キャプテン・シネマの奮闘記

映画についてを独断と偏見で語る超自己満足ブログです

第51回:映画『ヤクザと家族 The Family』の感想と考察 

今回は現在公開中の『ヤクザと家族』についてを語っていこうと思います。毎度のことながら、ややネタバレ注意です。

 

 

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イントロダクション

ヤクザに拾われ、その道で生きることになった男(綾野剛)を、昭和・平成・令和と変わりゆく3時代を通して描いた作品。

監督は2019年公開の『新聞記者』のヒットによって一躍有名となった藤井道人。私『新聞記者』はまだ観てないんですよ。ただ同年公開の『デイアンドナイト』がかなり好だったので、ちょっと注目をしていた監督さん。本作の予告を観た時は『デイアンドナイト』と同じシックなノワール調の雰囲気を感じたこともあり、前々から楽しみにしていました。

また、主演の綾野剛と言えば去年放送していた刑事モノのドラマが記憶に新しいですね。足の速い警官役として、めちゃめちゃガンダしてました。

 

ヤクザ映画というより「愛への渇望」

ストレートなタイトル通りヤクザ映画である本作。序盤から中盤ぐらいは暴力描写の景気良しで"らしさ"満載。夜の歓楽街を肩で風切りオラつく様子も描かれます。しかし暴対法や暴排条例で徐々に衰退。令和になった頃には、いい年こいたおっさんばっかりでシノギもギリギリで厳しい状況になっています。「えー今月のシノギは1300万円です。組長の入院費があるので…」みたいな話をしている始末。こんなしょぼくれたヤクザを観られるのは案外珍しい気がしました。

ただ、本作がテーマとして最も重きを置いているのは一人の男が「愛」を知り「愛」を求める姿だと思いました。主人公の父親はクスリの金が払えず自殺をし、母親はどうもいないご様子です。いつもつるんでいるであろうヤンキー仲間は居れど心は孤独な状態なのです。そんな中で知り合ったヤクザの組長さん(舘ひろし)。この人が優しいんですね。「頑張ったな」なんて言って頭ポンポンしてくるのです。血は繋がっていなくても自分を優しく受け入れてくれるヤクザという家族の形を通して「愛」を知ることになるのです。その後業界でメキメキと腕を挙げていく主人公。そこで愛する女性であったり、息子のような存在のよく行く店の男の子なんかと出会うことになります。

つまり、本作はヤクザ映画の体を成した「愛」がテーマのヒューマンドラマなのですね。このスタイルだからこそ重厚かつエモーショナルな作品に仕上がっていたのだと感じました。

 

思い出した『プレイス・ビヨンド・ザ・パインズ/宿命

私、本作観終わった後ちゃんぽん啜りながら「この後味、他でも覚えがあるなぁー」と考えていました。あっちゃんぽんの味じゃないですよw作品の後味。そこでようやく思い出したのが2012年公開の『プレイス・ビヨンド・ザ・パインズ/宿命』でした。

 

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家族を養う為に銀行強盗を犯すバイクレーサ―(ライアン・ゴズリング)とそれを追う警官(ブラッドリー・クーパー)の因縁が、それぞれの子供たちへと引き継がれていく様を描いた作品。ストーリー自体は何ら共通点はないので、どう言ったらいいのか。上手く説明が出来ませんが、構成が3パートで成り立っていることや時代や世代を超えて受け継がれる運命・宿命を扱った作品だと感じた点、どんな手を使ってでも家族の為に命を懸ける姿が描かれている点も思い出したきっかけだったと思います。あぁ『プレイス・ビヨンド・ザ・パインズ』を改めて観直したくてムズムズしてきたー。

 

まとめ

以上が私の考察と感想です。

私の観に行った上映回は観客はおじさんが多く、恐らくヤクザ映画が隆盛極めし時代を懐古したい気持ちで観に来たのかもしれません。しかしギラついた特濃暴力映画の様相は終盤になるにつれ無くなっていくので、果たして満足出来たのか。少し反応が気になりました。

また、見方によってはヤクザ産業に同情を見せているような捉え方も出来るような気がします。それではマズい。観た人が"ヤクザ可哀想"という単純な思考に陥らなければ良いのですが。このように引っ掛かる部分はあれど余韻抜群の超良作。侮るとカウンターパンチくらいます。

また今作の主題歌である millennium paradeの『FAMILIA』のミュージックビデオを映画鑑賞後に観ると感動の強度が100倍増します。どんなラストかを知ってるからこそ、思わず泣きそうになるMV。YouTubeで視聴可能なので、映画の一部として是非観てほしいと思いました。

ということで、この辺でお開きです。ありがとうございました。

 

第50回:映画『聖なる犯罪者』 感想と考察

今回は、現在公開中の『聖なる犯罪者』について語りたいと思います。毎度ですが、ネタバレ注意です。

 

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イントロダクション

少年院育ちの主人公は、犯罪歴のある人が聖職に携われないことを知っていながらも、司祭者になりたい夢を抱えています。そんな彼が出所後、ふらっと立ち寄ったある小さな村の教会で「司祭者です!」とノリで噓ついたら、あれよあれよと司祭者として働くことになってしまうというストーリー。

これだけ書くとコメディっぽく聞こえますが、実話がベースになっているようなので映画全体のトーンは重厚感で満たされています。

本作は、去年のアカデミー賞国際長編映画賞にノミネートされたポーランドの作品でうす。日本でも大ヒットした『パラサイト/半地下の家族』と並んでノミネートされていたわけですね。っていうか私、ポーランド産の映画を観るの初めてだったかもしれないです。観たことあったかな?

