今回は現在公開中の映画『イニシェリン島の精霊』を語っていこうと思います。毎度のことながら、ややネタバレ注意です。
イントロダクション
第79回ベネチア国際映画祭のコンペティション部門で脚本賞を受賞したヒューマンドラマ。今年の米国アカデミー賞にも作品賞他、8部門にノミネートされています。
舞台は1923年、内戦中のアイルランドに属する小さな孤島 イニシェリン島。この島で暮らすパードリック(コリン・ファレル)は、毎日パブで飲みながくだらない話をする長年の友人コルム(ブレンダン・グリーソン)から突如絶縁を言い渡される。理由は一体?何とか仲直りしようとコムルを追い回し、関係修復を迫るも頑なに拒絶。ついにコムルはある衝撃的な宣言を突きつける。
監督はマーティン・マクドナー。2017年公開の『スリー・ビルボード』も賞レースを大変賑わせました。フランシス・マクドーマンドやサム・ロックウェルといったクセのあるキャスト揃えたシニカルな笑いがたまらない作品でしたね。
主演のコリン・ファレルとブレンダン・グリーソンはマクドナーが監督した『ヒットマンズ・レクイエム』(2008年公開)にも出演しています。何ならコリン・ファレルは『セブン・サイコパス』(2012年公開)。ブレンダン・グリーソンはマーティン・マクドナーのお兄さん ジョン・マイケル・マクドナー監督の『ザ・ガード~西部の相棒』(2011年公開)にも出演しています。とは言っても私3作品とも未見。ちょっと予習しておきたかったんだけどなぁ。ちなみにコリン・ファレル出演作だと電話ボックスから動けなくなっちゃう『フォン・ブース』(2002年公開)がオモロいですよ。そう言えば去年公開の『ザ・バットマン』ではペンギン演じたな。
大人になってからの友達
まず感じたのは大人になってからの友人関係の難しさ。そもそも大人になってから友達ってなかなか出来ないんですよ。社交的で誰とでも仲良くなれる人は関係ない話かもしれませんが、仕事という環境だとプライベートに踏み込むのは少々憚られるし、そもそも出会いの場自体も無かったり。結局片手で数えられる程度の学生時代の友人と年に数回程度会うだけになってたりするわけで。(いや待て、俺自身がそうなるの早くないか…) だからこそあの4~50代というタイミングで友人からの絶交宣言は相当胸に応えるだろうなと。観ていてなかなか沈痛な面持ちになりました。
ただ絶交したくなる気持ちも理解は出来ます。厄介な事に人っていつも一緒に居ると急に嫌になる時やただの良い人が相手じゃ退屈に感じる時もあります。これは友人関係じゃなくても恋愛関係や家族関係でも当てはまるかもしれません。そこに絡んでくるのがミドルエイジクライシス。“このままじゃマズい、何か変えなきゃ”みたいなどうしようもない切迫感が拍車を駆けます。「人生は死ぬまでの暇つぶし」ってのも思わず“ウッ…”となる台詞。他の映画でも聞き覚えがあるんだよな。
それは争いの根源
そんな大人になってからの友人の在り方を考えさせらてる間に鈍感なパードリックと愚直なコムルの衝突は収拾のつかない状態に。遂には凄まじい事が起きてしまいます。ここにきて本土で勃発しているという内戦が良いスパイスになっている事に気付かされました。
ちょっとした意見の対立やすれ違いがいつの間にか大きな溝になっている。これが国家間で起きるとヘイトや貿易摩擦、最悪の場合国交断絶や戦争という結末を迎えるわけですよね。なので私は1年経っても解決に至っていないウクライナ侵攻が頭を過って仕方なかったです。
一見ミクロなテーマを扱っていると思いきやマクロなテーマだったとでも言えば良いのでしょうか。おっさん二人の小さな内戦は争いや対立の根源だったのです。こうした国際情勢にもリンクする普遍的なテーマをブラックかつスマートに描いているのは天晴れ。こりゃスゲーよ。
まとめ
以上が私の見解です。
結構ネタとしては痛烈ですが、しっかり笑える作品です。鑑賞中の場内からは時々クスクスと笑い声が聞こえてきましたし、私の隣に座って方、爆笑するのを堪えたのか過呼吸みたいな笑い方してましたし。クックッ…うぅ…みたいな。こういう空気感が醸し出される作品は良い映画だと思います。
ちなみに観る人によってはビールが飲みたくなる映画です。アイルランドは黒ビール(スタウト?)が主流なんでしょう。パブで提供されてたの多分ギネスビールですね。あぁ今度見つけたら買おう。
ということでこの辺でお開きです。ありがとうございました。