キャプテン・シネマの奮闘記

映画についてを独断と偏見で語る超自己満足ブログです

第210回:映画『VORTEX ヴォルテックス』感想と考察

今回は現在公開中の映画『VORTEX ヴォルテックス』を語っていこうと思います。毎度のことながら、ややネタバレ注意です。

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↑花!カッコいいっすね

イントロダクション

病を患った老夫婦を分割映像による2つの視点から同時進行で描いた作品。

心臓に持病を抱えた映画評論家の夫(ダリオ・アルジェント)と認知症の元精神科医の妻(フランソワーズ・ルブラン)。妻の認知症は日に日に悪化の一途を辿り、日常生活へも支障をきたすようになっていた。そこへ離れて暮らす息子(アレックス・ルッツ)が訪ねて来る。彼自身も多くの問題を抱えており、両親に付ききっりというわけにはいかない状況だった。

監督はギャスパー・ノエ。私、初ノエ作品となりました。有名どろこの『アレックス』(2002年公開)や東京が舞台らしい『エンター・ザ・ボイド』(2009年公開)は予習も兼ねて観ておこうと思ったのですが…。間に合わなかったので復習って事で観てみよ。

出演者での注目はやっぱりダリオ・アルジェントでしょう。役者としての登場は初、映画監督としてはマリオ・バ―ヴァやルチオ・フルチと並んでイタリアンホラー いわゆるジャッロ映画をけん引してきた巨匠です。近年ジャッロ的要素を含んだ作品(2021年公開『ラストナイト・イン・ソーホー』等)が多くあり、ちょっとしたブームだったような。監督本人の作品でいえば『ダークグラス』(2022年公開)が最近公開していました(日本公開は今年か)。個人的にはダリオ・アルジェントと聞くと『ゾンビ』(1987年公開)のアルジェント版が思い浮かびます。たしか尺を短めにカット&冒頭にゾンビ発生源の理由付けのシーン(惑星だかの爆発による放射線?)があるバージョンですよね。とはいえ私が一番観てるはディレクターズカット版な気がする。あーなんか久々に『ゾンビ』観たくなってきた、定期的に観たくなるのよね。

先に壊れるのは…

まずいっておきますが、大きな病気をしたとか近いうちに定年後の生活が待ってます な方々はあんまり観ない方が良いんじゃないか?あまりに生々し過ぎるので年齢を重ねるごとに観るのが辛くなっていくであろう映画です(観客はご高齢の方が多そうだっただけに)。

どんな人間にも必ず訪れる老い。老いれば体の節々にガタが生じ、病気にもなりやすくなるのは生きていれば誰もが通る道です。では老いて病に侵された場合、先に壊れるのは身体かそれとも精神なのか?こうした普遍的な恐怖に真摯に向き合ったある種ホラー映画だと感じましたし、病は人と人との間に隔たりを作り出し、肉体的そして精神的に破壊する究極の暴力と捉える事も出来るとも思いました。こえ~。

そんな老いと病によって緩やかに崩壊していく様をスプリットスクリーンで冷徹に映し出されており、父/母/息子三者の繋がれそうなのにすれ違ってしまう曖昧でもどかしい距離感が表現されています。個人的には施設に入れるか否かでお母さんを真ん中にお父さんと息子が言い合いになるシーンが凄かった。距離感がほんと絶妙でしたね。

この非常に効果的な使われ方をしている2分割画面ですが、慣れるのにはちょっと時間を要しましのも正直なところ。どっちか片方ばかり気にして注目してしまうと、もう片方が何をやってたかを見逃すという事が序盤何度かありました。そういえば観ている最中、チャーリー・プースのセレーナ・ゴメス フィーチャリング曲「We Don't Talk Anymore 」のMVなんかも思い出しましたけど、あれよりはゆっくり&同じ空間で展開してる事が多いので追いやすいかも。いや、画面が大きいと追いづらいってのもあるか。

まとめ

以上が私の見解です。

画面2分割のスプリットスクリーン以外にも、最初に洒落たクレジットが流れる構造やタイトルが出た後、ひらすた本筋とは関係のない顔面アップの女性の歌唱シーンを見せられるといったようにかなり特殊な作りの作品となっています。監督さん、映画で何が出来るのかを色々実験がしたいんでしょうね。そうなると他作品も相当クセがあるんだろうな、合う合わないがハッキリしそう。

という事でこの辺でお開きです。ありがとうございました。

第209回:映画『ナポレオン』感想と考察 ※『ブラック・レイン』についても

今回は現在公開中の映画『ナポレオン』について語っていこうと思います。毎度のことながら、ややネタバレ注意です。

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イントロダクション

フランスの英雄として名高い皇帝 ナポレオン・ボナパルトの半生を描いた歴史大作。

18世紀末のフランスは革命によって大きな混乱に揺れていた。そんなフランスの若き軍人 ナポレオン(ホアキン・フェニックス)は天才的な統率力を発揮。各地で快進撃を繰り広げ、クーデターにも成功して皇帝にまで昇り詰めていく。しかしその一方、一目惚れで結婚をしたジョゼフィーヌ(ヴァネッサ・カービー)とは、なかなか上手くいかず変にねじ曲がった関係が続いていた。

監督はリドリー・スコット。『エイリアン』(1979年公開)や『グラディエーター』(2000年公開)、直近では『最後の決闘裁判』(2021年公開)といった様々な作品を手掛けてきた巨匠。そんな中でもやっぱり見逃せないのが『ブレードランナー』(1982年公開)でしょう。なんでしょうね、あの唯一無二な世界観。決して凄く面白いわけではないんですけど一体何回再上映を観に行ったかな?底知れぬ魅力があるSF映画の金字塔です。

主演のホアキン・フェニックスは今や大スターとなりました。やっぱり『JOKER』(2019年公開)が大きかったのかな。『容疑者、ホアキン・フェニックス』(2010年公開)で一回消えたとは思えない活躍ぶりです。そういえば『ボーはおそれている』の日本公開が決まりましたね。楽しみです。そして本作のもう一人の主役といっていいのがヴァネッサ・カービー。「ミッションインポッシブル」シリーズにも出ていますし、お産のシーンが凄まじい『私というパズル』(2020年公開)なんて映画もありましたね。

「不可能」の文字はあった

ナポレオンと言えば「我が辞書に不可能という文字はない」ってのが名言として残ってますが、いや不可能な事あるじゃないすか。それが夫婦円満

婚約した時期から早々に仲が良いのか悪いのかよく分からない微妙な関係を続け、結局世継ぎ跡取り云々で離婚というか別居というか。浮気が分かれば戦線放棄もするわでなかなか無茶苦茶です。っていうかあの"マッマッ"と口をパクパクさせて奥さんに惚気るのは一体誰の思いつきだよwあれが史実って事もあるの?w高速ピストンといい場内の空気的に笑っていいのか迷いましたね。そもそもナポレオンさん自身がちょっとウジウジしたマザコン気質があるよに見えるんです。だから夫婦仲が変になるんじゃね?ジョゼフィーヌさんが奔放で肝っ玉ってのもあるんだろうけど。

