キャプテン・シネマの奮闘記

映画についてを独断と偏見で語る超自己満足ブログです

第225回:映画『オッペンハイマー』感想と考察

お久しぶりとなった今回は結構ヘビーですよ。日本での公開が先送りとなっていた映画『オッペンハイマー』を語っていこうと思います。毎度の事ながらややネタバレ注意です…といってもネタバレって程ネタバレな事は本作においてはあんまり無いと思うのですが。

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↑こちらがパンフレット。読みごたえ抜群で勉強にもなりますよ。

イントロダクション

”原爆の父”と呼ばれたアメリカの物理学者 ロバート・オッペンハイマーの半生を綴ったたノンフィクション「『原爆の父』と呼ばれた男の栄光と悲劇」を題材にした歴史映画。

時は1954年。「赤狩り」の余波を受け、ソ連のスパイ容疑を掛けられた物理学者のロバート・オッペンハイマー(キリアン・マーフィー)。聴聞会が開催されそこで様々な詰問を受ける中、彼の様々な過去や世界の在り方を変えてしまったマンハッタン計画についてが語られていく。

監督はクリストファー・ノーラン。昔は“一番好きな映画監督は?”と聞かれれば真っ先に答えていた名前。今はそこまでの熱の入れようはありませんが、やはり映画好きのきっかけの1つにもなった『ダークナイト』(2008年公開)があるだけに絶対に隅には置けません。『インセプション』(2010年公開)もSF映画の中じゃ1位2位を争うぐらい好きですし、いつか007を撮る事も期待してますよ。

主演はキリアン・マーフィー。先述『インセプション』や『ダンケルク』(2017年公開)とノーラン作品の常連としてお馴染み。「ダークナイト」シリーズでは3作皆勤賞なのに回を追うごとに小者と化していく男がついに主役の座に、良かった良かった。主演作だと『ピーキー・ブラインダーズ』のドラマシリーズがありますね。面白そうなんだけど、長いんだよなぁ。

その他エミリー・ブラント、フローレンス・ピュー、ロバート・ダウニー・Jrマット・デイモンが名を連ね、更に割とちょい役でデイン・デハーンケイシー・アフレックラミ・マレックケネス・ブラナー等が登場するという主役クラスの俳優が隅々まで配置された超絶豪華キャスト。公開中の『デューン 砂の惑星 Part2』が霞むレベルかと。そんな中で注目したのがベニー・サフディ。サフディ…えっ『グッド・タイム』(2017年公開)や『アンカット・ダイヤモンド』(2019年公開)のサフディ兄弟ですよね? 役としても後に”水爆の父”と呼ばれるようになるエドワード・テラーという結構なポジション。俳優も出来るんですね、そして監督最新作はいつになるんでしょうか。

力と力の対立

鑑賞前は私以外にも多くの人が思っていたのではないでしょうか?本作が核兵器誕生にまつわる話だと。勿論そうしたテーマを含んでいるのは間違いないですのが、戦争や核兵器を扱ったドラマ以上に科学の力と国家権力の対立を描いた政治ドラマの要素が強く感じられました。

ノーラン作品らしい難度の高い時系列バラバラな語り口で展開されるのは、世界の覇権を取るのはどの国なのか?というパワーゲームに巻き込まれた一人の科学者 オッピー。国際競争の施策の目玉として生み出されたのが原爆であるという解釈も出来るので、広島/長崎の描写がない事に違和感はさほど覚えませんでした。(オッピーさんが被害状況の報告を受けるシーンにはあった方が良いと思ったけど)

そして終戦後は原爆開発の後悔に駆られる中、原子力委員会のドンで水爆開発を主導する ルイス・ストローズの嫉妬に晒されるオッピー。このストローズ演じるロバート・ダウニー・Jrがとにかくクソ野郎なんです。アカデミー授賞式でもクソ呼ばわれしてましたが、自惚れと思い込みの激しい政治屋。他人のちょっとした言動を根に持つ(この辺の見せ方は上手かったよね)性格から周りに嫌われてるであろう(エアエンライクも絶対嫌ってるだろw)人物で、彼がソ連のスパイだとオッピーに嫌疑をかけた事が物語の軸となっています。とはいえ"慧眼にして盲目"と言われるだけあって女性関係にだらしなく、科学に対してのみ誠実なオッピーも決して人格者ではない複雑さを持っているので周囲に憎む人が居るのもおかしくなさそう。こうした人間臭さ漂う政治ドラマが主なテーマとなっているように見えました。

そもそも日本への原爆投下自体がアメリカの国際政治的なパワーゲームだったという考えもありますしね。東京大空襲の時点でケリはついていたはずで新兵器である原爆を行使せずとも日本が降伏するのは時間の問題。そんな中、

・実運用による国際的なアピール

・日本の降伏にソ連の介入を避けるべく一刻も早く決着を付けたかった

・アジア人に対する侮蔑や優性思想(黄色人種相手なら使って良いんじゃねぇ的な)

があったとされ、自由のためや国民保護というのは兵器使用を正当化するためのプロパガンダという見方もあります。まぁ結局、権力に飢えた連中はけしからん!科学が持つ力と権力者が持つ力がタッグを組むと惨劇を招く事があるわけですね。これは今なお続いている状況であり、そんな世界で生きていると思うと背筋が凍ります。

まとめ

以上が私の見解です。

きな臭い事ばかりを述べてきましたが、トリニティ実験や原子/分子の世界を表現した映像と音響は圧巻でノーラン監督の集大成的作品であることは頷ける力作でした。一部で批難された原爆賛美では決して無いので一見の価値はある作品です。

ただ会話のシーンで1セリフごとにカットが変わるのが難点。他のノーラン作品にもある傾向かと思いますが、今回はドラマ要素が強いだけあって如実に見られた気がします。あのカットの割り方ってデカいスクリーンに向かない気がするんですけどねぇ。まぁ英語が分からず字幕を追って観ている人間だから感じるのであって、英語圏の人は気にしないのかも。

あっそれとサンスクリット語を読みながらの濡れ場シーンは笑ってしまった。ノーラン作品には珍しいガッツリ濡れ場ですが、いやそこもインテリ風にするんかい!一周回ってアホっぽいぞwあの描写はどこまで実話なんでしょうね。

という事でこの辺でお開きです。ありがとうございました。

※ちなみに

実は原爆投下が国際政治的なパワーゲーム云々の話はNetfilxのドキュメンタリー『ターニングポイント:核兵器と冷戦』の受け売り知識でございました。これを観ると核兵器開発が世界にどんな影響を与えてきたかが分かります。

また劇中何度か登場するアインシュタインが原爆にどう関わっていたかは『アインシュタインと原爆』(2024年公開)。さらに戦時下の日本においても原爆開発が進められていたという事は『太陽の子』(2021年公開)という作品で把握していたので、この辺を抑えておいて良かったなという気がしました。