 

服装のパワー

 まず序盤の方はあらすじで書いた通り、経験値ゼロからいきなり告解やミサをこなす主人公の様子が中心に描かれています。重々しい雰囲気なのですが、スマホで即興で調べた文句を使ってみたり、思い付きであろうテキトーな事を言って司祭者として振舞う姿には、つい笑いがこみ上げてきます。

例えば「息子がタバコ吸ってて、注意しても止めないからつい手を挙げてしまう自分をどうしたら…」なんて悩みを打ち明けるお母さんに対して「一度強いタバコを与えれば止めますよ」という回答。噓つけ!主人公自身はヘビースモーカーってのも皮肉なもんです。

そんなとんちんかんなことを言っているにも関わらず、不思議なことにどんどん村人たちから信頼を得ていき、本人も調子付いていくわけです。

村人たちが「牧師さんが言ってることだし…」と信じてしまう理由は、やはり服装だと思います。身なりさえしっかりしていれば、それらしいように聞こえてしまう。「服」というのは、着ているだけで何かしらのメッセージを放つメディア媒体になるということを改めて感じました。

 

知らない方が良い事もある

物語が中盤に差し掛かると、調子に乗った偽牧師が村のある悲しい過去にメスを入れ始めます。この悲しい過去とは、地元の若者たちを乗せた車と移住をしてきたおっさんの乗った車の事故。事故で両サイド共に絶命したのですが、事故の責任はおっさん側にあるとされ、彼の奥さんは村八分状態。ろくに葬式も挙げられない状況だったのです。そんな状況を見かねた偽牧師の主人公は葬式を執り行おうとします。おまけに事故の真実と思われる核心を知ったことで、より強い気持ちを抱くようになります。

この事故の真実、まぁこれを明かすと完全なネタバレになるので避けますが、私はこの真実を村人たちは薄々知っているのではないかと観ていて感じ取りました。知っているけれど、それを受け入れることが出来ないからうやむやな状態で悲しみが続いているのだと思います。そんなギリギリで保っている人々の心に、言い方は悪いですが主人公はずけずけと土足で入っていってしまったのでしょう。決して悪気はないのだけど、察することが出来なった。知らない方が良いことも世の中には存在するのだと思いました。

 

まとめ

 以上が私の考察です。聖職者として噓を付き続ける主人公の行方と掘り返された事故の記憶の着地点が気になる方は、是非チェックを。

いや、これが実話を基にしてるってやっぱ衝撃ですね。多少脚色があるにしても、出来過ぎでしょ。あと、教会に務める本作のヒロインの女優さん。なんか途中から私、ミア・ワシンコウスカにしか見えなくなってました。似てないかなぁー。

はい、ということでこの辺でお開きです。ありがとうございました。

 

※追伸

今作の内容よりも感動したことがありました。

映画館の座席で私の隣を一つ空けた席に同い年ぐらいの女性二人組がいたのですが、上映開始前に聞こえてくる彼女たちの会話がたいへん素晴らしかった。アップリンクの映画館がどうとか、去年公開の『ブックスマート/卒業前夜のパーティーデビュー』の感想とか、タランティーノ監督について等、映画愛駄々洩れの会話が展開させていたのです。

まず「タランティーノ」というワードが同い年ぐらいの女性から発せられた光景に初めて遭遇しました。いや、同姓からもあんまり聞いた事ないぞ。一体どこでこんなアツい会話が出来る人たちと知り合えるのでしょうか。

まぁ本人たちからすれば、“地獄耳立ててんじゃねーよ、キモっ”って話ですけど、こうしたシチュエーションに出くわせるのが映画館の良いところなんですよね。

 

第49回:映画『ヒッチャー』(1986年) 感想と考察 あの悪党の生みの親では?

今回は、1986年に公開された『ヒッチャー』のニューマスター版を観に行って気付いたことがあったので、それについて書いてみたいと思います。ややネタバレ注意です。

 

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↑シネマート新宿で観に行ったらこんなポストカード貰いました。デザイン最高。

 

イントロダクション

 ハイウェイを運転する主人公の若者(C・トーマス・ハウエル)。雨の中でヒッチハイクをする一人の男を乗せる。しかしこの男、乗った車で次々と殺戮を繰り返すサイコ野郎だった。何とか車から降ろすことに成功するも、どこまでも追いかけてくるサイコ野郎。殺伐としたハイウェイの先に希望はあるのか…といったスリラー。ホラーの要素もありな作品です。

ジョン・ライダーと名乗る殺人ヒッチハイカーを演じるのは、『ブレードランナー』(1982年公開)のロイ・バッティが印象深いルドガー・ハウアー。もう亡くなって2年ですか。『ブレードランナー』が舞台としている2019年に亡くなってしまったこともあって、個人的には結構印象に残ってます。

 

ラストを観てふと思った

ラスト、車に乗った主人公と殺人鬼 ジョン・ライダーが対峙するシーン。ジョン・ライダーは警官から奪ったショットガン(あれはスパス12でしょ)をぶっ放しながら「かかって来い!」と騒ぎ立てます。主人公に自分を轢き殺すように焚き付けているのです。このシーン以外にも自分を殺させようとするシーンは登場するのですが、あれっ?この構図どっかで見覚えが…。エンドクレジットを観ながら考えていると思い出しました。そうです、私を映画の世界へと突き落とした張本人ダークナイト』(2008年公開)でした。

 

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ダークナイト』においては中盤に登場します。カーチェイスの末、横転したトラックから降りてくる悪役のジョーカーさん。マシンガン(M76だっけ?)を乱射しながらバットポットと呼ばれるバイクに似た乗り物で迫るバットマンに向けて「轢いてみろ!轢け!」と叫びます。いやまさにこのシーンでしたし、死をも恐れない狂人っぷりが冴えわたっていました。

 

さらに決定的な共通点が

ダークナイト』と共通点があると察すると、決定的な共通点がもう一つ見えてきました。それは分からないことだらけの悪党という点です。 

本作のジョン・ライダーさん。住所や出身地、今ままでの経歴を含めデータに全く残っていないのです。「ジョン・ライダー」と名乗った名前ですら怪しい。警察が取り調べを行ったところで洗いざらい話すわけもなくだんまりです。また殺人を犯す動機も不明なため、分かっているのは息をするが如く人を殺しているという事実だけなのです。

そして『ダークナイト』のジョーカーさんも全く同じ状況です。バットマンが尋問をしたところで、持論を語るだけで素性を口にすることはありません。一体誰なのか?何の為に犯罪を起こすのか?謎だらけの悪党を前にバットマンというスーパーヒーローですらその存在に混乱をし、観ている観客に恐怖を与えるのです。

思えば『サイコ』(1960年公開)のノーマン・ベイツにしても『ノーカントリー』(2008年公開)のアントン・シガーにしても、やはり正体のつかめない悪党というのは心底恐ろしく、そして忘れられない存在として映画史に居座り続けています。本作『ヒッチャー』でもそんな印象に残る悪役の手本とも言える特徴を堪能することが出来ると思いました。

 

まとめ

以上が私の見解ですが、この記事書いてる最中にこんな記事を発見してしまいました。

natalie.mu

 

えっノーラン、好きなのかい!