この不可能な夫婦円満が後々のキャリアに響いたのか、次第に勢いを失っていくナポレオンさん。兵術の才があった事で人気となり皇帝にまで上り詰めたけれど、英雄というよりもそんなに強くない男というのが今作のナポレオン像でした。まぁこの強くない男ってのは割と監督作品では多いですよね。『悪の法則』(2013年公開)然り前述『最後の決闘裁判』然り”男より女の方がつえ~” みたいな路線が今作にもあった気がします。

まとめ

以上が私の見解です。

率直に言うと愛憎劇より戦闘のシーンがもっと観たかった。ワーテルローの戦いでのイギリスの方形陣とかアツかったです。『レッドクリフ』(2008年公開)思い出しちゃった。大砲もバカスカ撃ちまくるし数の暴力としか言いようがない人馬と贅沢過ぎる映像だけにそう思いました。でもあれだけ贅沢なのになんて言うさらっとした平熱感があったよね。愛憎劇パートだって割っとさらっとしてたし。あっそれはAppleTVで配信される4時間越えと噂のバージョンで濃くなるのか?AppleTVに加入する気はないけど、気になるなぁ。DVDとか出ないかなぁ。

という事でこの辺でお開きです。ありがとうございました。

※ちなみに

一部映画ファンはお気付きでしょうが、実は現在リドリー・スコット監督作品がもう一つ映画館で流れているのです。それが午前10時の映画祭で上映している『ブラック・レイン』(1989年公開)。私『ナポレオン』を観に行く前にこちらを観て、一人勝手にリドスコ祭りをやっておりましたので、その話もさらっとしておきます。

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NYで逮捕したヤクザの頭(松田優作)を大阪へ護送。しかしなりすましの警官に引き渡すというミスを犯した事で異国の地で何としても逮捕しようとする刑事たち(マイケル・ダグラスアンディ・ガルシア)が描かれます。

ヤクザ映画的な任侠モノとハードボイルドなノワール映画を掛け合わせたような作品。そしてマイケル・ダグラス高倉健の日米バディ映画でもあります。バディっていうかブロマンスといっても良いかも。警察組織やお国柄違いを超えて築かれる絆に痺れます。

また、舞台である大阪がまさに『ブレードランナー』と化しています。本当は新宿歌舞伎町で撮りたかった的な裏話をどっかの雑誌で読んだ気もしますが、大阪でも充分な画になっています。道頓堀のごちゃついた感じも去ることながらあの阪急梅田駅のとこが良いですね。現在は名残があるだけになっちゃってますが、昭和モダンな感じが格好イイです。あと屋台でうどん食ってるシーンが「ブレラン」ですね。“2つで充分ですよ~” それ以外にもやたら麺を啜ってる場面が多かった印象。健さん、初登場シーンはそば食ってたし。飯食ってるシーンが残る映画は良作です。

リドリー・スコット作品の中で純粋な面白さで選ぶなら今作が一番かもしれないです。そういえば以前『ブレードランナー』の再上映を会社の同期と観に行って微妙な顔されたこと思い出したわ。こっちオススメすべきだったかねぇ~。

第208回:2023年を映画関連ニュースで振り返る

気付けば今年も残りあと1か月。ついにこの自分だけ楽しい企画を行う季節となりました。思えば今年はコロナウイルスの話題も薄まり人々が良くも悪くも活動的になってきたのでしょうか。年明け早々闇バイトなるバイト感覚で犯罪に手を染める若者たちが社会問題に。某海賊アニメへの風評被害もさることながら、やはり根本にあるのは経済的あるいは精神的貧困や不景気という事になるわけで、対策が急がれる岸田首相は爆弾による襲撃に遭うというきな臭い事件も起こりました。G7広島は成功したのかもしれませんが、経済対策や少子化対策(こども家庭庁?)、マイナンバーの不備をどうにかしてくれというところで問題は山積み。支持率低下もあってか増税メガネなんてイマイチな蔑称まで飛び出しました。

そんな日本において今年最も大きなニュースとなったのはジャニーズ性加害問題でしょう。ジャニー喜多川による悪行は、過去に一部週刊誌での報道や暴露本の出版があったものの真剣に向き合う事を避けてきた日本社会。BBCという他国からの糾弾には黙ってられなくなったのでしょう。社名変更や所属タレントの相次ぐ退所、CM/歌番組への出演の大幅減少、さらに紅白歌合戦への出演が一切なしと波紋を呼んでいます。(だからといって流行語大賞の候補に性加害がノミネートされるのは流石に気持ち悪さを感じます、流行りみたいに言うのもねぇ)

そして世界に目を向けてみると、ウクライナ侵攻(まさかレオパルト2に注目が集まるとは)の終わりが見えない状況下でイスラエル ガザ地区の軍事衝突が苛烈化。ワイ島の山火事トルコ・シリア大地震もあり、いよいよ世界が黙示録的なフェーズにでも突入したかのように混迷を極めています。

その他、ヌートバー「アイドル」インボイスカイラサ合衆国チャットGPTDon't worry I'm wearingクマ被害ウータン卒業が話題となった2023年。映画関係でも様々なニュースが飛び交いました。細かいニュース含めると膨大な情報量となるので、個人的にデカかったと思う話題を偏った独自見解まみれで振り返ってみようと思います。

↓こちら中野サンプラザでの一枚、再開発に伴い今年閉館となりました。

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↓去年の内容はこちら

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変わる配信サービス業界

まずは、毎年目まぐるしく変わる配信サービス業界の話からいきましょう。

私、今年からU-NEXTに加入しましたが、今年U-NEXTはParaviと統合しました。まぁ統合というかU-NEXTが吸収したといった方が良さそうですが、これで国内最大規模の配信サービスになったのではないでしょうか。U-NEXTって映画・ドラマに限らずエンタメ総合プラットフォームって感じ。有線サービスのノウハウを活かしてのサービス展開でしょうね。(就活の時、USENの採用試験受けたっけなぁ…)

また『怪物』でカンヌ国際映画祭脚本賞を受賞した坂元裕二は、Netflixと5年契約を締結。その1発目として映画『クレイジークルーズ』も11月配信されました。坂元裕二の作品は暫くはNetflix独占という事になるのか?『東京ラブストーリー』などTV業界で活躍してきた方が配信サービスに鞍替えって事ですから時代を感じさせます。

