今回は旧作を。現在Bunkamuraル・シネマ渋谷宮下で『ロスト・イン・トランスレーション』の35mmフィルムでの再上映がやっておりそれを観に行きましたので、本作を語っていこうと思います。毎度のことながらややネタバレ注意です。
イントロダクション
2004年に公開した東京が舞台のロマンティックコメディ。
ウイスキーのCM撮影のために東京へやってきた中年ハリウッド俳優(ビル・マーレイ)とカメラマンの夫に同行して東京にやってきた若い妻(スカーレット・ヨハンソン)。年齢の違う2人は同じホテルに宿泊してた事で知り合いとなり、見知らぬ異国の都市 東京を流れ歩くようになる。
監督はソフィア・コッポラ。あのフランシス・フォード・コッポラ御大の娘さんですね。私、たぶんソフィア・コッポラ作品で観てるのこれだけじゃないかな?『ヴァージン・スーサイド』(2000年公開)とか観た覚えなしなぁ。
主演のビル・マーレイは観なくなりましたね。不適切な言動があったとかで干されちゃいました。『アントマン&ワスプ:クアントマニア』に出てたよく分からないおっさんが最後?ってあれはまだ今年の映画か。そしてもう一人の主役がスカーレット・ヨハンソン。どうも『ゴーストワールド』(2001年公開)の再上映がある関係でこちらの作品も再上映という事みたいです。『ゴーストワールド』は観た事がないので、この期に観に行くのもアリかな?出演作で好きなのは『マリッジ・ストーリー』(2019年公開)と『her/世界でひとつの彼女』(2013年公開)です。ちなみに日本人出演者にはダイアモンド☆ユカイや藤井隆が確認出来ます。藤井隆はいつも通り藤井隆だったのであれは笑います。
なぜ好きなのか?
本作、数年前に一度観た事のあって何故かめちゃくちゃ印象に残っていた作品でした。決して面白い!や傑作だ!ではないんですけどね。そんな映画がフィルムで再上映されるってなったら、そりゃ観に行きますよ。なぜ印象に残っていたのかを探るいい機会ですし。
で、改めて観て思ったのは面白くはないという事でした。ぶっちゃけ話自体が平凡な印象。例えば中盤のマーレイ演じる中年俳優がシャーロットさん(スカヨハ)とその現地のお友達とダラダラしてるシーンなんて特に面白い会話があるわけでもなくちょっと退屈でした。それに日本の風習を小馬鹿にしたようなコメディは確かに笑えますが、同時に悪どさも感じます。翻訳のレベルなんてそりゃそうでしょう、公用語として用いてる人からすりゃさ、本人たちはきっと頑張ってんだからバカにするのも程々にしてよ…。しかし観終わった後は“あぁ良い映画観たなぁ~”の余韻マックス。夜道を一人で歩くのがなんて気持ちが良いこと!この「面白くないけど好き」の感情はどっから来るのか?考えたあげく、私が今まで観てきた映画の中で最も現代の「東京」を上手く描いた作品だろうという結論に至りました。
生まれも育ちも東京という地元話になると引き出しが少ないつまらない私自身が思うに東京って「孤独と空虚さ」です。自分が孤独である事を紛らわそうと何かで埋め合わせする為に集まる、そんな街だと思っています。とくに本作の中心舞台となる新宿&渋谷はまさにそのもの。なんて言うか物と人で溢れているのによそよそしくて空虚。だから用が済んだらそそくさと退散したくなる気がします。
そんな街の雰囲気と主人公2人の心境が共鳴したかのようなドラマが展開されます。家族や友人は居るし恐らくそれなりの生活が出来ているので傍から見れば勝ち組な2人。しかし心は満たされず、孤独さを抱えています。その孤独さにシンパシーを覚え、年齢差はあれどプラトニックな関係が築かれていくように見えるのです。孤独をテーマにしたストーリーを東京を舞台にして描くというのは監督の優れた観察眼があっての事でしょう。
それにラストの耳元で囁くあのシーンがマジで名場面っすね。行き交う人々の中からその存在を見つけ出し、翻訳や字幕の要らない2人だけの言葉を交わす。そうして別れ際は人混みに姿がかき消されていく様はまさに「東京」。人と人の出会いと別れを集約したような素晴らしいシーンです。
まとめ
以上が私の見解です。
改めて観る、しかもそれを映画館でというのは再確認と再発見が出来て乙なものです。唐突な京都観光シーンが南禅寺と平安神宮だという事にも気付けましたよ。紅葉や新緑、桜といった季節じゃないちょっと寂しい時期にロケやったんだろうね。
そういえば建物の改装か何かで仮移転みたいになってるBunkamuraル・シネマに行くのは初めてでした。場所は以前渋谷TOEIがあったところ。エントランスをちょっと変えただけで、劇場の中自体は渋谷TOEIのまんまでした。これがサステイナブルってやつか。ひと昔前の天井の高さが感じられるスクリーンは結構好きです。
という事でこの辺でお開きです。ありがとうございました。