キャプテン・シネマの奮闘記

映画についてを独断と偏見で語る超自己満足ブログです

第163回:映画『逆転のトライアングル』感想と考察

今回は現在公開中の映画『逆転のトライアングル』を語っていこうと思います。なお、いつも以上にネタバレが含まれる内容となっています。これからご覧になる予定の方はどうぞお引き取りを。

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イントロダクション

階級社会やルッキズムをテーマにしたブラックコメディー。去年の第75回カンヌ国際映画祭で最高賞にあたるパルムドールを受賞し、今年の米国アカデミー賞でも作品賞を始め3部門にノミネートされています。

落ち目のモデルのカール(ハリス・ディキンソン)とモデルでインフルエンサーとしても注目を集めるヤヤ(チャールビ・ディーン)の美男美女カップルは、豪華客船クルーズの旅に招待される。船内には様々な富裕層たちが乗っており、その客からの高額のチップを目論む客室乗務員も跋扈していた。しかし船が嵐によって難破。さらに通りすがりの海賊に襲われ沈没し、無人島に流れ着いてしまう。水や食料もままならない状況のなか、サバイバル能力抜群なトイレ清掃係(ドリー・デ・レオン)が生存者たちのトップに君臨する。

監督はリューベン・オストルンド。本作でパルムドールを獲得した事により、2017年の『ザ・スクエア/思いやりの聖域』に続いて2回目の受賞。しかも手掛けた作品が連続受賞といのは史上3人目なんだそうです。寧ろ3人も居るのかよって思いましたけど、めちゃくちゃ勢いに乗ってる監督といって間違いないでしょう。次回作にも期待ですがまず私は『ザ・スクエア~』を観なくては。

落ち目の男性モデルを演じている方、どっかで見た顔だなと思っていたらアレですね。『キングスマン:ファースト・エージェント』(2021年公開)でしたか。まぁ「キングスマン」のシリーズは個人的に1作目しか推してないですが。

そしてそのパートナー役の売れっ子モデルを演じるチャールビ・ディーンですが、なんと去年の8月に32歳という若さで逝去されています。これは…残念過ぎる。急病だったようですが、初主演でこれだけの作品に出られたなら今後の活躍が期待されたろうに。合掌。

立場なんて環境一つで変わる

先に言っておきますが、この映画めちゃくちゃ面白いです。映画館でここまで笑ったのは久々。とにかく扱っているネタが痛烈過ぎて笑いが止まりませんでした。ちょっと五月蠅いぐらい笑っていたら周囲に座っていた方々ごめんなさいでしたが。

本作は3部構成となっていますが、1幕目からエンジン全開。主役となるモデルカップルは高額のディナー代をどっちが払うかで揉めています。ファンションモデルの業界においては男性よりも女性の方が多くの給料を貰っているそう。「メンズのギャラはレデイースの3分の1だ」なんてセリフも出てきますが、このカップルも同様の状況なのです。つまり稼ぎが多いのは女性側、しかし諸々の支払いは必ず男性側の役目。「あれっなんか俺上手く利用されてない?男女平等が良いんだけど…」と男性側は打ち明けますが、いい加減な態度をされ徐々にヒートアップしていきます。この時点で既に逆転が発生しており、男女の役割という固定観念を皮肉しています。

2幕目は客船のシーン。そこまでやりますかといった具合にさらにアイロニーが加速します。船酔い&客からのわがままを聞いたが故のある不始末による金持ちたちの嘔吐パレード。金持ちなのは生まれのせいだから憎むなと豪語するカスハラババアはゲロを盛大に撒き散らした挙句トイレから溢れ出た汚水の上をのたうち回り、兵器産業で儲けたと自慢げな老夫婦は自社の製品で木端微塵に。性別や年齢なんてお構いなし、障がい者へも一切容赦しない地獄絵図をバキバキのヘビメタをバックに活写します(これぞ正しいポリコレ描写じゃね?w)。このパートでは金は天からの回りものではなく、回ってくるのは上流階級が贅沢を尽くした後の「ゲロ」という事を表現していると感じました。ゲロや残飯を片付けてなけなしの給料を貰うのは清掃係(労働階級)ですから。

そして3幕目の無人島のシーンになれば、財力や高価な腕時計は無価値なものと化し、金持ちたちは役立たずの存在に。逆に金には直接結び付きにくそうなスキルを持ったトイレ清掃員の有色人女性がヒエラルキーのトップへと返り咲き。さらに1幕目で密に描かれいたモデルカップルにもある逆転が発生します。要するに人種や経済の格差は環境一つであっという間に変わってしまうという事でしょう。「面白いな、どこに座っているかで物事の見方が違うからな」という『ボーン・アルティメイタム』(2007年公開)セリフが頭を過ります。

これら3つパートを通して“ジェンダー?リベラル?くだらねぇ、そんなもん環境一つで変わっちまうよ” と嘲笑う監督の顔が浮かぶような内容です。こりゃ皮肉にも程があるわw。ネットであーだこーだ言って正義を振りかざす「評論家」の方々には是非観て欲しいですね。自分たちが議論して熱くなっている事は所詮その社会的環境やポジションに身を置いてるからこそ主張出来るものだと思うはずです。何て意地悪な映画なんでしょうね。

まとめ

以上が私の見解です。

これがカンヌ国際映画祭でグランプリを獲得したって事自体が一番の皮肉に感じます。あんな美男美女が揃いも揃って着飾り、きっと豪華なパーティーも催されるセレブたちのイベント要素があるものじゃないですか。監督さん、どんな気持ちでトロフィーを受け取ったんだろう。そんな私のような観客だって、決して安くはない値段を払って映画を観て貧困やら格差がどうのって言ってる訳でこれもまた皮肉な気がしてきます。私なんてこうした大傑作に巡り合えた後は昼飯が少々豪華になったり変な出費をしちゃったりしますからねぇ…面目無し!

という事でこの辺でお開きです。ありがとうございました。