キャプテン・シネマの奮闘記

映画についてを独断と偏見で語る超自己満足ブログです

第54回:映画『地獄の警備員』感想と考察 ※『孤独のグルメ』についても

今回は、現在公開中(公開って言っても新宿のケイズシネマだけ?)の『地獄の警備員』について語りたいと思います。毎度のことながら、ネタバレ注意です。

 

 

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↑この影の演出が良い。不気味です。

 

イントロダクション

 去年『スパイの妻』でベネツィア国際映画祭で銀獅子賞を獲得したことで話題となった黒沢清監督の初期の頃のホラー作品。初公開が1992年なので29年ぶりの復活ということですね。

バブル期の勢いに乗る総合商社。そこに絵画の取引担当として勤務することになった主人公の女性(久野真季子)。初出勤と同じ日に元力士の男 (松重豊)も警備員としてやって来る。この男、実は殺人を犯しているものの精神鑑定の結果、ムショを免れた殺人マシンだった。

今作を私が観たかった理由として黒沢監督の作品という理由もあったのですが、松重豊が殺人鬼を演じているのが気になったからでした。私、松重豊主演ドラマ『孤独のグルメ』が大好き。Netfilxで定期的観てしまう作品です。殺人鬼なんてあの一人飯を楽しむ穏やかなキャラとは全く異なりますし、しかもデビュー作だとかそんな話も耳にしていたのでこれは観ないとなと思ったのです。

 

※ちょっと脱線して

せっかくなので『孤独のグルメ』の魅力をちょっくら語らせてもらいます。ざっくりあらすじを言うと、海外雑貨を扱う個人経営の男が仕事で訪れる先々でご飯を食べる。それだけなのにハマる理由が大きく3つあると思います。

 

1.30分というお手軽さ

まずはその短さ。スペシャル版を除けば、どの回もだいたい30分程度。この短さが丁度良いのです。私の場合、仕事で夜遅くなった時や地上波のTVドラマを観終わった後などに何か観たいと思う気持ちにフィット。サクッと観てサクッと満足感を得られるわけです。ただ夜中に観るとお腹がすくリスクがあるので、ダイエット中や健康に気を遣っている人にはおススメしません。

 

2.敷居の低さを感じるグルメ番組

これは私の勝手なイメージかもしれませんが。私、グルメ番組はあまり好きではありません。ミシュランで星取ったとか、得体の知れない高級食材とか…。まぁそれは良いんですけど、こういった物をさも“私は舌が肥えているので”みたいな上から目線なコメントをするグルメぶった人たちの調子に乗った言動がいけ好かないです。「コイツら何様だ、そんなんで視聴者が喜ぶと思ってんのかよ。」ってなります(言い過ぎかw)。

しかしこの番組は違います。訪れる店もそうですが、飾り気のない素人丸出しなコメントはリアリティーを感じますし、心底美味い物を喰ってるんだろうなという料理の良さを感じられます。この敷居の低い雰囲気が心をホッとさせてくれるのです。

 

3.今こそお手本にしたい喰いっぷり

 ここ最近、食事中の会話を避けてもらうためか「黙食」なんてワードを見かけるようになりました。このワードを初めて目にした時、私が真っ先に頭に浮かだのがこのドラマでした。一人でふらっと飲食店に入り、メニューと睨めっこ。頼んだ後は店員や客を観察し店の雰囲気を楽しむ。そして目の前においでなさったメシを黙々と口に運び「食」と対話する。「黙食」のテンプレじゃないですか。

勿論、誰かと食事をして美味いもマズいも含めて感動を共有することは楽しいことです。でも時には、いや特に今の時期は一人で黙々と「食」とコミュニケーションをするのも悪くないと思います。

 

今の社会にも通ずる「企業モノ」として

 あーだいぶ脱線しましたね。いかんいかん。本筋の『地獄の警備員』の話に戻りましょう。まずは、ホラー要素とは別の観点で興味深く感じた部分から触れていきます。

つい最近、オリンピック組織委員会元会長森喜朗氏の「女性が居ると会議が長くなる」発言で、かなり物議を醸した女性蔑視の問題。そもそも会議が長くなるのは、男女関係なく話すのが下手な人や何度も同じ質問をしたりする理解力が乏しい人が居るからなので、ジェンダーの問題として大きく取り沙汰すにはちょいとズレが生じてしまうように感じた私の違和感はどうでも良くて、今作の主人公はこの発言の比じゃないレベルで酷い仕打ちを受けてます。