ということは、ジョーカーさんの祖先にジョン・ライダーがいるのは間違いないでしょう。『ダークナイト』好きは必見。観て損はしないはずです。

また、説明描写や発言を極力削いだことによって生み出される張りつめた緊迫感をベースに、ひと昔前の荒っぽいカーチェイスや爆薬大サービスな爆破シーン。ルドガー・ハウアーの完全に狂ってる目線と口角のあがり方など、とにかく大好物な要素がてんこ盛りで大満足の作品でした。

あと「出身地は?」と聞かれたら、にやけ顔で「ディズニーラ~ンド」って答えようかなw 分かる人なら絶対笑ってくれると信じて。

冗談はさておき、この辺でお開きです。ありがとうございました。

 

※『ダークナイト』についてはこちらで語ってます。

captaincinema.hatenablog.com

第48回:映画『Swallow/スワロウ』の感想と考察 人って複雑で面倒くさいな

今回は現在公開中の『Swallow/スワロウ』について扱いたいと思います。ややネタバレ注意です。

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イントロダクション

湖(あれは川か?)のほとりの立派な邸宅に住む主人公の妊婦さん(ヘイリー・ベネット)。一見幸せそうに見えるも、彼女を取り巻く人間関係は孤独そのものだった。そんなある日、ビー玉に心奪われて、飲み込みたい衝動に駆られる…。といった異食症を扱ったスリラー。

正直に言って私が今作を観に行った最たる理由は、主演のヘイリー・ベネット目当てです。『マグニフィセント・セブン』(2016年公開)や『ハード・コア』(2015年公開)。最近だと『ヒルビリー・エレジー/郷愁の哀歌』(2020年公開)などに出てましたが、私が今まで観てきた作品では脇役ばかりで、主演をはっている作品は観た事なかったです。“おっ、ついに主演じゃん!”という割と軽いテンションで観に行きました。

 

異食症になった理由は?

ビー玉に始まり画鋲や安全ピンなど小さな小物を次々と飲み込む姿は、正直見ていて結構キツイ。視覚よりも口に異物を入れた時の「カラッ」という音から「ゴクッ」という飲み込む音までしっかり耳に主張してくるので、私も喉や食道に違和感を感じました(とか言って昼飯は余裕で食ったけど)。これを聞くと敬遠する人もいるかもしれませんが、それじゃ勿体無い。なぜなら多くの人が抱える可能性のある問題が描かれているからです。私個人としては2つのことを考えました。

 

1.冷え切った人間関係

まず1つ目としては人間関係。これは、冒頭から明らかに夫婦間の絆が冷え切っていることが伺いしれます。

旦那さん、決して悪い人ではないんでしょうけどお父さん・お母さんへの愛情が強過ぎて奥さんは二の次な印象です。ペアレンツコンプレックスとでも言えばいいのでしょうか?きっと英才教育のもと大事に育てられたのでしょう。乱用する「愛してる」発言は薄っぺらです。それと姑さんも悪気はないんでしょうけど、何処か冷たさを感じます。特に中盤ぐらいの勝手に家に上がり込んで来て自己啓発本だけ渡して帰るとか、俺だったら嫌だなぁー。ポジティブにいきましょ~みたいなインチキ臭い本だったしw。

嫁ぎ先ではこんな状況なのに、実の両親とも訳あって疎遠だし、友人や相談できる人もいません。つまり、主人公は周りに人はいるのに孤独という状況に陥っているのです。変なもの飲み込んだら心配して構ってくれるという心理が多少あったのかもしれません。

 

2.「何も出来ない」不安と「自分は特別な存在」という思いの混同

2つ目に挙げる感情の混同が厄介だと思いますね。

旦那方の家族は、いわゆるエリート層。お金も仕事も充実しているせいか、貧しい家の出身である主人公に対しどこか舐めた態度を取っているわけです。直接的ではなく、ニュアンスとして感じてしまう形で「どうせ何も出来ないでしょ、私たちが面倒みてやるから感謝しろよ」みたいな。で、それを主人公はモロ食らって「はぁー私はダメな人間だ」となってしまう。

今作ではそんな周りからのプレッシャーによって抱いてしまうように描かれていましたが「自分は何も出来ないかも」や「自分はダメな人間だ」といったマイナスな感情を抱いてしまうことは、誰もが一度は経験したことありますよね。私もね、勉強もスポーツも苦手な不器用な人間ですから、学生の頃はよくこんな気持ちになってました。

しかし、厄介なことに自身の心の奥底には「いや、そんなわけない。自分は特別だ」という思いもあったりするわけです。自己愛とはちょっと違う、何ていうか自分の全てを自分で否定したくないといった感じです。これについては終盤に登場するある人物が語っていますし、そう言えば2018年公開の『ブレードランナー2049』ではテーマとしてガッツリ語れていることだったと思い出しました。

これら2つの相対する感情がせめぎ合うことで、人はおかしなことになっていくと感じました。

 

まとめ

以上が感想と考察です。

結末とあのエンドクレジットを見ても、心に異物は残り続けますが、印象に残る作品だと思います。結論、人って複雑で面倒くさい。でもそれが映画を面白くする材料になるのですね。

ということで、この辺でお開きです。ありがとうございました。

第47回:映画『新感染半島/ファイナルステージ』の感想と考察 マッドマックス純度、濃っ!