さらにGAYO!のサービス撤退Paramount+が日本上陸と新旧プラットフォームが群雄割拠状態。世はまさに配信サービス戦国時代です。いち消費者としては困ったものです。観たい作品ごとに独占配信されているプラットフォームが異なるので、一体どれだけサブスクの掛け持ちしないといけないんだって話。評論家やコメンテーターの方々はさぞかし大変でしょうね。

これら配信業界の煽りを受けたのは間違いないでしょう。国内最大規模を誇ったSIBUYA TSUTAYAでの店頭レンタルが廃止となりました。渋谷に行く用事があれば、ほぼ必ず覗きに行っていたレンタルコーナー。平気で1時間近くブラブラしてしまうその物量は私にとって“こんなに観た事ない映画があるのだ”という洗礼を受け、映画への思いを引き締める場所だったんです。ネットでレンタル出来る?違う、そうじゃないんだ!大事なのは「所狭しと陳列」なのよ。一時代の終焉は哀しいものです。

↓『怪物』についてこちら。

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ハリウッドでのストライキ

こうした配信サービスの隆盛は映画を作る側の人々にも影響を与え、それらによって起きた問題解決のためハリウッドが立ち上がりました。

5月から約1万人の脚本家が加入する全米脚本家組合ストライキを行う事を発表。その後7月からは追随するようにハリウッド最大規模の組合である全米俳優組合ストライキを始めました。俳優と脚本家の同時ストは1960年代以来63年ぶりとなり、製作停止による作品公開日の延期や俳優のプロモーション活動停止によるハリウッドスターの来日キャンセルも相次ぎました。

そのストライキの内容は、動画配信サービス関連企業に対するの適切な賃金やロイヤルティの是正と人工知能(AI)を使用する際の保証が主な争点となりました。

まず動画配信におけるギャラの問題ですが、こちらは以前から問題として話題となっていたかと思います。一昨年の本企画で取り上げました MCU作品『ブラック・ウィドウ』が当初、劇場公開のみの契約だったはずが配信サービスとの同時公開によって貰えたはずのロイヤルティが減ったという事で、主演のスカーレット・ヨハンソンがディズニーを提訴したなんて話もありましたし、後でまた名前が登場しますクリストファー・ノーラン監督も動画配信関連で揉めてワーナーブラザーズと手を切った話がありました。この問題に関しては有名役者/監督だから表沙汰になったわけで、他にもこうしたトラブルが絶えなかったからこそ今回の動きとなったのでしょう。

またAIに関してはどうなんだと驚きましたよ。AIでスキャンした俳優を作品に出して永続的使うみたいな。で、報酬はそのスキャンした際だけ発生ってそりゃ酷い搾取だこと。やくざ的にいえば“顔でメシ食ってんだ、馬鹿野郎!”です。脚本に関しても今やAIに小説や脚本を書かかせるだなんて血の通ってない無機質な事をやるなと思いました。そこまでして人件費を削減したいんですかね、世知辛い世の中です。

なお、AI技術の発展は脚本家や俳優のみならず、多くの人々の職業にも絡んでくる問題だと思います。何でも手当たり次第にAIや自動化で代替なんて事になれば、雇用がなくなりますからね。仕事がなくなればお金を得る仕組みは破綻、極論資本主義社会が立ち行かなくなるのでは?技術革新が必ずしも良いとは限らないそんな気がしてなりません。技術を開発する側のインテリさんもメリットばかりでなくデメリットも考慮してほしいものです。

現在、双方共に主張内容の合意が概ね取れ、脚本家組合は9月に、俳優組合は11月にスト集結となっています。各企業としては、動画やAI導入で恐らくどさくさ紛れのコストカットを狙ってたのかもしれませんが、そうはいかなったかな?仕事には正当な報酬を払えという事。西武そごうのストとは違ってしっかり結果が出ました。

俳優たちの不祥事

こうした時代の進歩とも戦わなくてはいけない俳優たちですが、今年は俳優の不祥事関連もちょこちょこありました。

数年前から暴行による警察沙汰やグルーミング、薬物疑惑とトラブルまみれのエズラ・ミラーが主演の『ザ・フラッシュ』。さらにDV疑惑で裁判沙汰のジョナサン・メジャーズの出演しているクリード 過去の逆襲』が公開されました。私自身どちらの作品も観に行きましたが、決してまっさらクリアな気持ちで観ていたわけではありませんでした。二人とも演技が上手いから尚更モヤモヤするのよねぇ…。

俳優のトラブルの扱いは海外でおいてどのぐらいものなのか、世論的にはどのようなリアクションなのかは分かりませんが、日本においても様々なトラブルがありました。まず広末涼子が芸能界抹消という形に。私、ぶっちゃけ不倫というパーソナルな問題程度であそこまでこっぴどくタタき潰す世間にも恐ろしさを感じざるを得ません。まぁ芸能界抹消には他にも何か理由があったのかもしれませんが。

また薬物使用の容疑で逮捕された永山絢斗のケースに関してもそうです。確かにこちらは法律違反という意味で不倫以上のシビアな判断を要しますが、二度と表舞台に出られないぐらいのプレッシャーをかけるのはちょっと違うと思います。現に逮捕後直近で公開が控えていた「東京リベンジャーズ」の最新作はそのまま公開となりましたし、過去に薬物使用歴のある方の俳優業復帰もある(沢尻エリカって復帰するのね)ので、昔ほどの手厳しい風潮は無くなったのかもしれません。

どちらも人殺したわけじゃないですしねぇ。という点で言うと自殺幇助の容疑で逮捕された市川猿之助に関しての処遇(出演映画の公開中止やNHK+での出演作の配信停止)は致し方ないと思います。映画やドラマってたいてい人が死にますからね。さすがに殺人系統の容疑の掛かった人の出演作は気が進まん…。

こうした問題は昨今のキャンセルカルチャーにも結びつくテーマ。以前どっかで書いたかもしれませんが、キャンセルカルチャーは個人各々で行うものだと思っています。”あいつが出演してる作品は観るな”と社会全体が強要し、皆で同じ方向となるのは如何なものか。それは不健全な文化だと思います。

↓『ザ・フラッシュ』と『クリード 過去の逆襲』についてはこちら。

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“バーベンハイマー”問題

てな感じで不祥事には割と寛容なところを持ち合わせていますが、こちらはちょっと看過できないぞ。それがバーベンハイマー問題です。

米国にて世界的人気を誇る人形 バービーを実写化したコメディ映画『バービー』と原爆開発者を描いたクリストファー・ノーラン監督の最新作オッペンハイマーが同日公開となり双方共に大ヒット記録。2本立てで観に行く人が増えた事もあり、ファンの間で2作品の画像を加工/合成し、キノコ雲の髪型をしたバービーや爆発を背景にキャラたちが笑っている画像をSNSに投稿するのが流行したのが「バーベンハイマー」です。

