キャプテン・シネマの奮闘記

映画についてを独断と偏見で語る超自己満足ブログです

第230回:映画『悪は存在しない』感想と考察

今回は現在公開中の映画『悪は存在しない』を語っていこうと思います。毎度の事ながらややネタバレ注意です。

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イントロダクション

シンガーソングライターの石橋英子と世界各国の映画祭を席巻する濱口竜介監督の共同企画で誕生したドラマ作品。去年のベネチア国際映画祭で銀獅子賞(審査員大賞)を獲得しています。

舞台は自然豊かな長野のとある高原の町。そこで便利屋として働く巧(大美賀均)は、娘の花(西川怜)と共に穏やかな生活を送っていた。ある時、自宅近くにグランピング施設の設営計画が浮上。それはコロナ禍の影響で経営難に陥った芸能事務所が政府からの補助金を得るためで、計画には杜撰な点が多くあった。事務所側と町の住民との間に溝が発生していき…。

監督は濱口竜介。『ドライブ・マイ・カー』(2021年公開)でカンヌ国際映画祭脚本賞、『偶然と想像』(2021年公開)でベルリン国際映画祭銀熊賞、そして今作でベネツィア国際映画祭で銀獅子賞を獲得と世界三大映画祭全てで賞を獲得しています。前もどっかで書いたかもしれませんが、ポール・トーマス・アンダーソン監督ばりの怪物、とにかく賞に強い監督です。

主演、というか出演キャスト全員お初にお目にかかりますだったかと思います。濱口作品である『ハッピーアワー』(2015年公開)に出演されてる方も居るようですが、こうしたまったく馴染みのない方が占める映画を観るのってなかなか良い機会ですよ、新鮮なんでね。ってか5時間以上あるという『ハッピーアワー』は挑戦せねばいかんな。

調子崩し

この「調子崩し」って表現が適しているのか微妙ですが、なかなか掴みどころのない調子で進む印象を受けました。

まず始まって暫くは非常にスローテンポ。セリフも少なく抽象的な映像の連続です。これといった物語の展開もないので、この段階で正直言って“マズい、、、このままだと寝る”のマインドが働いてました。ちょっとボーっとしてたもん。当初はライブパフォーマンスのための映像として制作していたからなのかと勘繰ったりもしましたが、恐らくわざとそうしていたのでしょう。住民説明会のシーンあたりから急激に面白くなります。説明会の開催側にあたる芸能事務所の社員2人組がなかなか不憫。住民にはボコボコにされ、自社に戻って問題点を指摘してもいけ好かないコンサルや社長には相手にされない始末。基本顔は死んでるし、”そもそも芸能事務所なのにグランピングとか知らねぇーよ!”みたいに本音が漏れちゃうところとか良かったですね。作品内における丁度良い塩梅のコメディリリーフでした。

でそんな感じで楽しんでると、急にはしごを外してくる展開&ラストが待ち受けます。いや、あのラストはどういう事なんだ?私個人としては、あの二人は「自然」の化身というか代弁者だったというか。人間に対して普段は穏やかでも時に牙を向く存在というメタファーなのかなと。人よってかなり解釈が異なりそうです。

このように観客の予測や想像を上手いこと崩してくる事を意図的にやっているのが本作の特徴だと思います。実験的というかこんな方法もアリなんだという映画表現の可能性が感じられるような気がします。

まとめ

以上が私の見解です。

どうも世間には、映画を序盤の方で「つまらない」と決めつけ、途中で切り捨ててしまう方も居るみたいですが、本作のような最後まで観ない事には分からなかったりラストにドデカいカタルシスのある作品は多く存在します。そんな序盤でジャッチ出来るほど映画は単純じゃないと思いますけどねぇYouTubeじゃないんだから。

そんな人が多いから…というのは関係ないと思いますが、上映館数がめちゃくちゃ少ないですね。都内で2館ってなかなかハードル高いわ。でも思えば『ドライブ・マイ・カー』はシネコンでも上映してたはず。いや、やっぱりあれは米国アカデミー賞の獲得が大きかったのか。そもそもシネコンで上映し出したのって獲得後でした。つまり「米国アカデミー賞を獲った作品だから」という理由で観に行く人が一定数居るって事ですよね。凄いブランド力だ。

という事でこの辺でお開きです。ありがとうございました。