キャプテン・シネマの奮闘記

映画についてを独断と偏見で語る超自己満足ブログです

第205回:映画『愛にイナヅマ』&『正欲』感想と考察

今回は現在公開中の邦画2本立てで。と言いますのもそろそろ年末なので恒例の企画を準備している関係上、書きたい事はサクッと書いておこうという次第です。毎度のことながら、ややネタバレ注意です。

『愛にイナヅマ』

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プロデゥーサー陣に騙されて念願の企画を奪われた駆け出しの映画監督(松岡茉優)が、運命的な出会いをした男(窪田正孝)と彼女のどうしようもない家族と共に企画奪還を目指すコメディ。コロナ禍や現代日本の構造的な生きづらさ等、様々な社会派要素が散りばめられた作品。個人的に印象に残ったのは1500万円の価値と映画作りについてでした。

まず「1500万円」というワードが意識的に登場するのですが、その金額一つ取っても立場や環境で価値が変わってくるってのがなんとも言えなくなりました。映画の制作費、高級車、慰謝料、闇バイトの指示役と思わしき連中が月に稼ぐ金額…。その額面は高いのか低いのか、どう受け止めるかによって社会の不公平さが見え隠れしています。

また業界に対する皮肉と思わしき昨今の邦画事情を感じさせる描写も目立ちました。主人公が作りたいと言っていた赤を基調とした理屈より感覚を重視した映画ってデヴィッド・リンチ作品じゃないですか?それを「理解出来ない」とか「観客にウケない」といって却下する助監督さん(三浦貴大)、分かってねぇなと思いました。(あの人の何でも「若い」で片付けるのセンスねぇーw) あんぐらいの歳の業界関係者なら『ブルーベルベット』(1986年公開)や「ツインピークス」シリーズぐらい観とけ!って話です。それに命が軽く描かれているからどうのって言い争ってましたけど、そんな映画沢山ありますよ。「仁義なき戦い」シリーズとかもそうでしょ?組織や体制の中で軽視されるのは若者の命っていう。寧ろ私なんかは命を重たく描き過ぎたお涙頂戴ものなんかは受け付けませんし。こうした鑑賞者側が気付いてしまう事を分かっていない作り手がいる業界、だから観ても何も残らないしょーもない作品が量産されるとでも言いたいように見えました。痛烈~。

なお本作は盤石なまでにメンツが揃っており、演技を演技するような格好の中で各々が良い演技してました。特に今作では池松壮亮が輝いていたかな。「お前はそこで祈ってろ!」には吹いちまったw そんな豪華キャストで織りなす家族が揃ってからが本番というような映画だったので、集結するまでの前置きが長くないか?とは思いました。

 

『正欲』

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あるフェティシズムを持つ者たち(新垣結衣磯村勇斗)とゆたぼんよろしくな状況の子供を持つ父親(稲垣吾郎)を中心にノーマルな生き方とは何かを問うヒューマンドラマ。今年の東京国際映画祭コンペティション部門にも出展していました。

特殊なフェティシズムと向き合った作品だからでしょうか。「問題作」や「観る前には戻れない」なんて惹句も見られましたが、個人的にそこまでの衝撃は受けませんでした。“まぁそういう人も居るよね”ぐらいに思ったのはどうしてかを考えていたところ思い出したのがジェフリー・ダーマーでした。死体や臓器といったものに欲情する性癖を理由に17人の命を奪い“ミルウォーキーの食人鬼“と恐れられたシリアキラー。私自身、去年Netflixで配信された『ダーマー』というドラマシリーズを観てその実態を知ったのですが、まぁ言葉を失いましたよ。おまけに丁度ドラマを観ていた時期に我孫子武丸の『殺戮にいたる病』って小説を読んでたんです。こちらはフィクションですが、類似するような性的嗜好を持った人物が登場します。この意図しなかったバッティングにより一時は頭おかしくなるんじゃないかと思いました。良い子の皆はマネしないでねw。

このようなタイプとは異なり本作で描かれる特殊性癖は他人にとっては無害なもの。だからそこまで思い詰めなくてもねぇ…と思ったのです。確かに恋愛や結婚が当たり前な考えが罷り通っているため、それが上手く出来ない/興味のない人間には息苦しい社会ですが、恋愛/結婚至上主義な連中はそれこそ価値観のアップデートが出来てないですし、ジェフリー・ダーマーのような俄かには信じ難い人間が実在するのですから。

あっちなみに「価値観のアップデート」って言葉、わざと使いました。なんか嫌いなんすよね。上手く説明出来ないんですけど、胡散臭いというか、それを免罪符に他人の価値観や趣味嗜好を土足で踏み荒らすニュアンスを感じます。俺はああいう言葉を気軽に使うやつは信用せんぞぉ!

そして安定の稲垣吾郎。去年の『窓辺にて』もそうですが、良い意味で空っぽな雰囲気に味わい深さを感じます。今作でも「正しさ」を振り翳すだけのいまいち何を思って、何を軸に生きてるかが分からない人物像が面白かったです。新垣結衣もあんなに目力ある役者さんだったのね。

まとめ

以上、両作とも個性や価値観の違いを扱った作品でした。

どちらも主張したい事は分かるし演技/脚本自体も面白いのですが、視覚的面白さに欠けていた気がしました。『愛にイナヅマ』は赤をアクセントにした、『正欲』は俳優陣の視線を意識した絵作りになっているとは思いましたが、決定的ショットが弱いというか、いまいち心に引っかかるシーンがありませんでした(そういえば公開中の『ミステリと言う勿れ』でも思ったな)。恐らくTVドラマならまだ留飲は下げれたと思うんですけど、映画はどんなジャンルであってもスペクタクルやカタルシスを感じる画があって欲しいと思うのです。いやでもそうじゃなくても好きな作品はあるしなぁ…難しいものです。

という事でこの辺でお開きです。ありがとうございました。