今回は、現在公開中の『ストーリー・オブ・マイライフ』を扱います。前々から期待していた作品でしたが、予想以上に心に響く作品でしたので色々語ることにしました。いつも通りネタバレ注意です。
イントロダクション
ルイーザ・メイ・オルコットの小説『若草物語』をベースにした作品。舞台は19世紀南北戦争下のアメリカ。女優を目指すも愛した男性との結婚を決意する長女(エマ・ワトソン)。小説家として成功し、自立した女性を目指す次女(シアーシャ・ローナン)。内気だけどピアノが好きな三女(イライザ・スキャンレン)。画家になることと裕福な家に嫁ぐことを夢見る四女(フローレンス・ピュー)。この四姉妹が歩んでゆくそれぞれの道筋を主人公として描かれる次女の視点から語られる青春映画です。私『若草物語』は読んだことありません。作者の自伝的小説であることを把握していたぐらいだったので、これを期に読んでみようと思います。
監督は『レディバード』(217年公開)で、監督デビュー作品として史上初の米国アカデミー作品賞のノミネート成し遂げたグレタ・ガーウィグ。女優としても活躍するマルチな方です。
過去・現在と色彩
本作は、過去と現在を織り交ぜながらストーリが展開していきます。過去のシーンなのか、現在のシーンなのかを区別するには登場人物たちの成長・変化や服装などから判断することは出来ますが、決定的な違いとしてあるのが色のトーンです。
過去のシーンは、貧しいながらも明るく楽しそうに過ごす四姉妹の描写が多くを占めています。その為、全体的に明るく暖色系(特にオレンジっぽさ)なトーンになっています。対して現在のシーンに入ると、それぞれの進む道に壁が立ち塞がり、悩みや葛藤が増えていきます。そんな心苦しさを表すように、ブルーを基調とした寒色系が画面全体を占めるようになるのです。
この色彩の使い分けは、シーンを見分けるための材料のみならず、少年・少女期と大人の境界線を表現しているようにも思えます。大人になるにつれ、色彩の豊かさが失われていく感覚が私の中にはあります。少なくとも私の平日は、色味がありません。灰色の四角い建物に入り、白い机に座り、黒いパソコンを広げる。仕事が終わり外へ出れば空は暗くなっている(季節によりますが)。同じ景色と同じような色が繰り返えされる毎日を送っているのです。サラリーマンなんて、そんなもんなんでしょう。だからこそ無意識のうちに、色を求めて映画を見まくっているのかもしれませんね。
『マリッジ・ストーリー』との共通点
こちらの作品を見て思ったのが、もう一つ。
本作の監督グレタ・ガーウィグのパートナーは、ノア・バームパックという同じく映画監督の方。このノア・バームパックが監督したのが『マリッジ・ストーリー』です。
『マリッジ・ストーリー』は、『ストーリー・オブ・マイ・ライフ』と並び、今年の米国アカデミー賞にノミネートされていました。パートナーそろってノミネートなんて、何てクリエイティブなカップルだこと。また、私の2019年のベスト10で第3位に挙げた作品でもありました。
↓こちらで紹介しました。
『マリッジ・ストーリー』は、離婚調停に揺れる夫婦を描いた作品です。ストーリー自体に似ている部分はないですが、込められたメッセージが共通しているように感じました。それは結婚=幸せという方程式は、必ずしも通用しないこと。
『マリッジ・ストーリー』の場合、些細なすれ違いが積み重なり離婚することになった夫婦。穏便に済ませるはずが、子供の親権などを巡り、どんどん泥沼化。争いに争ったうえの離婚という結末を迎えるものの、それでもお互いを思い続けているといったニュアンスを感じ取るような結末を向えていました。結婚という契約を結ばなくても、人は人を愛することが出来るというのが私の感じた事でした。
そして『ストーリー・オブ・マイライフ』の場合、主人公は小説家として自立した生活を望んでいるため、結婚して家庭を築くことに対して否定的な心情を抱いています。結婚を幸せのゴールとして捉えていないので、隣の家に住む裕福なイケメン(ティモシー・シャラメ)からの求婚も断ります。しかし当時の社会風潮は真逆。女性が幸せになるのは裕福な家に嫁ぐことぐらいで、自分一人で生活を送ることは出来ないと決めつられていた時代でした。女性の社会進出については今なお残る課題ですが、社会風潮に抗い、夢に向かって葛藤する姿には心打たれます。
だからこそラストは、主人公と恋人関係となった家庭教師は「夫婦」ではなく「パートナー」として、まさにグレタ・ガーウィグとノア・バームパックの関係となったという解釈をあえてしたくなったのです。原作はどのような結末を迎えるのかは分かりませんし、“結婚しただろ”と異議唱えられれば、それはそれで納得出来ます。しかし、二人の結婚式のシーンが登場しなかったことが私の解釈の根拠になるように思えます。
まとめ
以上、小難しく考察してきましたがシンプルな感想を言えば、原作を読んでいない私でも充分に楽しめる大満足な一本でした。若手からベテランまで俳優陣はそれぞれ魅力的。特にフローレンス・ピューの演じた四女は、役者としてはおいしいポジションだったように見えました。
しかし、一つだけモヤっとすることがありました。それが4姉妹のお父さんを演じるボブ・オデンカーク。この人を見ると、どうしても傑作ドラマ『ブレイキング・バット』の弁護士、ソウル・グッドマンが頭によぎってしまい、私の集中力を奪うのです。あのドラマが強烈だったということでしょうけど、どうにかならないでしょうかねぇ~。
あっ、同じようなケースがもう一つ。これは逆ですが、エマ・ワトソンがハーマイオニーにしか見えない現象がちょっと前まであったんですが、どうやらその呪縛からは卒業出来たようです。とりあえず良かったー。
で、結局何が言いたいかっていうとインパクトの強いキャラクターを演じることのメリットと同時にデメリットも確実に存在することです。役者って難しいですねぇ。
ということで、この辺でお開きです。ありがとうございました。