キャプテン・シネマの奮闘記

映画についてを独断と偏見で語る超自己満足ブログです

第29回:A24は凄い!映画『WAVES/ウェイブス』を中心に魅力を語る

今回はノリに乗っている映画スタジオ、A24の魅力を現在公開中の『WAVES/ウェイブス』を中心に語っていきたいと思います。

 

A24の概要

まずは、どんな製作会社なのかを説明しときます。

始まりは2012年。3人の男性が映画界に風穴を開けようと設立したそうです。エマ・ワトソン主演の『ブリングリンク』(2013年公開)や米国アカデミー賞主演女優賞を獲得した『ルーム』(2015年公開)など話題作は色々ありましたが、恐らくA24が名を轟かせることになったのは『ムーンライト』(2016年公開)ではないでしょうか。私もこの映画を見てから認知するようになりました。マイアミで生きる少年が人種や性的マイノリティの壁にぶつかりながら成長していく姿を描いています。ブラット・ピットの製作会社、プランBとタッグを組んだ今作は米国アカデミー賞作品賞を受賞。設立からおよそ4年で作品賞を受賞するという偉業を達成したのです。

そんなA24作品の共通点は、どの作品も映像が美しいということだと思います。色彩と光彩の豊かさは抜群です。今回扱う『WAVES/ウェイブス』もその際たる例でしょう。

 

WAVES/ウェイブス』の感想と考察

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ジャンルとしては青春映画になり、前半と後半で主人公の異なる作品となっています。

前半の主人公は男子高校生。イケメンでいい感じの細マッチョ青年。勉学とレスリングに打ち込む日々を送り、レスリングの実力は結構あるっぽい。学校のアイドル的存在のかわい子ちゃんと付き合っており、友人もたくさん。住んでる家はデカくて裕福そうだし、ピアノが弾けるという謎の隠し芸まで持ち合わせたリア充界の最前線を行くような人物です。羨ましいばかりの光景が活写されますが、人生はそう甘くはないようです。

肩に大きな怪我あることが判明し、レスリングを続けていくことが困難な状況に。家族に相談出来ずに悩んでいるところに追い討ちをかけるように、彼女が妊娠したと告白。これからどうして行くか悩み苦しみ、次第に荒れていきます。そして、ある悲劇を起こすことになるのです。ここまでが前半。

後半は前半の主人公だった青年の妹が主役になります。この後半を説明しちゃうとかなりのネタバレになるので言わないでおきますが、長男の起こしたある悲劇によって、バラバラになった彼女の心と家族が再生していく過程が描かれていきます。

この2人のお父さんが重要。昭和の頑固ジジイにエリート要素をプラスしたような感じで、おまけにマッチョという手も足も出ないような厳格パパ。このお父さんの接し方が彼/彼女の人生を左右しているようにみえます。母親もそうだけど父親って、存在デカいなと思わされました。

A24お馴染みの色彩豊かな映像美はもちろん、主人公の感情によって画面の大きさが変化するのもポイントです。また、音楽も非常にこだわり抜かれています。「プレイリストムービ―」なんてキャッチコピーで売り出されてるぐらいですからね。私自身は洋楽があまり詳しくないので検討がつきませんでしたが、大統領選挙に名乗りを上げてすぐ撤回したことでも話題になったカニエ・ウェストをはじめ、ケンドリック・ラマ―やフランク・オーシャンなどの曲が使われています。洋楽好きならテンション上がるんじゃないでしょうか。

 

その他のA24作品

この『WAVES/ウェイブス』の監督をしたトレイ・エドワード・シュルツの前作であるイット・カムズ・アット・ナイト』(2017年公開)もA24で製作されました。

舞台は謎のウイルスが猛威を振るう世界(今の状況みたい)。感染を恐れ、森の奥地にひっそりと暮らす家族の家に素性の分からない男が侵入。予期せぬ訪問者を前に家族の絆が試されます。今作でもジョエル・エガートン演じる厳格な父親が登場。厳格な父親像は、監督自身のお父さんの投影なのでしょう。

 

また、少し前に感想を書いた『ミッドサマー』や去年のマイベスト作品としてあげた『エイス・グレード/世界でいちばんクールな私へ』もA24製作作品でした。ホント良い作品撮るなぁー。

↓『ミッドサマー』の記事はこちら

captaincinema.hatenablog.com

 

その他、印象深い作品としては『A GHOST STORY/ア・ゴースト・ストーリー』(2017年公開)ですかね。

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 ある夫婦の物語なのですが、開始早々ケイシー・アフレック演じる旦那が自宅の目の前で交通事故を起こして死亡。退場早っと思ったら、ベットシーツを被った幽霊として復活。誰にも見えてないし、話すことも出来ないので、ルーニー・マーラ演じる奥さんを見守っているだけという状況に陥ってしまいます。この「見守る」ことしかできないシチュエーションは「映画を見る」という行為と同じなんですよね。例えば中盤に奥さんがミートパイを自棄食いする姿をかなり長い時間見せつけられるシーンがあります。このシーンを見ていると“そんなに一気に食ったらお腹壊すんじゃね”とか“せめてちゃんと椅子に座って食えよ”など色々言いたくなります。しかし映像ごしなので当然話しかけることは出来ません。これってシーツの幽霊と同じ境遇なわけです。非常に面白いですね。映画体験の本質を再確認させられた映画でした。

 

公開予定の作品をチェック

A24の快進撃は今年はしばらく続きそうなので、これから公開される作品をさらっと触れておきます。

ハリポタことダニエル・ラドグリフが使い勝手の良い死体を演じた珍味な作品『スイスアーミーマン』(こちらもA24作品)の監督の新作『デック・ロングはなぜ死んだのか』

プランBと再びタッグを組んだ『ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ』

そして個人的に注目しているのが『フェアウェル』です。

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こちらは少し詳しく触れときます。

予告を見たところアメリカの育ちの中国人女性が主人公。中国の祖母が末期がんで余命僅かであることを知ったようです。これによって世界各地で暮らしている親戚が帰郷。主人公は症状を打ち明けるべきだと主張するも、中国では余命宣告を行わない伝統があるようです。意見が対立する家族はどんな結末を迎えるのでしょうか。

死に対する考え方って国によって異なりますからね。その辺の異文化の交わりも興味深いですし、落涙も雰囲気がプンプンします。

今後の動向に要注目のA24。期待を胸にこの辺でお開きです。ありがとうございました。

 

追伸:

なんと渋谷の映画館でA24の特集があるらしいですね。さて、何見に行こうかなぁ~♪

screenonline.jp

 

参考:

・SCREEN 2019年1月号 近代映画社

 P.114〜115

映画秘宝 2020年8月号 双葉社

 P.84〜85