キャプテン・シネマの奮闘記

映画についてを独断と偏見で語る超自己満足ブログです

第206回:映画『首』感想と考察

今回は、現在公開中の映画『首』を語っていこうと思います。毎度のことながら、ややネタバレ注意です。

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イントロダクション

日本のカルチャーを代表する北野武が構想に30年を費やして監督・脚本を手がけた戦国バイオレンス作品。今年のカンヌ映画祭にも出典しています。

時は戦国。織田信長(加瀬亮)が隆盛を極め、各地の大名たちと凌ぎを削っていた。そんな中、織田家家臣であった荒木村重(遠藤憲一)が謀反を起こし居城である有岡城に立て籠る。しかし城は陥落、村重は姿を消したため、信長は明智光秀(西島秀俊)や羽柴秀吉(ビートたけし)ら家臣たちに、自身の跡目相続を餌に村重の捜索命令を出す。しかし秀吉は弟の秀長(大森南朋)や軍師の黒田官兵衛(浅野忠信)らと共にこの機に乗じて、信長や光秀を殺して天下を取る事を目論んでいた。

監督は北野武。本作の公開前に色々と過去作を観ました。『その男凶暴につき』(1989年公開)や『BROTHER』(2000年公開)、『キッズ・リターン』(1996年公開)と。中でも一番好みだったのが『3-4X10月』(1990年公開)でした。ガソスタの草野球団がヤクザに因縁を付けられ、訳の分からない世界へと踏み込んでいく事になる作品。沖縄のシーンとか意味わかんないんですけど、まぁー面白いこと。テンポ感がとにかく絶妙でした。

主演は…誰なんだ?一応秀吉を演じているビートたけしなのか。個人的には明智光秀演じる西島秀俊が主役といっても過言ではない気もしましたし、恐らく本作で一番働いている木村祐一演じる芸者で元忍者の曾呂利新左衛門が主人公っていってもおかしくないよね。ただやっぱり注目は信長演じる加瀬亮でしょうか。北野作品でいえば「アウトレイジ」シリーズですが、ドラマシリーズ「SPEC」も好きでしたし、冤罪ドラマの傑作映画『それでもボクはやってない』(2006年公開)もありました。『MINAMATA-ミナマタ-』(2020年公開)や『硫黄島からの手紙』(2006年公開)と海外作品でも活躍してるし、今回改めて観て“いやスゲェなこの人”ってなりました。

こんな戦国が観たかった

私、小学生の頃は歴史オタク、とくに戦国時代オタクとして生きていた身。今でもその時の血は流れているので、城跡や戦国武将と縁のある寺社仏閣に行けば血が騒ぎますし、バラエティ番組で取り上げられてるのを見るのも結構好きです。ただし、ここ最近の大河ドラマは観ていなくて…。現在放送中の大河なんて徳川家康が主人公でストライクゾーンなネタですが、どうもしっくり来ないのです。その一番の理由は「綺麗さ」にあります。衣装や美術といった視覚的綺麗さと同時に人物描写としても綺麗過ぎちゃうんですね。登場する武将たちのほとんどが人民や平和のために戦うヒーロー。方向や形は変われど共通するこの高潔さを見ていると、本当はもっと私利私欲に満ちた人間臭さたっぷりな人々だったんじゃないかと思ってしまいます。大河ドラマのみならず、映画にしてもこうしたヒロイズムな風潮ばっかりな気がしますね。ちなみに視覚的な汚さのあるテイストでいえば以前大河ドラマ平清盛』でやって不評だった的な話も見たことありますが、いや寧ろあれ、私は結構好きでしたよ。世間と合わんなぁ…。

と思っていた矢先にこれですよ、やっとです。やっと観たかった戦国時代がここにありました。本作で描かれる戦国時代は血と泥に塗れた人間群像劇。ヒロイズム的な要素は皆無で、頭のネジが飛んでる狂人たちが「天下統一」という権力の頂点を目指した時代であって優美さや格好良さは二の次となっています。まぁ格好良さで言ったら斉藤利三(勝村政信)&服部半蔵(桐谷健太)のボディガード枠がそれ。2人が合間見えるシーンも良かったですよ。

また、どいつもこいつも勇猛果敢で狡猾…って事でもなく、どっか適当で抜けてるところがあるのも観たかった武将たちの姿でした。秀吉なんて全部家臣に任せっきりだわ、光秀も何がしたいか分からないと思ってたら急に割り切って残酷になるし。そうした部分に人間臭さが感じられ、往年のヤクザ映画やギャング映画にも精通する人物描写だと思えました。

荒木村重のまんじゅうエピソードや家康の影武者エピソードの解釈/アレンジも笑えます。でも何だかんだ一番面白かったのは中国大返しのシーンかな、あれは東京マラソンか何かですか?w ZARD「負けないで」とか流れたら傑作でしょw。

てな感じで、とにかくずっと観ていられるやつ。“えっもう終わり?”感が強かったです。あの調子で関ヶ原までやってくれても良かったよ。少なくとも秀吉、秀長、官兵衛の3人のわちゃわちゃで小田原攻めまでは観たかった。あんないい塩梅に力の抜けた大森南朋浅野忠信は観た事なかったし、いっそ大河ドラマをあのメンバーでやってくれたら最高だと妄想が膨らみます。

まとめ

以上が私の見解です。

北野作品らしいバイオレンスとコメディの調和を時代劇でやるというのが一つの狙いだったと思われる本作。とはいえかなりコメディ路線が強いので、予告だけを頼りに観に行った人はちょっと裏切られた気持ちになりそう。私自身コメディ系映画は大半苦手ですけど、これは素直に飲み込めました。不思議なもんだ。
それに今回はBL展開が多いこと。確かに主君とそれに仕える小姓との間での関係は織田信長しかり武田信玄にもあったとかで、描かれる事自体は不思議ではないんですけど北野作品って割とどの作品にも描写があったりしますよね。何を意図してるんだろう?

という事でこの辺でお開きです。やっぱ戦国好きの血が騒いだ、公開初日に観た作品の感想をその日に挙げちまったよ。ありがとうございました。