 今年1発目に語るのは韓国産ゾンビ映画です。前々から結構楽しみにしてた作品。2021年の映画館始めですし、期待値爆アゲで観て来ました。

※今回はがっつりネタバレしているので、ご注意を。

 

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 ↑こういう図々しいくらにドーン!とタイトルが書かれたポスター、大好きです。

 

 

イントロダクション

特急列車という限定された空間で繰り広げるゾンビとの攻防と個人主義が招く2極化による悲劇が合わさりゾンビ映画の傑作に踊り出た2016年公開『新感染/ファイナルエクスプレス』の続編。続編があるとは想像してませんでした。

舞台は前作から4年後。家族を守ることが出来なかった元軍人の男(カン・ドンウォン)。亡命先の台湾でひっそりと暮らす彼がなんだか如何わしいビジネスをやってるおっさんから、金を大量に積んだトラックをゾンビ渦巻く国家崩壊した韓国から輸送するように命じられます。義理の兄弟を始めとした仲間と共に挑むも…。

そういえは邦題について言いたかった。本作の原題って確か「半島」なんですよね。前作でオヤジギャグみたいな題名を付けるから(前作の原題は「プサン行き」)続編と分かるように『新感染半島』なんて、かなり頑張ったタイトルになっちゃってます。前作の邦題付けた人もまさか続編が出るとは思ってなかったのかもしれませんね。

 

このご時世で観るにはタイムリーな序盤

まず注目したのが序盤で描かれる内容です。

ゾンビウイルスの蔓延により1日で国家崩壊をした韓国。そこから脱出を図る人々は隣国や欧米諸国を頼ります。しかし、ウイルスの脅威に国を晒すことは出来ないとし、日本を始め多くの国が逃げてきた韓国人の受け入れを拒否する内容が語られます。このような、目に見えない脅威がグローバリズムを遮断してしまっているのは今の世界情勢も同じです。

また最近ではあまり聞かなくなりましたが、欧米ではアジア人というだけで、ウイルスを持っていると疑われ差別を受けることがありましたし、日本国内では「県外ナンバー狩り」なんて現象も発生しました。そんなウイルスが引き起こす差別という社会の病理を感じられるシーンも今作にはあります。

たまたまタイムリーな時期にぶつかってしまっただけかと思いますが、胸の痛む序盤となっていました。

 

マッドマックス純度

今作の見どころは、何と言っても2015年公開『マッド・マックス怒りのデスロード』への愛が溢れている点だと思います。“怒りデス”オタクである私が観たところ大きく3つの点での影響を伺い知ることが出来ました。

 

1.カーチェイスシーン

まず分かりやすくオマージュが効いているシーンは、映画の一番の見せ場でもあるカーチェイスです。改造した車でゾンビの群れをボウリングのピンの如く吹っ飛ばしながら荒廃した街中を爆走。このシチュエーションだけでテンション挙がります。おまけにタイヤの軸にスパイクのようなものを付けた車なんて明らかにヤマアラシですし、デカい照明を焚いて夜道を駆ける姿は、まるで武器将軍。嬉しいオプション満載です。

ただし、“怒りデス”とは違いCGに頼りきっている点はちょっと残念でしたかね。やっぱりリアルな車がぶっ壊れる方が迫力があると個人的には思います。

 

2.主人公の設定

2つ目は、主人公の人物設定。これは、明らかにマックスと同じ境遇を背負ってます。あらすじでもちょっと触れましたが、家族を救うことが出来ずに生き残ったという経緯があります。そのこと根に持っているというか、払拭出来ずにいるわけです。この「救えなかった」という思いが原動力となって多くの困難に立ち向かっていくキャラクターなのです。決して純然たるヒーローではないところが共通していると思います。比較的無口なんだけどやる時はやる男という点も似てますね。

似ていない部分を挙げるなら雰囲気、というか見た目です。マックスの野性味溢れる一匹狼という雰囲気はなく、端正な顔付きをした根暗といった印象です。いや、貶してるわけじゃないですよ。どっしりとした銃の構え方とか、すげー良かったし。

 

3.女性陣の奮闘

3つ目は女性陣の活躍です。中盤ぐらいから『ワイルドスピード』よろしくディストピア界のDK(ドリフトキング)と化した長女とラジコンカーを使って絶妙なフォローをする次女を引き連れたお母さんが登場。このお母さんのキリっとした目が格好いい。ライフル(あれはK2か?)を構えた姿はさながらフュリオサ隊長です。主人公はこの女性陣3人とおまけのおじさんと共にゾンビと狂人の世界からの脱出を図ることになるのです。ついでにラストで駆けつけてくる救助隊のボスも女性。

このように女性陣が奮闘をし道を切り開いていくのは、怒デスと同じ様相を呈しています。世紀末を迎えた世界では、圧倒的に女性の方が頼れるのかもしれませんね。まぁ世紀末じゃなくても男はしょーもないかw

 

※金網デスマッチ

あともう一つ。中盤に登場する捕らえた人々をゾンビと対峙させる闘技場。あれはシリーズ3作目の『マッドマックス/サンダードーム』を意識しているような気もしてきますが、あんな風な闘技場は様々な映画に登場するので微妙なとこです。意識してんじゃないかと信じてます。

 

まとめ

以上、かなりマッドマックスまみれになってしまいました。

本作に関してはラストの感動演出を盛り過ぎてる割には、全体的なドラマ要素は薄かったり、悪役のクソっぷりは良いけどカリスマ性に欠けていたり、そもそも「ゾンビ」らしい恐怖があまりないなど言いたいことは色々あります。

しかし5年という短い歳月を経て、異国の地の作品へも影響力を与えている『マッドマックス怒りのデスロード』の素晴らしさを改めて痛感する良い機会でしたし、新年一発目としては丁度良いテンションで充分に楽しめる作品でした。

ということでこの辺でお開きです。ありがとうございました。

 

第46回:2020年ベスト映画(後編)

さて、2020年のベスト映画を振り返る後編の今回は、印象に残った俳優やちょっと一石投じたくなった作品を映画祭気分で賞を授与するというやや上から目線な感じで語っていきます。なお、こちらも同様、再上映作品は選考の対象には含めていません。

 

今年のベスト10作品はこちら。

captaincinema.hatenablog.com

 

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↑今年のムビチケ。少なっ(007のムビチケもあるんだけどねぇ…)

 

 