いわるゆミームというもの。まぁこれ自体は別に良いんですよ。そりゃ私も日本で育った関係上、原爆というものの恐ろしさは子供の頃から教育されているぶん不謹慎さは感じました。ただ流行りの「ネタ」ですからね。私たち自身も無自覚なうちに誰かが不謹慎だと思う事を「ネタ」として消費してたりするはずでネタやジョークには常にこうした問題が付いて回るものです。

しかしこのミームの画像に対して『バービー』の公式アカウントが便乗。画像に対して好意的な返信(リプ)を行ったのです…ってちょいちょい!それはダメだろ!個人と企業とでは社会的責任というものが大きく変わってきますし、しかも「忘れられない夏の思い出になる」でしたっけ?企業の対応としてあまりに無神経過ぎますし、リスクヘッジが出来ていないと思います。なお、先ほど取り上げたエズラ・ミラー&ジョナサン・メジャーズの問題に関してもワーナーブラザーズ関連なんですよね。世界的企業の信用問題が問われます。

なおこの騒動、なんと映画化の噂がある様子。いや、どういう事?バービーが核兵器を製造する話でしょうか(それは1979年公開の『太陽を盗んだ男』じゃんか)。それとも一連の騒動を描いた戦争や核兵器の捉え方を問う社会派映画か?どっちにしても流石何でもエンタメ消費してしまうアメリカです。

ちなみに米国における原爆使用が正当だったと考える人は減少しているといいます。それもあってか『オッペンハイマー』で被爆の実態がほとんど描かれていない事も議論になっているようです。私自身、去年広島の平和記念資料館を訪れた際、アメリカ国籍の方かまでかは分かりませんが、思っていた以上に海外からの方も来ており真剣な表情で展示をご覧になっていたのを見てその変化は感じました。ちょっと言い方はアレですが、わざわざ日本へ旅行に来て、他に沢山観光地があるのにあえて選んで訪れているわけですよ。他国の戦争の歴史に目を向ける、これは非常に立派な事ですし私たち自身も国内における被害の側面だけでなく、他国への加害の側面も注視すべきだと思いました。

っていうか早く『オッペンハイマー』日本公開してくれ!観ない事には始まらん!

↓『バービー』についてはこちら。

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『リトル・マーメイド』人種論争

ハリウッド大作での論争はもう一つ。

予告公開の時点から議論を呼んでいたディズニープリンセス作品『リトル・マーメイド』が公開となりました。主演を演じるのはハリー・ベイリーというアフリカ系女優。白い肌に赤毛というアニメ版とは異なる褐色の肌にドレッドヘアというルックスが注目を受けました。とりわけ日本ではポリコネ(ポリティカルコネクト)の影響で容姿の似ていない人がキャスティングされたなんて意見も散見されました。

私、つくづく実写映画における実在した人物や漫画/アニメのキャラクターを演じる役者を「似ている」or「似ていないか」で良し悪しを判断する傾向にまったく好感が持てません。大事なのは似ているか否かではなく「見える」か「見えないか」だと思うのです。例えば『ボヘミアン・ラプソディ』(2018年公開)のフレディ・マーキュリー。演じているラミ・マレックは本人にさほど似ているように見えませんが、不思議なものでしっかり「らしく」見えます。今年でいえばあれですね。お笑い芸人の山里亮太若林正恭をジャn…失礼、スマイルアップ所属のアイドルが演じたTVドラマ『だが、情熱はある』も見た目は似ていなくても「らしく」見えるを体現していたかと思います。実写の作品はルックスではなく「演技」というのが最大のポイントなのです。本当に似ているのが見たいならコスプレで事足りるだろうし、それこそAI生成したCG人間で代替出来ると思ってしまいます。実写化たる所以をもう少し考えるべきではないでしょうか。

なんて偉そうな事を言ってますが、本作『リトル・マーメイド』は未鑑賞。アニメ版も観た記憶がありません。最近ディズニー作品自体ご無沙汰になっているので、そもそも畑が違う話題でした。あっそういえば今年はウォルト・ディズニーが創立100周年ですって。それを記念してかリバイバル上映が何作かされてたかと思いますし、これからその記念作品である『ウィッシュ』が日本公開予定です。やっぱタイトルだけ見るとDAIGOが思い浮かぶ。宣伝大使みたいな粋な事やってないかなぁw

物価高は映画館も

そんな話題作が公開される映画館ですが、昨今の値上げラッシュがここにも影響しているようです。今年の6月以降、TOHOシネマズを皮切りに順次100円の値上げで通常料金が2000円となりました。東宝さんは黒字じゃないの?なのに値上げってのは恐らくですけど、近年の物価高の影響と予約画面のQRコードで入場可能となったチケットレス導入もあるのかなと。まぁ私は半券コレクターなので何が何でも発券しますけどねぇ!

また、新宿歌舞伎町には料金が4000円を超える映画館 109シネマズプレミアム新宿がオープン。正直あそこに誰が観に行ってるんでしょうか、めちゃくちゃ稼いでいるホストとか?悪質ホストではないだろうな。少なくとも私のような毎週映画館へ行く人間には不向きです。だって2本分でしょ?ありえねー。おまけにトー横キッズと呼ばれる人々が集う場所にあるのもカオスな光景です。

ともあれ2000円代への突入により、私自身TOHOシネマズの200円オフクーポンやU-NEXTのポイント使ってちょっとでも安く抑えようと努める気持ちが高まりましたし、観に行こうか足踏みする作品も増えた気がします。年々気軽さが薄まってる気がするんですよね。これでは映画館への来客数がより減少しまうのも懸念されます。別に話題作は良いんですよ、問題は中小規模の作品により人が集まらない事の常態化です。って考えると私みたいな人間が身を削ってでも観に行った方が良いのかぁ。

テーマパークとは?

映画離れを感じざるを得ないのはこんな所でも。

ユニバでお馴染み大阪のユニバーサルスタジオジャパン。そこから映画をテーマにした数々のアトラクションの撤退が決定したようです。まぁスパイダーマンのアトラクションはディズニーやソニーの利権が絡んでいて複雑でしょうから致し方ないのかも。しかしターミネーター2やバック・ドラフトのアトラクションが無くなるのは集客不足が理由でしょう。以前にはバック・トゥ・ザ・フューチャーのアトラクションもなくなりましたが、ディズニーリゾートのように新アトラクションはエリア増築する事で増やすのとは違って入れ替わりで対応しているようです。

まぁ今のUSJが集客を見込めるのは容易に想像が出来ますよ。ただコンセプトに統一感がないのが引っかかるんです。果たしてテーマパークと呼べるのか?という。それに、あからさまな"売れてるコンテンツ"とのコラボは金儲けのニオイが如実で嫌らしさを感じてしまいます。それとさ、一時期流れてた地元を離れたけどUSJのある大阪に引っ越して良かった〜的なCM、めっちゃ癪に障ったな。二度と地元に顔出すな!破門じゃ!

