キャプテン・シネマの奮闘記

映画についてを独断と偏見で語る超自己満足ブログです

第137回:映画『ブレット・トレイン』感想と考察 ※原作小説『マリアビートル』についても

今回は現在公開中の映画『ブレット・トレイン』について語っていこうと思います。毎度のことながら、ややネタバレ注意です。

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イントロダクション

日本の小説家 伊坂幸太郎の「殺し屋シリーズ」第2作目にあたる『マリアビートル』のハリウッド映画化。とうとう伊坂幸太郎作品が国際的にメジャーになる日がやって来ました。やったぜぇ!っと書いている通り私、伊坂幸太郎の大ファンです。いつだかのブログでも書きましたが、小学生か中学生の頃の読書感想文の課題で『ゴールデンスランバー』を読んで以来定期的に読んでいる作家さん。家にある小説も伊坂幸太郎作品が多くを占めています。『ゴールデンスランバー』や『アヒルと鴨のコインロッカー』を始め日本ではいくつか映画化されてきましたが、ハリウッドで、しかもブラピという超ビッグスターが主役だなんて想像もしてませんでしたよ。

とにかく運が悪くあらゆるトラブルに巻き込まれる殺し屋“レディバグ”(ブラッド・ピット)。そんな彼が請け負ったのが、東京発の高速列車でブリーフケースを盗んで次の駅で降りるというシンプルな仕事。盗みは成功するも列車内には他の殺し屋たちも乗車しており、おかげで降車のタイミングをことごとく失っていく。そして終点の京都には殺し屋界隈でも恐れられる犯罪組織のボス、“ホワイト・デス“が待ち受けていた。

監督はデヴィッド・リーチシャーリーズ・セロンが最高に格好いいスパイ映画『アトミック・ブロンド』(2017年公開)は非常にシャープな作品でしたが、それ以降の『デッドプール2』(2018年公開)と『ワイルド・スピードスーパーコンボ』(2019年公開)は悪ノリ映画といった感じの方。『デッドプール2』は嫌いじゃないけど前作の方が良かったと思いますし『ワイルド~』の方はワイスピの本チャンメンツと喧嘩別れした挙句に撮ったよく分からない作品といった印象。今作も悪ノリ路線なんだよなぁ、伊坂作品とのマッチングは如何に。

主演のブラッド・ピット(1999年公開『ファイト・クラブ』)以外にはサンドラ・ブロック(1994年公開『スピード』)やブライアン・タイリー・ヘンリー(2021年公開『エターナルズ』)。日本からは真田広之(2003年公開『ラストサムライ』)や福原かれん(2016年公開『スーサイド・スクワッド』)が出演するめちゃくちゃ豪華な布陣。個人的にはアーロン・テイラー=ジョンソンが出ている事がお得ポイント。『キック・アス』(2010年公開)は俺にとっちゃバイブルみたいなもんだし。あぁダメ元でジャパンプレミアに応募すべきだったか…。

伊坂幸太郎作品について語ったのはこちら。

captaincinema.hatenablog.com

まずは原作『マリアビートル』について

まずはこっちに触れなきゃ気が済まぬ。映画を観る前に改めて原作を読み直しました(何なら今は「殺し屋シリーズ」の1作目の『グラスホッパー』も読み直してるし)。

あらすじとしてはイントロダクションに書いた内容とほぼ同じ。息子の仇討ちを目論むアル中の元殺し屋「木村」。その木村の復讐相手で頭脳明晰なサイコ中学生「王子」。業界からも一目置かれる腕利きの二人組の殺し屋「蜜柑と檸檬」。ツキのない弱気な殺し屋「天道虫」の5人を中心に新幹線内で繰り広げる群像劇っぽいミステリー小説です。

この登場人物の中でひときわ目立つのが「王子」。14歳の顔の整った頭脳明晰な中学生男子で一見すると聞き分けの良い優等生に感じます。しかし心の奥には残虐なサイコパシーを隠し持っており、狡猾な情報収集力とマインドコントロールを駆使して、屈折した好奇心を満たすヤバい奴。おまけに「天道虫」とは違って強運の持ち主でもあるので面倒にも程があるキャラクターです。

この「王子」が殺し屋たちを攪乱させるのが物語の軸となっていると思いますし、彼のシーンで作家自身のメッセージが込められているように感じます。印象深いのが「なぜ人を殺したらいけないの?死刑制度や戦争はあるのに」と各キャラクターに尋ねるシーン。完全な悪党には見えないけれど殺しという非道な商売している殺し屋たちは、各々そのキャラに見合ったアンサーを語ります。この善悪グレーな聞かれると困る問いは読み手も考えさせられますし、作家自身の問いに対する模索も伺えます。

そんな絶対的悪の象徴として描かれる「王子」が映画ではどう扱われるのでしょうか。勿論伊坂作品らしいシュールでユーモアのある会話劇や散りばめられた伏線が鮮やかに回収されるストーリーも踏まえているかどうかも見所ではありますが。

これを踏まえて

結論から言うと物足りなかったです。まぁ客観的に観たらそれなりに楽しめるアクション大作だとは思うんです。伊坂作品らしいユーモアの雰囲気は捉えていたと思いますし、伏線回収も割としっかりしてました。ただ、先ほど語った「王子」についての描写が腑に落ちません。性別が男子から女子に変わったことは別にどうでも良いんです。そうではなくキャラの設定までもが変わり、かなり単純なキャラになっていました。動機が○○の娘だからって…違うなぁ。なぜ人殺しはダメなのか問題も全く触れらず。そのため原作での核となるテーマがごっそり抜け落ちていた印象です。

伊坂作品の多くが「王子」のようなどうしようもない悪や巨大な力に対して非凡な人々はどう立ち向かうのかという勇敢さが語られる事が多いとも感じていたので、ここを抜かれちゃうとね、どうしても物足りなさは否めませんでした。

原作云々のみならず、新幹線内という狭さと一般の乗客がいる環境を生かしたアクションがもっと欲しかったかし、各キャラの回想シーンが微妙にテンポ悪くしていると感じたのも理由ではあります。

ちなみに盛岡行きの東北新幹線から京都行きの列車に舞台が変わっていたことに関しては、しょうがないね。伊坂作品の多くが仙台を中心とした東北が舞台になるので、踏襲して欲しかったという思いはあります。でもがまぁハリウッド映画だし、京都の方が知名度あるのは間違いないので。静岡駅の治安の悪さと米原駅の山岳地帯の無人駅は面白かったです。

まとめ

以上が私の見解です。

まぁつべこべ言ってきましたが、まさかのペットボトル大活躍やカメオ出演遊び心、リボルバーのシリンダーコロコロ装填、そして麻倉未稀の「ヒーロー」が爆音で流れる中で繰り広げる真田広之のアクションシーンはテンション上がりました。って言うか真田広之は終始カッコ良かったな。等々好きなポイントはちょこちょこにあったのですが全体的にはもう一声といった感じです。

そしてとりあえず原作未読の方は読んで欲しいですね。映画ほどの派手な展開はないですが、読後にはきっと爽やかな気分を味わえると思います。

ということでこの辺でお開きです。ありがとうございました。

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↑最後に前売り券の写真を。ハイセンスなデザイン、これは買っちゃうわな。