キャプテン・シネマの奮闘記

映画についてを独断と偏見で語る超自己満足ブログです

第52回:映画『すばらしき世界』感想と考察

今回は、現在公開中の『すばらしき世界』について語っていこうと思います。毎度のことながらネタバレ注意です。

 

 

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イントロダクション

実在した人物を基に描かれた小説『身分帳』を原案に『永い言い訳』(2016年公開)や『ディア・ドクター』(2009年公開)の西川美和監督が手掛けたヒューマンドラマ。

殺人罪による13年の刑期を終えて出所してきた主人公の三上(役所広司)。幼い頃から児童養護施設で育ち刑務所を出たり入ったり繰り返しており、今度こそ塀の中へ戻らないと心に決めていた。しかしそんな彼の前に社会の息苦しさが容赦なく牙を向く。

主演の役所広司。この方の出演作ってホント良い作品ばっかりです。私の好きな作品『十三人の刺客』(2010年公開)や『三度目の殺人』(2017年公開)にも出てますし、『孤狼の血』(2018年公開)や『CUER/キュア』(1997年公開)も名作。TVドラマだと『陸王』とかありましたよね。なので私の中では“役所広司”という名前自体がブランド銘柄になってます。あれです、ポスターに「トム・クルーズ」って書いてあるだけで映画の売上が良くなるって話と似てるような。そんな感じです。

 

三上の目から見た世界はすばらしいのか

本作鑑賞前、主人公の事は相当な極悪人だと思ってました。人生のかなりの期間を刑務所で過ごしているわけですし、シリアルキラーとかそんな奴なのかと。しかし蓋を開けてみれば真逆の人物でした。心優しく真っ直な性格。時々見せる子供っぽい表情が魅力的です。ただ真っ直ぐ過ぎるせいで汚れた事や道理に反する事に目をつぶることが出来ないので、時として暴力的になり罪を犯してしまうのです。決して悪い人ではないけれど、社会のシステムに迎合出来ないから爪弾きにされてしまっている人物だったのです。

そんな彼にとっては現代社会は地獄といっても過言ではないのかもしれません。前科者に対する世間の風当たりは強く社会復帰が難しいのは去ることながら、制度やモラルばかりで自由や融通の利かない風潮やそれによって形成される社会のレールから脱線しないように息を潜めるしかない人々。これら全てを集約したような発言を物語の後半、主人公の身元引受人となってくれている弁護士夫婦がします。全ての事に関わっていると人は持たない。だから自分を守るために聞こえないふりをすることも大切だと。この辺りのシーンの会話は、胸を締め付けられるような思いがしましたね。“それで良いのか?でも、自分も無意識のうちにやってるよなぁ…”と。

ここまでの考察だと徹底的に胸糞悪い映画になっちゃってますが、しっかり希望も描かれていました。この希望が見える瞬間こそが「すばらしき世界」なんだと思います。三上を取り巻く人々の温かな絆(個人的には六角精児が演じるスーパーの店長とのやり取りが好きだった)もそうですし。また、ぐつぐつ煮えるすき焼きや養護施設の子供たちの笑顔。元奥さんから電話が来た時に見た空。障害を持つ職場の同僚が摘んだコスモスの花。三上の見た世界には、美しい光景が溢れていました。このようなちょっとした感動は私たちの日常にもありますよね。そんな刹那的感動に出会う為に、私たちは息の詰まりそうで窮屈な世の中を生きているのかもしれません。

きっと三上の目から見た世界は、すばらしい部分もあったのだと思います。

 

まとめ

以上が考察になります。いやータイトルにこんな感動する映画は、なかなか巡り合えないですよ。ホント脱帽。今年指折りの傑作としてカウントすること間違いなしです。

また、面白いことに現在公開中の『ヤクザと家族 The Family』も前科者の社会復帰という似たようなアプローチを取っていました。偶然だとは思いますが、今ホットなテーマであると捉えることも出来そうです。本作と、はしごして観たら相当メンタルやられそうですね。まぁ両作品とも、はしごで観るには勿体無い作品な気もしますし実践しないことをお勧めします。

ということで、ここら辺でお開きです。ありがとうございました。