それに比べると、としまえんの跡地に今年オープンしたハリーポッターの施設 メイキング・オブ・ハリー・ポッターはテーマが一貫しており「テーマパーク」と呼べる気がします。そういえばとしまえんはなくなったけど、トイザらスや温泉施設みたいなのは残ってるのかな?

マッドマックス関連

としまえんの跡地がワーナーブラザーズ管轄だけにマッドマックスのテーマパークを期待していたのは7割冗談で、毎年恒例こちらの企画マッドマックス関連です。

さて来年にまで迫ったスピンオフ作品『Furiosa』ですが、来年のカンヌ国際映画祭でのお披露目を目指しているとの噂が。これはあくまで噂であり、やはりネックになるのが全米映画俳優組合ストライキ明けの動きなようです。だとしても、あぁじわじわ現実味を帯びてきた。つい先日、ファーストルックも出ましたし、もしカンヌで公開となれば日本公開は早くて夏から秋にかけてぐらいでしょうか。それまでは健康で文化的な模範市民として生活しなくてはw

そんな私の個人的ニュースとして、実は今年「怒りのデス・ロード」を映画館で観れていないという大惨事が…これで私の2015年から毎年1回は観ていた連続記録が途切れました。だって都内でどこも上映してませんでしたよね?畜生め!しかし「怒りのデス・ロード」の意志を継ぐ映画『SISU/不死身の男』があったのは救いとなりました。さらに映画館で観られなかった事を補うかのようにマッドマックスのゲームを購入。ご存知の方からすれば、2016年発売の随分昔のゲームじゃないかという話なんですが、訳あってPS4を入手したのがきっかけでした。やっぱりゲームになってもマッドマックス世界観は唯一無二です。ってかデス・ランムズくね?私のマシン操作がポンコツなだけか?

ってな事を書いていたら何と本日1日にUS版予告が解禁!うあぁぁああヤバいヤバい、うほっ!って何書いてんだ俺は。ちょっとテンションおかしくなっちゃいましたが、一時停止して細部を確認しながら既に10回近く見てしまってます。若かりし頃のイモータン・ジョー(演じているのは誰だ?)やピカピカなウォータンク、フュリオサ愛用のシモノフSKSと怒りデス・ロードからの流れを組んでいるだけあって血潮が沸く要素が盛りだくさん。クリス・へムズワースも髭もじゃ&変な格好で元気良く登場してます。もうここで宣言しますがよっぽどの事がない限り私にとって来年のベスト映画ですよ(スパイダーバースの新作が対抗馬かなぁ)。あぁ早く観てー。

↓リンクも貼っておきます。皆で沢山見てバズらせよな!

www.youtube.com

↓『SISU/不死身の男』についてはこちら

captaincinema.hatenablog.com

最後に

以上、8つのテーマを思う存分語りました。

その他、ラジー賞の謝罪坂本龍一逝去、またも濱口竜介監督快挙がありましたがこの辺でお開きにしましょう。来年もきっと嬉しいニュースも残念なニュースもやってきます。いち映画オタクの端くれとして今後も追っかけていく所存でございます。それではありがとうございました。

※参考

朝日新聞 2023年6月27日(火) 朝刊24頁

朝日新聞 2023年7月15日(土) 朝刊3頁

朝日新聞 2023年8月8日(火) 朝刊3頁

朝日新聞 2023年8月20日(木) 夕刊1頁

週刊文春CINEMA2023秋号 72~75頁

ハリウッド脚本家、スタジオ側と暫定合意 スト終結に向け - BBCニュース

米俳優労組、スタジオ側と暫定合意 118日間のスト終結へ - BBCニュース

『マッドマックス』シリーズ新作『フュリオサ』、2024年5月にカンヌ国際映画祭で初上映か | THE RIVER

 

第207回:映画『ロスト・イン・トランスレーション』感想と考察

今回は旧作を。現在Bunkamuraル・シネマ渋谷宮下で『ロスト・イン・トランスレーション』の35mmフィルムでの再上映がやっておりそれを観に行きましたので、本作を語っていこうと思います。毎度のことながらややネタバレ注意です。

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イントロダクション

2004年に公開した東京が舞台のロマンティックコメディ。

ウイスキーのCM撮影のために東京へやってきた中年ハリウッド俳優(ビル・マーレイ)とカメラマンの夫に同行して東京にやってきた若い妻(スカーレット・ヨハンソン)。年齢の違う2人は同じホテルに宿泊してた事で知り合いとなり、見知らぬ異国の都市 東京を流れ歩くようになる。

監督はソフィア・コッポラ。あのフランシス・フォード・コッポラ御大の娘さんですね。私、たぶんソフィア・コッポラ作品で観てるのこれだけじゃないかな?『ヴァージン・スーサイド』(2000年公開)とか観た覚えなしなぁ。

主演のビル・マーレイは観なくなりましたね。不適切な言動があったとかで干されちゃいました。『アントマン&ワスプ:クアントマニア』に出てたよく分からないおっさんが最後?ってあれはまだ今年の映画か。そしてもう一人の主役がスカーレット・ヨハンソン。どうも『ゴーストワールド』(2001年公開)の再上映がある関係でこちらの作品も再上映という事みたいです。『ゴーストワールド』は観た事がないので、この期に観に行くのもアリかな?出演作で好きなのは『マリッジ・ストーリー』(2019年公開)と『her/世界でひとつの彼女』(2013年公開)です。ちなみに日本人出演者にはダイアモンド☆ユカイ藤井隆が確認出来ます。藤井隆はいつも通り藤井隆だったのであれは笑います。

なぜ好きなのか?

