を挙げられない状況が立ち塞がる。

主演のキャリー・マリガンといえば一昨年の個人的ベストとして挙げた度肝抜かれる傑作『プロミシング・ヤング・ウーマン』ですね。社会情勢を取り込んだパワフルな作品への連続出演、良い仕事してますね。そしてゾーイ・カザン出演作だと『ビック・シック ぼくたちの大いなる目ざめ』(2017年公開)が気になっていたのですがまだ未見。出演作で観た事あるのは摩訶不思議なラブコメルビー・スパークス』(2012年公開)ぐらいかな。

なお、製作にはブラッド・ピット率いるプランBが携わっています。当時ピットは交際をしていたグウィネス・パルトローからセクハラの被害を打ち明けられており、ワインスタインに対し「彼女に二度とあんなことをすんな!」と啖呵を切ったそう。本作にも製作総指揮の一人として名を連ねてるわけですから非常に気骨のある方です。

“淡々と”は強さ

近年『スポットラスト 世紀のスクープ』(2015年公開)や『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』(2017年公開)とジャーナリズムを扱う社会派映画が定期的に作られているハリウッド。良い土壌が整っていると思いますが、中でも本作は特出した出来栄えだと思いました。

物語は電話やメールでアポイントを取り、実際に会ってオンレコかオフレコかの確認をしていざ取材。他に取材出来そうな関係者も洗い出し再びアポ取り…とその繰り返し。その都度障壁に見舞われますが、説得力と毅然とした態度で相手から発言を引き出すミーガンと取材のためならロンドンにも出向く所轄の警官ばりのフットワークのジョディによる連携プレーで徐々に打破していきます。

決して映画的な盛り上がりがあるわけでもありませんし、鑑賞者の情感を煽るような演出もほとんどなく淡々と物語が進んでいきます。通常の映画ではあれば「淡々と」はあまり面白く見えませんが、本作においては逆。寧ろ取るべきしてとったスタイルでしょう。

報道やジャーナリズムにおいて最も重要な事は客観性です。加害者や被疑者を卑下する事、あるいは被害者へ同情を示すようなニュアンスは見せず、あくまで起きた事実を世間に伝えるというのが最たる目的となります。逆に扇情的に伝えるニュースはイエロージャーナリズムと呼ばれるもので、今で言うゴシップやワイドショーといったニュースをエンタメ消費するジャンルに分類されます。つまり本作はジャーナリズムの体を成した映画となっています。決してエンタメ消費をさせず、鑑賞者に問題を提示します。センシティブかつ現在進行形の問題だからこその描き方だったと思います。

日本では…

日本の映画界における暴力の告発や疑惑は去年報じられました。アメリカよりも5年のブランクがあったことよりも一報を伝えたのが週刊誌であった事が問題だと感じます。週刊誌もいわゆるイエロージャーナリズムに属するメディアの一つ(といっても昨今は微妙な位置付けにあると思いますが)。本来であれば新聞やTV局で大きく報じるべきはず。週刊誌からの報道後も各メディアが追随するような動きは見られず、有耶無耶な状態となっている印象に感じます。

はぁ…日本よ、これでいいんですか?だからジェンダーギャップ指数のランキング(146か国中116位)報道の自由度ランキング(180か国中71位)が低いんです。どちらのランキングも民主主義を取る先進国に位置付けられる中では最下位レベル。これじゃ後進国ですよ。SDGsとか言ってるなら、こうした点でレベルが低い状態である事を自覚すべきかと。そして人を、とりわけ女性を喰い物とする“ケダモノ”を生み出さないための法整備や社会全体の構造作りが必須である事は私のようなパンピーごときにも分かる局面を迎えていると思います。

まとめ

以上が私の見解です。

あぁ…すみません。なんだか偉そうな説教臭い展開になりましたが、ジャーナリズムの在り方を考えさせられる作品。こういう力作は猛プッシュしていきたいですね。

ちなみに本作に登場するNYタイムズの編集長、ザ・一流企業の上司って感じで良かったです。部下たちとの良い距離間に見えましたし、大事なところで適格なアドバイスや部下のカバーをする頼もしさ。理想だなぁ~。

ということでこの辺お開きです。ありがとうございました。

参考:

ヤバすぎる!ハーヴェイ・ワインスタイン事件の意味するところ。敏腕製作者のセクハラは“当たり前”なのか!? - SCREEN ONLINE(スクリーンオンライン)

ジェンダー・ギャップ指数(GGI)2022年 | 内閣府男女共同参画局

【2022年最新】報道の自由度ランキング 日本の順位と世界の状況 | ELEMINIST(エレミニスト)