う~んな作品賞

それではまず、個人的にう~んっと思ってしまった作品の発表です。あれです。ゴールデンラズベリー賞ってやつです。今年は2作品です。

 

スターウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』

言わずと知れたSWシリーズの第9作目。新三部作を締めくくる言わばシリーズの通信簿です。好きな人も多いはずなので開始早々大乱闘ですかねw。でも自分に噓を付くのは嫌なのでハッキリ言います。なんじゃこりゃ?通信簿で言うなら、推薦入学はまず無理といったところです。

まずストーリーですが、唐突で回りくどい宝探しを始めます。これ見た時『ハリーポッター』シリーズの分霊箱を真っ先に思い出しました。人気がある超大作の最終章はたいてい宝探しの冒険をしがちなんですよね。別に嫌いじゃないですし筋が通っていれば何ら問題ないですけど、まさかこの展開をSWシリーズで見ることになるとは思いませんでした。キツイ言い方をするなら、あるあるネタで守りに入りマンネリ化してしまった感じがしました。

そして、なんと言ってもラスボスの唐突な登場も衝撃的でした。まさかのオーニングで流れるいつもの格好いいクレジットの文中に登場しているのです。その名前が。あれを見た時は思わず、隣の人にも聞えたであろうボリュームの「はっ?」が出してしまいました。 予告で匂わせてたからといって、そりゃないぜ。しかもあんな簡単に登場させちゃったら旧3部作で培ってきたルーク・スカイウォーカーたちの努力がほぼ無かったことになるのでは?そこまでSWの熱狂的なファンではないので傷付きはしませんでしたが、今までのシリーズのファンの中には悲しんでる人が居ると思います。

勿論、ライトセーバーの音が映画館の音響で聞けるだけで幸せですし、ポー&BB8のコンビは割とプッシュしていきたい人間なので良い部分もあったと思います。ただ今までのシリーズを良くも悪くも色んな意味で壊した最終章だったと思います。

 

『ミッドウェイ』

ミッドウェイ海戦を描いた戦争映画。監督は子供の頃は割と好きだったローランド・エメリッヒです。そうなんです。子供の頃は、単純に“スケールでかっ!”で楽しむことが出来ました。しかし、年を重ね単純なハートではなくなるとシリアスとコミカルが混同していて一体どっちのリアクションを取って良いのかが分からなくなる時が出てきたのです。“相当な人間が死んでる、これは大変だ”って空気を感じ取り深刻な気持ちになっているのに、急にジョークが炸裂。“えっ?今の笑って良いの?”という感想にしかなれません。徹底しておバカを貫いて、“バカっこいい”になればなぁーっと思ってしまいます。

しかし今作は戦争モノということもあってか、シリアス路線一本。なのにダメだった理由。それは客観性を謳っておきながらそうは見えなかったからです。 

その決定的だったのが、主人公のポジションが客観性には欠けるような気がしたからです。真珠湾攻撃からミッドウェイ海戦までが今作で扱われる範囲なのですが、主人公はその期間、各戦場で華々しいを戦績を納めていきます。つまりヒーローです。こうした敵倒しまくるヒーローが登場する時点でプロパガンダ要素が滲み出て、客観性があるとは思えなくなるのです。主人公をどのような人物像にするかが戦争映画において一番難しいのかもしれません。

また今年は『1917/命をかけたの伝令』や『ジョジョ・ラビット』のような優れた戦争映画が乱立していたので、分が悪かったかなぁー。

 

はい、終了!嫌な気分になった方はすみませんでした。ここからは褒めることしかしないのでご安心を。では各俳優賞に参ります。

 

主演男優賞

 

マット・デイモン(『フォードvsフェラーリ』より)

レースドライバーとしてルマンを制した経験を持つカーデザイナーのキャロル・シェルビーを演じていましたが、今まで私が観てきたマット・デイモン史上最高だったと思います。

上層部と現場の板挟みに合う苦しいポジションなんですが、上層部に平気で噛み付く男気に溢れる一面があります。また勝つためには、セコい手も辞さない生粋の勝負師でもあり、とにかく格好良かったです。ストイック過ぎる役作りで有名なクリスチャン・ベイルがレーサーのケン・マイルズを演じており、そっちばかりに目が行きがちですが本当に素晴らしいパフォーマンスを見せてくれました。

そしてなんと言ってもラストシーンで、涙を堪え唇を噛みしめた表情にグッときた。私もスクリーン観ながら同じような顔になっていたことでしょう。

 

主演女優賞

 

のん(『私をくいとめて』より)

脳内のもう一人の自分「A」と共に、お一人様ライフを満喫するOLを好演していました。

Aとの会話のシーンが作品の多くを占めており、独り言のシーンになります。ということはこれ、一人芝居ですよね。しかもワンシーンでの喋ってる時間が結構長い。相手が居ない状態で喋り続ける演技をするなんてシンプルに圧倒されました。

また感情にコントロールが効かなった時の暴走ぶりも良かった。特に怒り心頭なシーンは誰も手が付けられない状態でしたね。

ちなみに本作には、橋本愛片桐はいりも出演しているので、ほぼ『あまちゃん』です。『あまちゃん』と言えば私が唯一ガチになって観た朝ドラ。平日の8時に観ることが出来なかったので、夜のBSでの再放送を見ていたのが懐かしい。思えばあの頃から、彼女に魅了されていたという訳ですね。

 

助演男優賞

 

ロバート・パティソン(『テネット』・『悪魔はいつもそこに』より)

『テネット』のニール君、やっぱりいいキャラしてましたね。一筋縄ではいかない雰囲気をはらんだ感じが、いかにも腕利きのスパイに見えました。ラストの爽やかな笑顔も印象深かったです。

その直後に観たルガーP08が大活躍するNetfilxオリジナル作品『悪魔はいつもそこに』に若い牧師の役で出てていたのですが…。いや、はっきり言ってウン〇コ野郎。テネットではイケてる顔だと思ったのに、段々腹立つ顔に見えてくるわ~。このキャラクターの温度差に完全にやられました。

 

助演女優賞

 

フローレス・ピュー(『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしたちの若草物語』より)