本作、数年前に一度観た事のあって何故かめちゃくちゃ印象に残っていた作品でした。決して面白い!や傑作だ!ではないんですけどね。そんな映画がフィルムで再上映されるってなったら、そりゃ観に行きますよ。なぜ印象に残っていたのかを探るいい機会ですし。

で、改めて観て思ったのは面白くはないという事でした。ぶっちゃけ話自体が平凡な印象。例えば中盤のマーレイ演じる中年俳優がシャーロットさん(スカヨハ)とその現地のお友達とダラダラしてるシーンなんて特に面白い会話があるわけでもなくちょっと退屈でした。それに日本の風習を小馬鹿にしたようなコメディは確かに笑えますが、同時に悪どさも感じます。翻訳のレベルなんてそりゃそうでしょう、公用語として用いてる人からすりゃさ、本人たちはきっと頑張ってんだからバカにするのも程々にしてよ…。しかし観終わった後は“あぁ良い映画観たなぁ~”の余韻マックス。夜道を一人で歩くのがなんて気持ちが良いこと!この「面白くないけど好き」の感情はどっから来るのか?考えたあげく、私が今まで観てきた映画の中で最も現代の「東京」を上手く描いた作品だろうという結論に至りました。

生まれも育ちも東京という地元話になると引き出しが少ないつまらない私自身が思うに東京って「孤独と空虚さ」です。自分が孤独である事を紛らわそうと何かで埋め合わせする為に集まる、そんな街だと思っています。とくに本作の中心舞台となる新宿&渋谷はまさにそのもの。なんて言うか物と人で溢れているのによそよそしくて空虚。だから用が済んだらそそくさと退散したくなる気がします。

そんな街の雰囲気と主人公2人の心境が共鳴したかのようなドラマが展開されます。家族や友人は居るし恐らくそれなりの生活が出来ているので傍から見れば勝ち組な2人。しかし心は満たされず、孤独さを抱えています。その孤独さにシンパシーを覚え、年齢差はあれどプラトニックな関係が築かれていくように見えるのです。孤独をテーマにしたストーリーを東京を舞台にして描くというのは監督の優れた観察眼があっての事でしょう。

それにラストの耳元で囁くあのシーンがマジで名場面っすね。行き交う人々の中からその存在を見つけ出し、翻訳や字幕の要らない2人だけの言葉を交わす。そうして別れ際は人混みに姿がかき消されていく様はまさに「東京」。人と人の出会いと別れを集約したような素晴らしいシーンです。

まとめ

以上が私の見解です。

改めて観る、しかもそれを映画館でというのは再確認と再発見が出来て乙なものです。唐突な京都観光シーンが南禅寺平安神宮だという事にも気付けましたよ。紅葉や新緑、桜といった季節じゃないちょっと寂しい時期にロケやったんだろうね。

そういえば建物の改装か何かで仮移転みたいになってるBunkamuraル・シネマに行くのは初めてでした。場所は以前渋谷TOEIがあったところ。エントランスをちょっと変えただけで、劇場の中自体は渋谷TOEIのまんまでした。これがサステイナブルってやつか。ひと昔前の天井の高さが感じられるスクリーンは結構好きです。

という事でこの辺でお開きです。ありがとうございました。

第206回:映画『首』感想と考察

今回は、現在公開中の映画『首』を語っていこうと思います。毎度のことながら、ややネタバレ注意です。

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イントロダクション

日本のカルチャーを代表する北野武が構想に30年を費やして監督・脚本を手がけた戦国バイオレンス作品。今年のカンヌ映画祭にも出典しています。

時は戦国。織田信長(加瀬亮)が隆盛を極め、各地の大名たちと凌ぎを削っていた。そんな中、織田家家臣であった荒木村重(遠藤憲一)が謀反を起こし居城である有岡城に立て籠る。しかし城は陥落、村重は姿を消したため、信長は明智光秀(西島秀俊)や羽柴秀吉(ビートたけし)ら家臣たちに、自身の跡目相続を餌に村重の捜索命令を出す。しかし秀吉は弟の秀長(大森南朋)や軍師の黒田官兵衛(浅野忠信)らと共にこの機に乗じて、信長や光秀を殺して天下を取る事を目論んでいた。

監督は北野武。本作の公開前に色々と過去作を観ました。『その男凶暴につき』(1989年公開)や『BROTHER』(2000年公開)、『キッズ・リターン』(1996年公開)と。中でも一番好みだったのが『3-4X10月』(1990年公開)でした。ガソスタの草野球団がヤクザに因縁を付けられ、訳の分からない世界へと踏み込んでいく事になる作品。沖縄のシーンとか意味わかんないんですけど、まぁー面白いこと。テンポ感がとにかく絶妙でした。

主演は…誰なんだ?一応秀吉を演じているビートたけしなのか。個人的には明智光秀演じる西島秀俊が主役といっても過言ではない気もしましたし、恐らく本作で一番働いている木村祐一演じる芸者で元忍者の曾呂利新左衛門が主人公っていってもおかしくないよね。ただやっぱり注目は信長演じる加瀬亮でしょうか。北野作品でいえば「アウトレイジ」シリーズですが、ドラマシリーズ「SPEC」も好きでしたし、冤罪ドラマの傑作映画『それでもボクはやってない』(2006年公開)もありました。『MINAMATA-ミナマタ-』(2020年公開)や『硫黄島からの手紙』(2006年公開)と海外作品でも活躍してるし、今回改めて観て“いやスゲェなこの人”ってなりました。

こんな戦国が観たかった

私、小学生の頃は歴史オタク、とくに戦国時代オタクとして生きていた身。今でもその時の血は流れているので、城跡や戦国武将と縁のある寺社仏閣に行けば血が騒ぎますし、バラエティ番組で取り上げられてるのを見るのも結構好きです。ただし、ここ最近の大河ドラマは観ていなくて…。現在放送中の大河なんて徳川家康が主人公でストライクゾーンなネタですが、どうもしっくり来ないのです。その一番の理由は「綺麗さ」にあります。衣装や美術といった視覚的綺麗さと同時に人物描写としても綺麗過ぎちゃうんですね。登場する武将たちのほとんどが人民や平和のために戦うヒーロー。方向や形は変われど共通するこの高潔さを見ていると、本当はもっと私利私欲に満ちた人間臭さたっぷりな人々だったんじゃないかと思ってしまいます。大河ドラマのみならず、映画にしてもこうしたヒロイズムな風潮ばっかりな気がしますね。ちなみに視覚的な汚さのあるテイストでいえば以前大河ドラマ平清盛』でやって不評だった的な話も見たことありますが、いや寧ろあれ、私は結構好きでしたよ。世間と合わんなぁ…。

と思っていた矢先にこれですよ、やっとです。やっと観たかった戦国時代がここにありました。本作で描かれる戦国時代は血と泥に塗れた人間群像劇。ヒロイズム的な要素は皆無で、頭のネジが飛んでる狂人たちが「天下統一」という権力の頂点を目指した時代であって優美さや格好良さは二の次となっています。まぁ格好良さで言ったら斉藤利三(勝村政信)&服部半蔵(桐谷健太)のボディガード枠がそれ。2人が合間見えるシーンも良かったですよ。

また、どいつもこいつも勇猛果敢で狡猾…って事でもなく、どっか適当で抜けてるところがあるのも観たかった武将たちの姿でした。秀吉なんて全部家臣に任せっきりだわ、光秀も何がしたいか分からないと思ってたら急に割り切って残酷になるし。そうした部分に人間臭さが感じられ、往年のヤクザ映画やギャング映画にも精通する人物描写だと思えました。

