キャプテン・シネマの奮闘記

映画についてを独断と偏見で語る超自己満足ブログです

第217回:映画『みなに幸あれ』感想と考察

今回は現在公開中の映画『みなに幸あれ』を語っていこうと思います。毎度の事ながらややネタバレ注意です。

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イントロダクション

「不幸の上に成り立つ幸せ」がキーワードだというホラー映画。

東京から祖父母の暮らす田舎に泊まりに来た看護師学生の”孫”(古川琴音)。久しぶりの再会に喜びを感じるも祖父母の様子に違和感を感じる。どうやら何かを隠している…その正体を知った時、世界の成り立ちや人間の在り方といった根源的な価値観を揺るがす事になっていく。

監督は下津優太。本作が商業的映画初作品。何でも同名短編作品が「第1回日本ホラー映画大賞」で大賞を受賞したんだそうですよ。その賞の審査委員長を務めたのが『呪怨』(1999年公開)でお馴染みの清水崇監督で、本作のプロデゥーサーになっています。

主演は古川琴音。ここ最近よく見かけますね。映画だと『偶然と想像』(2021年公開)にも出演してましたし、TVドラマだと『コントがはじまる』にも出てました。まぁよく見る理由は多分三井住友カードだかのCMの影響かも。

貴方は幸せ?

まずね、ポスターが良いですよ。タイトルの「みなに幸あれ」なんて良い事言うなぁ!と思うじゃないですか。しかしそれらしさのない不穏な古川琴音のポスター。えっどういう事?これは観に行きたくなります。

序盤は『ヴィジット』(2015年公開)っぽさを感じました。孫が祖父母の家に泊まりに行ったらなんかヤバいぞぉ…的な。しかし次第に村の因習も疎か世の中を形成するとある仕組みの気持ち悪さに胸糞が悪くなっていきます。でも何で主人公だけ例の仕組みに気付いてなかったんだ?…

というのは置いておいて、この胸糞悪くなる正体というのが最初に挙げた「不幸の上に成り立つ幸せ」という理論です。果たして自分は幸せなのか?実は幸福って明確なアベレージが存在しないので結構フワッとした概念なんですよね。だから自分が幸せかを計るのに大抵の人がやるのが、他人と比較する事になるわけです。劇中では、やりたい事やって食っていけてる人は幸せだろうけど、皆が皆やりたい事やってたら世の中回らないから犠牲になってる人もいる といった話がありました。そりゃそうですよ、私だってこんな感じで適当な文章書いて大金稼げたら悠々自適ですけどね。世の中そんな甘くないっすよ。その他比較する尺度は色々ですが、誰かの犠牲で自分の幸福は成り立っているのでは?という考えと否が応でも向き合わざるを得なくなります。

でもね、この幸福については丁度私が読んでいた伊坂幸太郎の小説『777(トリプルセブン)』に良い事書いてました。幸せについては「他人と比べた時点で、不幸が始まる」んですって。それに梅は梅、リンゴはリンゴに成れば良いのだから薔薇と比べたって仕方ないなんて話も出てきました。まぁそういう事ですよ。誰かと比較したって誰かが犠牲になってたって自分は自分です。考えたって埒が明かない。使い方は違いますが、憧れるのをやめましょう!

まとめ

以上が私の見解です。

とは言ってもやっぱりモヤっとするよなぁ~。台詞で説明し過ぎず、気味の悪い映像の連続で語る上手さもありますし、思わず“痛てぇ痛てぇ!”と口にしてしまうシーンもあって面白いんですけどねぇ…何とも嫌な映画でした。

という事でこの辺でお開きです。ありがとうございました。

第216回:映画『アクアマン 失われた王国』感想と考察

今回は現在公開中の映画『アクアマン 失われた王国』について語っていこうと思います。毎度の事ながらややネタバレ注意です。

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イントロダクション

DCコミックスのヒーロー アクアマンを主人公とした2018年公開の『アクアマン』の続編。2013年の『マン・オブ・スティール』から始まったDCEUと呼ばれた一大ユニバースの終章だそうで、今後はジェームズ・ガンの下で新たなフランチャイズが公開されるようです。『ザ・スーサイド・スクワッド』(2021年公開)やドラマシリーズ『ピースメイカー』の評判が良かったのかな?確かにどっちも面白かったけど。