この方、今年は大活躍だったと思います。『ミッドサマー』での主演も見応えのあるものでしたが、私は特に『ストーリー・オブ・マイライフ』では姉が想いを寄せる相手を好きになってしまうという苦しい役どころを表情豊かに演じていたのが印象深かったです。

今年は主演を務めている『レディ・マクベス』って映画もどうやら公開されていたようですが、見逃した…。また、延期となっている『ブラックウィドウ』での好演、楽しみにしてます。

 

ベストアクション賞

 

・ウェルカム!地下壕(『ランボー/ラストブラッド』より)

弟を殺され、報復を行おうと武装集団を引き連れてきたカルテルのボス。待ち受けるのは自宅を要塞に変幻させた元グリーンベレーの殺人マシン「ランボーちゃん」。血で血を洗う戦争の勃発です。しかし情勢は一方的。戦争ではなくランボーちゃんによる殺人アートのオンパレードでした。トラップまみれの地下壕で次々と血祭りに挙げられる武装集団。その容赦なき様は今年屈指のアクションだった思います。

そもそも、あんな怪しさ満載の地下室なんて素人だって近ずかないです。しかし入ってしまった。だからこそ老体に鞭打ち狩りを遂行するランボーさんの勇姿を拝むことが出来たのです。ザコ敵の皆さん、ありがとう!

 

・スニーキングスーツ男 VS 看守たち(『透明人間』より)

透明人間というよりスニーキングスーツ男、めちゃんこ強かったですね。取っ組み合いのシーンは「見えない」を活かした非常にユニークなアクションシーンに仕上がっていました。

特に精神疾患と判断された主人公がぶち込まれた病院への殴り込みは見事なものでした。次々と看守たちをボコしていくスニーキングスーツ男。看守が銃を携帯していることにも臆ことはありません。スーツを着ただけじゃあんなに強くはなれないはず。あのモラハラ野郎、多分相当鍛えてましたね。

 

流行語大賞

 

「映画館へ行こう!」(映画館へ行こう!実行委員会より)

実際の使用頻度は無かったのですが、あえて挙げたいこの言葉。映画館が大好きな私にとって例年以上に目にし、意識をし、映画館の存在意義を再認識しました。映画館についての記事も色々書きましたし。まぁ流行語ではなく、今年一番意識した言葉という認識の方が正しいですかね。

 

↓映画館関連の代表的な記事はこちら

captaincinema.hatenablog.com

 

captaincinema.hatenablog.com

 

まとめ

以上、超個人的映画賞で、今年最後のブログ更新になります。

2月から始めて合計47の記事を書いてきました。仕事やプライベートの都合上、決して更新頻度が多いわけではない中、色々と試行錯誤をした1年。そんなに読者がいるような様子はさらさらないゴリゴリの自己満足ブログとなっていますが、改めて自分は映画を観ることと文章を書くことが好きな人間なんだということを実感しました。

来年はコロナがくたばって、延期となっている映画が公開され映画関連のイベントもあると信じているので、更新頻度が増やせると良いと思っています。

それでは、この辺でお開きです。ありがとうございました。

 

第45回:2020年ベスト映画(前編)

ついに、2020年を振り返る大変悩ましくも楽しい季節がやって参りました。 それは、今年のベスト映画を決めること。今年私が映画館で鑑賞した作品は57作品。全タイトルがこちら。

  • パラサイト/半地下の家族
  • カイジ/ファイナルゲーム
  • スターウォーズ/スカイウォーカーの夜明け
  • フォードvsフェラーリ
  • ジョジョ・ラビット
  • ナイブス・アウト/名探偵と刃の館の秘密
  • リチャード・ジュエル
  • バットボーイズ/フォー・ライフ
  • 1917/命をかけた伝令
  • ザ・ピーナッツ・バター・ファルコン
  • ミッドサマー
  • 初恋
  • スキャンダル
  • ジュディ/虹の彼方に
  • Fukushima50
  • ロング・デイズ・ジャーニー/この夜の涯てへ
  • ハーレークインの華麗なる覚醒
  • レ・ミゼラブル
  • デッド・ドント・ダイ
  • ストーリー・オフ・マイ・ライフ/わたしたちの若草物語
  • ドクター・ドリトル
  • ランボー/ラストブラッド
  • サンダーロード
  • SKIN/スキン
  • WAVES/ウェイブス
  • 透明人間
  • 劇場
  • ディック・ロングはなぜ死んだのか
  • カラー・オブ・スペース/遭遇
  • アルプススタンドのはしの方
  • ブックスマート/卒業前夜のパーティーデビュー
  • 2分の1の魔法
  • ようこそ映画音響の世界へ
  • テネット
  • ミッドウェイ
  • mid90s/ミッドナインティー
  • ミッドナイトスワン
  • フェアウェル
  • シカゴ7裁判
  • ストレイ・ドッグ
  • 博士と狂人
  • スパイの妻
  • ザ・ハント
  • ヒルビリー・エレジー/郷愁の哀歌
  • ミセス・ノイズィ
  • ベター・ウォッチ・アウト/クリスマスの侵略者
  • ワンダーウーマン 1984
  • 私をくいとめて

再上映作品

 

あれっ鑑賞本数、去年に比べて増えてる? 緊急事態宣言で映画館が閉鎖されている期間があったり、自粛自粛と言われているのに…。これは申し訳ございませんでした。(誰に謝ってんだか)

そして例によって、赤字が邦画になります。こちらも増加。洋画に比べたらまだまだですが、毎年徐々に増加傾向が見られますね。去年は4本ぐらいでしたからね。今年は大作の洋画がほとんど吹っ飛んだことも影響してますけど、“守備範囲広がってきたなぁ”っと1人ニヤニヤしている次第です。この中から、誠に勝手ながら栄えある傑作10作品を選出していきます。なお、再上映作品は選考の対象には含めず、あくまで今年公開された作品のみを対象としています。あっ、一応ネタバレあるかもしれないのでご注意あれ。

 

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↑今年、入手したパンフレットたち。

 

第10位

それでは早速いきましょう。ランキングに滑り込んできた最初の作品は・・・

 

 