荒木村重のまんじゅうエピソードや家康の影武者エピソードの解釈/アレンジも笑えます。でも何だかんだ一番面白かったのは中国大返しのシーンかな、あれは東京マラソンか何かですか?w ZARD「負けないで」とか流れたら傑作でしょw。

てな感じで、とにかくずっと観ていられるやつ。“えっもう終わり?”感が強かったです。あの調子で関ヶ原までやってくれても良かったよ。少なくとも秀吉、秀長、官兵衛の3人のわちゃわちゃで小田原攻めまでは観たかった。あんないい塩梅に力の抜けた大森南朋浅野忠信は観た事なかったし、いっそ大河ドラマをあのメンバーでやってくれたら最高だと妄想が膨らみます。

まとめ

以上が私の見解です。

北野作品らしいバイオレンスとコメディの調和を時代劇でやるというのが一つの狙いだったと思われる本作。とはいえかなりコメディ路線が強いので、予告だけを頼りに観に行った人はちょっと裏切られた気持ちになりそう。私自身コメディ系映画は大半苦手ですけど、これは素直に飲み込めました。不思議なもんだ。
それに今回はBL展開が多いこと。確かに主君とそれに仕える小姓との間での関係は織田信長しかり武田信玄にもあったとかで、描かれる事自体は不思議ではないんですけど北野作品って割とどの作品にも描写があったりしますよね。何を意図してるんだろう?

という事でこの辺でお開きです。やっぱ戦国好きの血が騒いだ、公開初日に観た作品の感想をその日に挙げちまったよ。ありがとうございました。

第205回:映画『愛にイナヅマ』&『正欲』感想と考察

今回は現在公開中の邦画2本立てで。と言いますのもそろそろ年末なので恒例の企画を準備している関係上、書きたい事はサクッと書いておこうという次第です。毎度のことながら、ややネタバレ注意です。

『愛にイナヅマ』

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プロデゥーサー陣に騙されて念願の企画を奪われた駆け出しの映画監督(松岡茉優)が、運命的な出会いをした男(窪田正孝)と彼女のどうしようもない家族と共に企画奪還を目指すコメディ。コロナ禍や現代日本の構造的な生きづらさ等、様々な社会派要素が散りばめられた作品。個人的に印象に残ったのは1500万円の価値と映画作りについてでした。

まず「1500万円」というワードが意識的に登場するのですが、その金額一つ取っても立場や環境で価値が変わってくるってのがなんとも言えなくなりました。映画の制作費、高級車、慰謝料、闇バイトの指示役と思わしき連中が月に稼ぐ金額…。その額面は高いのか低いのか、どう受け止めるかによって社会の不公平さが見え隠れしています。

また業界に対する皮肉と思わしき昨今の邦画事情を感じさせる描写も目立ちました。主人公が作りたいと言っていた赤を基調とした理屈より感覚を重視した映画ってデヴィッド・リンチ作品じゃないですか?それを「理解出来ない」とか「観客にウケない」といって却下する助監督さん(三浦貴大)、分かってねぇなと思いました。(あの人の何でも「若い」で片付けるのセンスねぇーw) あんぐらいの歳の業界関係者なら『ブルーベルベット』(1986年公開)や「ツインピークス」シリーズぐらい観とけ!って話です。それに命が軽く描かれているからどうのって言い争ってましたけど、そんな映画沢山ありますよ。「仁義なき戦い」シリーズとかもそうでしょ?組織や体制の中で軽視されるのは若者の命っていう。寧ろ私なんかは命を重たく描き過ぎたお涙頂戴ものなんかは受け付けませんし。こうした鑑賞者側が気付いてしまう事を分かっていない作り手がいる業界、だから観ても何も残らないしょーもない作品が量産されるとでも言いたいように見えました。痛烈~。

なお本作は盤石なまでにメンツが揃っており、演技を演技するような格好の中で各々が良い演技してました。特に今作では池松壮亮が輝いていたかな。「お前はそこで祈ってろ!」には吹いちまったw そんな豪華キャストで織りなす家族が揃ってからが本番というような映画だったので、集結するまでの前置きが長くないか?とは思いました。

 

『正欲』

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あるフェティシズムを持つ者たち(新垣結衣磯村勇斗)とゆたぼんよろしくな状況の子供を持つ父親(稲垣吾郎)を中心にノーマルな生き方とは何かを問うヒューマンドラマ。今年の東京国際映画祭コンペティション部門にも出展していました。

特殊なフェティシズムと向き合った作品だからでしょうか。「問題作」や「観る前には戻れない」なんて惹句も見られましたが、個人的にそこまでの衝撃は受けませんでした。“まぁそういう人も居るよね”ぐらいに思ったのはどうしてかを考えていたところ思い出したのがジェフリー・ダーマーでした。死体や臓器といったものに欲情する性癖を理由に17人の命を奪い“ミルウォーキーの食人鬼“と恐れられたシリアキラー。私自身、去年Netflixで配信された『ダーマー』というドラマシリーズを観てその実態を知ったのですが、まぁ言葉を失いましたよ。おまけに丁度ドラマを観ていた時期に我孫子武丸の『殺戮にいたる病』って小説を読んでたんです。こちらはフィクションですが、類似するような性的嗜好を持った人物が登場します。この意図しなかったバッティングにより一時は頭おかしくなるんじゃないかと思いました。良い子の皆はマネしないでねw。

このようなタイプとは異なり本作で描かれる特殊性癖は他人にとっては無害なもの。だからそこまで思い詰めなくてもねぇ…と思ったのです。確かに恋愛や結婚が当たり前な考えが罷り通っているため、それが上手く出来ない/興味のない人間には息苦しい社会ですが、恋愛/結婚至上主義な連中はそれこそ価値観のアップデートが出来てないですし、ジェフリー・ダーマーのような俄かには信じ難い人間が実在するのですから。

あっちなみに「価値観のアップデート」って言葉、わざと使いました。なんか嫌いなんすよね。上手く説明出来ないんですけど、胡散臭いというか、それを免罪符に他人の価値観や趣味嗜好を土足で踏み荒らすニュアンスを感じます。俺はああいう言葉を気軽に使うやつは信用せんぞぉ!