まず序盤からおやっ?と思う描写がありました。それは主人公が配属部署の場所を警備員に確認する描写。本人確認を取る際の警備員が、何とも言い難い嫌な感じがしました。まるで品定めをするようなその目線の動かし方は、若い女性が相手だったからじゃないかと私には感じられました。警戒という意味合いがあるにしてもわざとらしいく、恐らく相手が男性だったらやらないんじゃかと思います。

さらに大杉漣が演じる上司が強烈。パワハラとセクハラのダブルコンボをかましてきます。かなり倒錯した感情をお持ちのキャラクターで別の意味でホラーなので、こんなには酷くないにしても、こうした人は当時珍しくなかったのかもしれません。あっ今もか…?

こうしたブラックな環境にもめげずに仕事をこなす主人公。それでいてサイコ野郎に命を狙われるわけですから可哀想に。泣きっ面に蜂もいいとこです。

 

「怖い映画」とは?

 では、核の部分であるホラー要素について思ったことを述べましょう。先に結論を言うと今作は、昨今ではあまりお目にかかれないタイプの気味悪いホラー作品でした。

昨今のホラー映画では「ジャンプスケア」と呼ばれる手法が主流です。突然のバカデカい音や急に現れる幸の薄い顔した連中…。あの手この手で驚かしてくるこのテクニックから得られる感情は、厳密に言うと「びっくり」であって「怖い」ではないと思ってます。こうやって書いてるってことは、お察しのとおり「ジャンプスケア」にはあまり良い印象を持っていません。はっきり言って苦手です。私、お化け屋敷とか嫌いですもんw。急に変な格好した人が目の前に来るとか、単に心臓に悪いだけで気分が悪くなります。まぁ映画の場合見慣れてしまったせいか、ある程度タイミングが読めるのでライトな気持ちで鑑賞出来るんですけどね。

だから「お化け屋敷や肝試しは苦手だけど、ホラー映画は普通に観られる」といった話をすると不思議がられることもあるんですけど、私の好むホラー映画は今作のような作品なのです。例えば度々登場する警備室の窓口。小さな小窓の周りを埋め尽くす貼り紙。脇に置かれた消火器。壁のシミ。文章にして書くと何とも思わないありがちな光景ですが、これがかなり不気味。地下階ということもあり全体的に暗く、息の詰まりそうな重苦しい雰囲気が漂っています。こうした何も起きていないのに不気味な映像が随所で観ることが出来ます。

また殺人鬼の動機が不明で謎が多い人物像なのも良いです。『ダークナイト』や『ヒッチャー』を取り上げた時にも触れたかもしれませんが、「分からない」や「理解出来ない」って怖いんですよね。ホラー映画で言えば『悪魔のいけにえ』(1974年公開)が代表的ですかね。今作とも共通している点ですが、理由も分からず次々と殺されていくなんて最悪過ぎる(褒めてます)。『シャイニング』(1980年公開)なんかも、ジャック・ニコルソン演じる主人公の狂っていく理由が明確に提示されないからこそ怖かったように思います。

驚かすという安易な手法ではなく、画面全体から滲み出てくる気持ち悪さや不安を煽る演出でアプローチをしてくる。これぞ「怖い映画」だと改めて感じた映画体験でした。

 

まとめ

以上が私の感想と考察です。

あっ暴力描写に触れてなかった。直接グロくて過激な感じではないのですが、非常に衝撃的。特にロッカー使い方には悶絶。人をボキボキに折りたたんで収納してしまったり、ロッカーにぶち込んでロッカーごと押し潰してみたり。ナイスアイディアです。

今作が上映している場所は限られていますけど、ニューマスター版の円盤が出るのかな?円盤で観るのも一見の価値ありだと思います。

それではこの辺でお開きです。ありがとうございました。