キャプテン・シネマの奮闘記

映画についてを独断と偏見で語る超自己満足ブログです

第30回:戦争映画特集『ハクソー・リッジ』と『この世界の片隅に』を語る

もう8月ですか、早いですね。8月に入り夏本番になると毎年話題となるのが戦争についてです。先日8月6日の広島原爆投下日。本日9日は長崎原爆投下日。そして15日が終戦記念日と立て続けに戦争を考える機会が多くなります。しかし、昨今の課題として記憶の風化が叫ばれています。2015年のNHKの調査によると広島に原爆が投下された日を認知している人は全体の30%。長崎に関しては26%という低い数字にとどまっています。5年も前のデータですから、現在はもっと下がっている可能性は捨てきれません。そうした風化を防ぐことに歯止めをかけるかもしれないと私が思っているのが戦争映画なのです。

実は、私の学生時の卒論のテーマは戦争映画について。半分趣味みたいなことをやって卒業したしょーもない学生でしたが、そこら辺の同い年よりは「戦争」対する思いは強いと自負しています。今回は、そんな戦争について扱った作品を2つほど紹介して改めて考えてみたいと思います。

 

「戦場」で問われる信念:『ハクソーリッジ』

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 あの『マッド・マックス』シリーズの初代マックスを演じたメル・ギブソンが監督をした2017年日本公開の戦争映画。公開日であった6月24日は、沖縄戦が事実上終結した慰霊の日にあたるのも感慨深いものがありますね。

第2次世界大戦中、強い信仰心を理由に銃を持たない衛生兵として多くの兵士を救ったデズモンド・T・ドスをモデルした作品。彼が臨んだ沖縄戦での前田高地の戦いが舞台となっています。この前田高地の戦いは映画の後半部にあたり、前半部では彼が戦地に赴くまでの生い立ちを丁寧に描いています。敬虔なキリスト教徒の家庭で育てられたドス(アンドリュー・ガーフィールド)は、非暴力・菜食主義を理念としています。そんな彼は看護師をしている愛する女性の存在などもあり、傷ついた人々を救いたいと衛生兵になることを決意します。入隊をするも非暴力の理念から銃を手に取る訓練を拒否。そのせいで、同じ訓練生からのいじめや上官に疎まれたりと厳しい扱いを受けます。それでも信念を曲げない不屈の姿が周囲に受け入れられていくのが前半になります。

そして後半。沖縄の激しい戦場で彼の信念が発揮されます。地下壕に潜んでいた日本軍の奇襲攻撃により混乱するアメリカ軍。多くの犠牲者を出し、体制を立て直すべく撤退を余儀なくされますが、彼だけは引き下がりません。爆風の中、負傷して動けなくなった兵士たちを救うため一人駆けずり回ります。史実によるとこの前田高地の戦いにおいて75名の命を救ったそうです。その内の2名はなんと敵である日本軍の兵士。映画にも日本軍の兵士を治療するシーンがあります。彼にとって大事なのは戦争の勝ち負けではなく人の命だったのです。こんな不屈の信念と勇気を持った人物が一人でも多くなれば、真の平和が訪れるのかもしれません。

前半と後半でトーンがガラッと変わる緩急の付け方やアンドリュー・ガーフィールドの繊細さの光る演技が非常に魂を揺さぶられる作品でした。今になって思えばこの作品を見たことが、戦争映画をテーマに卒業論文を書くに至ったきっかけの1つだっだように感じています。

 

「戦地」ではない「戦場」で:『この世界の片隅に

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こちらの作品も私が戦争を考えるにあたって大事な作品です。広島県呉市を舞台に広島市から嫁いできた女性の戦時中の日常が描かれた2016年公開のアニメーション作品です。去年には長尺版である『この世界のさらにいくつもの片隅に』も公開されてました。

序盤はボケーっとした主人公、すずを中心にのんびりした日常が展開されます。呉の軍港で働く男性へと嫁ぎ、花嫁修業に奔走する日常にも次第に忍び寄る戦争の足音。食料は配給制となり、米軍機の飛来が日に日に増していきます。すずを始めとした女性たちは、知恵を絞って少ない食料をやり繰りしながら家族の食事を作り、空襲警報が鳴るたびに防空壕へと避難する日々をこなしていきます。生きることに必死な毎日は、まさに「戦争」。戦場で命を奪い合う「戦争」ではない「戦争」がそこにはあったのです。そんな中でも温かい小さな幸せは垣間見られます。この小さな幸せが、辛い日常に対抗する「生きがい」になっているように感じました。

正直に言うと、この作品を見るまで戦時中の人々の生活はほとんど知りませんでしたし、イメージが湧いていませんでした。そのため私にとっては、映画の穏やかなトーンとは違って強い衝撃を受けました。この作品で描かれた人々ように、歯を食いしばって日常を過ごした人がいなかったら、今の私たちの生活は存在していなかったかもしれないと思うと胸に迫るものがあります。

 

まとめ

以上、2作品を紹介しましたがこの他にも沢山戦争映画はあります。今年公開した作品だと『ジョジョ・ラビット』なんかは良作でしたね。この機会に是非漁ってみても良いかと思います。

ただですね。卒論を書くにあたって戦争映画についてのイメージ調査なんかもやったんですが、興味ないからという理由で全く触れたことがないという人もいました。関心がないんじゃ仕方ないですし、強制も出来ません。しかし、それで果たして良いのかと私は思うのです。

無頓着こそ最もな悪です。比較的見やすくなっている作品もありますし、映画じゃなくたって様々な媒体で戦争体験の継承が試みられています。一人一人が向き合うことが真の平和を手に入れる糸口になるのではないでしょうか。

“ちょっとは考えてみろよ”という上から目線になってしまいました。すみません、この辺でお開きです。ありがとうございました。

 

 参考:

デズモンド・T・ドス - Wikipedia

2015原爆意識調査|NHKオンライン