『劇場』

又吉直樹の小説が原作。劇作家の男とその彼女の恋愛模様が淡々と描かれた作品。

この原作を丁寧に映像化していたと感じました。小説内の文章も、がっつりセリフとして使ってましたし、かなり忠実だったと思います。しかし、ただ忠実で再現するのではなくラストは映画らしい捻りを入れていたのが個人的にはポイント高かったです。思わず“なるほど”と呟いてしまいました。

また役者さんが良いですね。松岡茉優が芸達者なのは分かっていましたが、山崎賢人には驚かされました。私の中で山崎賢人は、女の子たちが好きそうなキュンキュン恋愛映画のイメージが強す過ぎて、格好いい感じの役しかやらないんだろうなっと思ってました。しかし今作で演じているのはクソ男。常に気だるそうにしている屁理屈ばっかりの奴ですよ。これが上手。ああいうクズ男を演じる山崎賢人をひたすら観たいと思ってしまいました。他の作品でないのかなー。

また、私の好きなアーティスト KingGnuの井口理がちらっと登場していたのでランクインです。

 

第9位

『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしたちの若草物語

こちらも小説が原作ですね。ルイーザ・メイ・オルコットの小説『若草物語』をベースに、四姉妹のそれぞれの歩みを描いた作品。

改めて考えてみると今作のテーマは「幸せ」ついてだったと思います。各々の障壁にぶつかりながら、それぞれの形の違った「幸せ」を模索していきます。「幸せ」には小説のような筋書きはいらないってことですよね。仕事や恋愛/結婚、趣味、どこに比重を置くかは自分で決めるしかない。誰かの指図を受ける必要なんてないというメッセージが受け取れました。

あのですね、正直観る前はちょっと舐めてました。まさかこんなに爽やかな感動が得られるなんて…。色使いやフレッシュなキャスト陣なども含め、混乱を極め雲行き怪しい現代には、こういう映画が必要なんですよ。

 

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第8位

 『シカゴ7裁判』

ベトナム戦争の反対運動を企てたとして起訴された7人の男たちの裁判劇。1968年にアメリアで実際にあった裁判をベースにした作品です。

エンタメ性と社会的メッセージ性のバランスの良さはさることながら、スピード感がエグい。冒頭の状況説明&主要人物紹介シーンなんて恐ろしいほどハイテンポ。でも決して置いてけぼりにさせないところが巧みだなと感じます。むしろ、このスピード感が気持ち良いぐらいですから不思議なものです。

また、今年屈指の演技合戦が観られる映画でもあったと思います。 エディ・レッドメイン、ジョセフ・ゴードン=レビット、サシャ・バロン・コーエン等ハリウッド俳優好きならテンション上がるメンツが勢揃い。特に私はマーク・ライランス演じる弁護士にやられました。被告側のメンバーの中では、冷静に振る舞うキャラクターですが、権力の乱用や不正を前に内に秘めた闘志が噴出する感じに心掴まれました。

 

第7位

『ミッドサマー』

白夜に繰り広げられる90年に1度の祝祭に遭遇した大学生たちを描いたホラー映画。「ホラー」とは書きましたが、純粋なホラーではない何か新しいタイプの作品と言った方が良いのかもしれません。なので“面白かった!”というより、“なんか凄いもの見せられたなぁ”というのが率直な感想です。なかなかこんな作品に出会う機会はないと思うので、期間限定で公開をしていたR18のロングバージョンを観に行かなかったことを、最近になって後悔している自分がいます。映像の華やかなさも今年一番だったと思いますし。

そんな今作の監督アリ・アスターの次回作は、4時間越えの悪夢コメディ。しかも主演は、『ジョーカー』や『ザ・マスター』でのクレイジー演技が冴えわたるホアキン・フェニックスという噂。ヤバ過ぎる香りがプンプンします。映画の内容に目を背けたくなっても、今後の動向からは目が離せません。

 

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第6位

ザ・ピーナッツ・バター・ファルコン』

憧れのプロレスラーになる為、施設から脱走したダウン症の青年が兄を亡くした孤独な男と共に旅をするロードムービー

だからさぁ、ロードムービーはダメだって。ロードムービーネタが個人的に弱点であることや観終わった後に温かい気持ちになれるので、当然のランクインなのですが、それ以外にも非常に良いところがありました。

それは障害を持つ人に対するフランクな姿勢です。「障害者には気を遣いましょう」というお節介じみた内容が感じられないのです。むしろ周りが過度に気を遣うことで彼らの夢や自由を奪っている可能性があることを示唆してると思うのです。

だって、たいての人は障害を持つ人を安全の保障も出来ないような大自然の中を連れまわして、挙句プロレスをやらせるなんてヤバい奴だと思うはず。しかし本人の夢を叶えさせてあげるという信念を糧にしているからこそ意義のある行為となるのです。

実際に障害者を抱える俳優を主役にするそのキャスティングにも、そんなフランクな姿勢は現れていると思います。

あと、養護施設の職員を演じるダコタ・ジョンソンが綺麗。あんな人が面倒見てくれるなら私は施設から脱走せず、お行儀良くしてますねw。

 

第5位

『ミセス・ノイズィ』

私は全く存じていませんでしたが、「騒音おばさん」という一時期ワイドナショーで取り出された奈良県の事件をモチーフにした作品。布団を叩く音から始まった壮絶な隣人バトル。そのバトルは周りを巻き込み思わぬ方向へと突き進んでいきます。

ずばり、脚本がお見事。序盤は主人公の小説家と隣のおばさんの置かれた環境や心情の対比。そして双方の状況が見えてきた辺りから、物語がシフトチェンジ。まさかの方向へとイッキに進んでいきます。これには完全に振り回されました。翻弄されていたのは私だけではなかったようで、度々「えっ?」という驚きや小さな悲鳴のようなものが客席から聞こえてきました。こういう映画体験が出来ると幸せを感じます。

ただ単に振り回されるのではなく、最後には真の「ノイズ」の正体は「無責任な世間」ということが見えてくるかと思います。ホント騒ぐだけ騒いで責任のなすりつけ合いだもんな。特にあの親戚のチャラチャラしたバカ男。あいつには禊が必要だ!