そして安定の稲垣吾郎。去年の『窓辺にて』もそうですが、良い意味で空っぽな雰囲気に味わい深さを感じます。今作でも「正しさ」を振り翳すだけのいまいち何を思って、何を軸に生きてるかが分からない人物像が面白かったです。新垣結衣もあんなに目力ある役者さんだったのね。

まとめ

以上、両作とも個性や価値観の違いを扱った作品でした。

どちらも主張したい事は分かるし演技/脚本自体も面白いのですが、視覚的面白さに欠けていた気がしました。『愛にイナヅマ』は赤をアクセントにした、『正欲』は俳優陣の視線を意識した絵作りになっているとは思いましたが、決定的ショットが弱いというか、いまいち心に引っかかるシーンがありませんでした(そういえば公開中の『ミステリと言う勿れ』でも思ったな)。恐らくTVドラマならまだ留飲は下げれたと思うんですけど、映画はどんなジャンルであってもスペクタクルやカタルシスを感じる画があって欲しいと思うのです。いやでもそうじゃなくても好きな作品はあるしなぁ…難しいものです。

という事でこの辺でお開きです。ありがとうございました。

第204回:映画『ゴジラ-1.0』感想と考察

今回は現在公開中の映画『ゴジラ-1.0』を語っていこうと思います。毎度のことながら、ややネタバレ注意です。

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イントロダクション

日本、いや全世界における怪獣映画の“キング・オブ・モンスター” ゴジラの生誕70周年記念として製作されたパニック映画。日本で製作された実写ゴジラ作品は7年ぶり、合計30作目になります。

舞台は戦後。敗戦によって多くの人や物を失った日本の沿岸域で船が沈没する事故が相次いでいた。原因となっていたのは特攻兵だった敷島(神木隆之介)が戦時中に遭遇したゴジラと呼ばれる巨大生物。水爆実験の影響で巨大化したゴジラは復興段階にある東京に迫っていた。

監督は山崎貴。「ALWAYS 三丁目の夕日」シリーズをはじめヒット作品を生み出してきている何だか評判の良い監督さん。日本におけるVFXのトップクリエイターらしいです。私『永遠の0』(2013年公開)ぐらいしか観た事がなく、正直あの作品が全く好きではなくて。だから変な苦手意識から他作品に手を出して来なかったって話なんですが、「ゴジラ」となったら黙って指をくわえているわけにもいかん!かかってこい!…いや待てよ『STAND BY ME ドラえもん』(2014年公開)は観た気がします。内容はさっぱり覚えてませんが“ドラ泣き”はしてません。

主演は神木隆之介。30歳ぐらいにして芸歴20年以上の年齢の割にベテランな方。『桐島、部活やめるってよ』(2012年公開)のタランティーノの話するシーンが忘れられん。TVドラマ『コントが始まる』も良かったな。その他浜辺美波青木崇高吉岡秀隆安藤サクラ等が出演。あの、思い違いかもしれませんが一瞬だけ橋爪功居なかったか?

ビジュは良いけど…

さぁついに本ブログでも邦画ゴジラを扱う時が来ました。私にとってゴジラシリーズは映画が好きになったきっかけの一つ。まだ幼稚園児ぐらいでしょうか。近所のレンタルビデオ店でよくvsシリーズ、いわゆる平成ゴジラシリーズを借りていたものです。懐かしいな、今ではU-NEXTで見放題ですから良いのか悪いのか。ちなみにマイベストゴジラ映画は『ゴジラvsデストロイア』(1995年公開)。1作目の『ゴジラ』(1954年公開)とセットで観るのが最高です。

そんなゴジラへの思い入れは強く、そして山崎監督作への苦手意識のあるという難しい境遇で挑んだ本作ですが、まずゴジラ登場シーンは総じて素晴らしいと思えました。序盤の掴みもナイスですし、銀座破壊シーンの容赦なさも圧巻(あぁ~日劇〜)。海上での主人公一向とゴジラの初対峙シーンは『ジョーズ』(1975年公開)っぽさが感じられスペクタクルに満ちていました。とくにゴジラ史上最高レベルの火力であろう放射熱線シーンが至高。背びれボキボキからの一瞬天を仰いでドカーン!おしっこチビるぜ。

また監督の軍事オタクさが滲み出ているのも良かったのではないかと。戦艦やら駆逐艦やらバンバン登場するし、終盤はまるで『バトル・シップ』(2012年公開)&『ダンケルク』(2017年公開)を彷彿。海軍オタクな一面でいえば、ピーター・バーグ監督じゃんかw それこそ『バトル・シップ』じゃないけど、もっとミリ系ゴリゴリのアクション映画を撮ったら面白いのでは?戦時中の日本海にエイリアン襲来!アメリカとは停戦&共闘でエイリアンをぶっ潰せ!みたいなw

ただしドラマパートは正直面白くなかったです。役者陣の演技が過剰でナチュラルさがなく、もっとリラックスしなよと思って観てました。これは演出の問題でしょうか?それともゴジラ作品というプレッシャーなのか。

また主人公が「戦争を終わらせる」決断をするきっかけがあの出来事ではテーマ性から少々ズレてる気がします。今回のゴジラが象徴するものが「戦争体験」だと思えたから尚更、あれではただの復讐であり清算や終止符には感じられません。前述『永遠の0』が苦手だったのもここなんですよ。どうも戦争や国家をテーマにしていたのに、いつの間にかパーソナルなメロドラマに寄っていく感じ。戦争ものは終始冷徹であって欲しいですね。

それに戦後が舞台なのにどうも戦後に見えない小綺麗さが漂っていたのも気になりました。45年から46年のたった1年でこんな綺麗になるんすか!?ラストも腑に落ちなかったなぁ。

まとめ

以上が私の見解です。

色々文句は垂れましたが、好きか嫌いかで言えば好きです。映画館で観られて幸福でしたしVFXゴジラも悪くなかったです。これだけの技術力があるならそろそろゴジラのみならず邦画でのキングギドラモスラもスクリーンで拝みたい。ジャパニーズゴジラさんもそろそろ人間潰すだけじゃなくて仲間たちとスクリーンで戯れたいと思うよ。

という事でこの辺でお開きです。ありがとうございました。

※ちなみに

ゴジラの日に認定もされている11月3日、公開初日に行ってきましたが、それはそれは大人も子供もゴジラガチ勢がいっぱい。おまけに場所が東宝の本丸 日比谷で観たから当然でしょう。外ではゴジラフェスがやっており、日比谷はいつもの休日の倍増しで人だかりになってました。私もね、ゴジラのTシャツという正装でいたところ鑑賞後に館内のロビーで某TV局の取材を受けましたよ。やっぱりゴジラとなるとTV局も黙ってないんだと思いましたし、これだけの集客力があるなら昔みたく毎年のように製作しても良いじゃない!ドラえもん名探偵コナン並みに稼げると思うぜ、東宝さん。

 

↓最後にこちらTOHOシネマズ新宿の一枚。おぉ平成vs令和なご機嫌な状態。地味に『ザ・クリエイター』があるのも狙っているのか、ギャレゴジ!

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