 

第4位

ジョジョ・ラビット』

舞台は第2次世界大戦時下のドイツ。主人公のジョジョは空想上の友達であるヒトラーと共に、立派な兵士になることを夢見ています。しかしウサギも殺せない心優しい一面を持っています。そんな彼の前にユダヤ人の少女が現れます。

戦争モノ、コメディ、ヒューマンドラマの3つのジャンルがミックスされた作品。どのジャンルにも偏り過ぎずにバランス良く語られていきます。初恋の甘酸っぱさも隠し味程度にきかせている感じが上手いですね。そもそもコメディと戦争モノの合わせ技が割と新鮮でした。こうした戦争継承の仕方もありなんだと。寧ろバイオレンスや恐怖の主張の強い作品が苦手な人に対しては打ってつけだと思いました。

それにラストが名シーン。俺も世の中が平和になったと思う日が来たら、踊るぞ。一応小学生の時ヒップホップを少々かじってたんで、舐めんじゃねーぞ(棒)。

 

第3位

さぁーここからは今年の3本「柱」。「柱」と言えば…という流行に便乗するのは止めて、見事に銅メダルを獲得した作品は・・・

 

 

『テネット』

今年、なかなかの盛り上がりを見せたと勝手に思っているクリストファー・ノーラン監督最新作。「逆行」というトリックを駆使して世界をまたにかけたスパイ大作です。

まぁー何と言っても映画の醍醐味がてんこ盛り盛りな一品です。思い付く限りのアクションシーンの逆バージョン。ホンモノのジャンボジェット機をぶっ壊すリアリティー。世界各地の絶景など視覚的に楽し過ぎます。これはスクリーンで見なきゃ勿体無いです。

視覚的のみならず、脳みそフルフル回転で挑まないとちんぷんかんぷんになるノーランらしいストーリーも健在。まず「逆行」って何だし。ゴリゴリの文系だからかもしれませんが初めて触れるワードでした。そんなものを一回観ただけで理解するなんて無理があります。でも言いたいことは割とシンプルなように思えるのがミソ。この回りくどさが良いんですよね。

そして公開時期がナイスでした。色々と公開が延期され寂しい思いを強いられている状況下で、久しぶりのビッグタイトル洋画だったことはランキング入りの要因としてかなり大きいです。

 

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第2位

惜しくも2位となった準優勝作品は・・・

 

 

『アルプススタンドのはしの方』

甲子園の1回戦。母校の応援にやって来た夢に破れた女子高生2人組。彼女たちが座るアルプススタンドの端には、同じようにやり切れない気持ちを抱えた者たちが集まっていた。

王道の青春モノなんですが、なんでしょう。世間的に見たら目立たない隅の方にいるような人たちの反撃とでも言えば良いのでしょうか。私自身、この手の作品に弱いんだなと改めて思いました。去年の1位は『エイス・グレード/世界でいちばんクールな私へ』でしたし、その時と同じようなことを書きますけど、私自身も隅の方で過ごした青春時代だったので、心の代弁と浄化をしてくれているように感じ、俄然惚れ込んでしまうといったところでしょう。

また、野球の試合をしているのに、プレイシーンが全く出てこない特殊な野球映画でもあります。ある意味野球好き、特に高校野球好き必見の作品。そうでなくても、ある程度のルールを知っていれば、野球のルールを全く知らない彼女たちの会話に思わずニヤリとしてしまうこと間違いないです。

さらに“進研ゼミ女”のくだりは、今年映画館で一番笑った気がします。あの進研ゼミのマンガのことが恋しくなったのは一瞬の気の迷いでしたがw。

 

第1位

数多くの強敵を退け王座に輝いたのは・・・

 

 

『フォードVSフェラーリ

1966年のル・マン24時間耐久レースで、王者フェラーリに挑んだ男たちを描いた胸アツドラマ。

正直に言うと、観た時点で今年の1位は決まってました。1月公開作品でしたが未だに思い出すとアツいものがこみ上げてくる他を寄せ付けない圧倒的な興奮と感動。マジで素晴らしかった。

私、初めて映画を観て悔し涙を流しました。いや、人生の内でもほとんど流したことがない涙です。「悔し涙」なんて言ったらほぼネタバレですけど、終盤の15分ぐらいはずっと目頭が熱かった。エンドロールなんてボロボロですよ。

ここまでの感情移入をさせてくれたのは、レースの結果ではなくそこに辿り着くまでに築かれていく友情が中心に描かれていたからでしょう。一匹狼同士、初めはいがみ合うようなかたちで時にはレンチを投げつけたり、殴り合ったり。でも結局「レースが大好き」という根幹の部分は一緒。その部分に触れ合うことで、心の奥で繋がる強固な友情が生まれいきます。そんな混じりけのない真っ直ぐなストーリーをベースに、細やかな演出。役者陣のパフォーマンス。アガる音楽。全ての要素が車を加速させるかの如く綺麗に連動していたからこそ凄まじい感動が味わえたんだと思います。

またレースシーンも大迫力で没入感がたまらなかった。私は今作をIMAXレーザーで観たのですが、エンジン音や低い位置から車体を撮った映像がよく映えてました。おかげで運転なんてからっきし無理なくせにハンドル操作するような仕草を膝の上でそっと行ってしまいました。これは「IMAX映え」と主張したい。今後IMAXで、いや通常上映でも良いから、もし再上映があるなら必ず駆けつける所存。なので、何処かの映画館さん、どうぞお願いします!

 

まとめ

以上悩みに悩んで選んだ10作品でした。

今年はスカッとするような娯楽大作が少なかったですが、心にズシンと来る作品が多い年でした。その点、私の中では作品が渋滞状態で選ぶのは去年より苦労しました。だって『1917/命をかけた伝令』『パラサイト/半地下の家族』ヒルビリー・エレジー/郷愁の哀歌』『ようこそ映画音響の世界へ』などを入れること出来なかったんですから口惜しい。

こうやって思い返して見ると、なんだかんだで作品に恵まれた年だったというのを締めの言葉として、一旦お開きです。後編では印象に残った俳優やアクションシーンについて語ります。

それでは、ありがとうございました。