海底王国 アトランティスの王として従事する傍ら子育てに奮闘するアクアマンことアーサー・カーリー(ジェイソン・モモア)。二足の草鞋にヘトヘトな毎日を送る中、アクアマンへの復讐を誓うブラックマンタ(ヤーヤ・アブドゥル=マティーン2世)が南極の氷河に封印されていた邪悪な古代兵器を発見。それは海洋世界のみならず地上世界への脅威となっていく。

監督はジェームズ・ワン。映画監督の中にはホラーやサスペンス、大作系アクションに至るまでどんなジャンルでも上手くまとめるエリート職人監督が存在します。ジャウム・コレット=セラとかイーライ・ロスとかね。その代表格といっても過言でないでしょう。「SAW」や「死霊館」シリーズを生み出し、ワイルドスピードや本作のようなアメコミ映画も手掛けています。『マリグナント 狂暴な悪夢』(2021年公開)も面白かったですもんね。そういえば「インシディアス」シリーズの最終章ってどうなった?

主演はジェイソン・モモア。代表作といえばこの「アクアマン」シリーズになるかと思いますが、『バレット』(2012年公開)でスタローンと斧ファイトしてたのも印象深い。また前作では主人公の敵として登場したパトリック・ウィルソンも続投。ワン監督作品ではお馴染みですが、『トマホーク ガンマンVS食人族』(2015年公開)が傑作っすね。攫われた奥さんを救おうと松葉杖で頑張ってました。さらに科学者役のランドール・パークという方。どっかで観た気がしたので調べてみると『アントマン&ワスプ』(2018年公開)を始めとしたMCU作品にも出演していました。2大アメコミフランチャイズの掛け持ちって儲かりそう。

陽キャ王の敵は温暖化?

前作同様、持ち前の筋肉とノリの良い勢いで物事を解決していく陽キャな王様が描かれます。そこに今回は兄弟バディ路線がプラス。どことなく2017年公開の『マイティ・ソー バトルロイヤル』(「バトルロイヤル」って言うとMCUファンに怒られるやつ?「Ragnarok」かw)っぽさの強い既視感ある内容でしたが、それ以上に決して勢いだけじゃ解決には至らない問題がテーマになっていると思いました。

今作でネックとなるのが、古代文明の遺産なわりにハイテクな兵器を動かすための資源です。具体的な名前は忘れましたが、燃やすと温室効果ガスをバンバン排出。それにどうも廃棄するにも色々問題があるらしく、まるで化石燃料原子力の悪いとこどりの物質なのです。そんな資源を存分に利用して世界の覇権を奪おうってのが今回のヴィランの魂胆なわけです。昨今脱炭素に向けたムーブメントが起きており、近くEUじゃガソリン車が禁止なるとか。その脱炭素の代替として原子力に頼るのってのもチェルノービリや福島の事例から考えると煮え切らない。自然エネルギーだけでは到底賄え切れない経済規模を回すにはどうするか?は国際的な問題ですね。そんな資源と温暖化の問題に正面きって挑もうとする指導者が今の世界に求められているヒーロー像なのかもしれません。

まとめ

以上が私の見解です。

ちょっと頭でっかちな事を考えながら観てしまいましたが、そんな事はほっといても純粋に楽しめるライド感のある作品だと思いました。
ただ矛バトルが少ないせいかワン監督らしいキレキレカメラワークがありません。それにさかなクンが羨むであろう海洋生物たちと会話出来る能力の発揮シーンも少ない。ってな感じで主役のキャラスペックがいまいち活かされていない印象を受けたのは残念な点でした。

そういえばアンバー・ハード。ジョニデとの死闘の影響で出演シーンがごっそりカットされたなんて話もありましたがおやっ?結構出てるじゃん。寧ろどこをカットしたんだと思うほど物語に違和感がありませんでした。やっぱりこういうとこでしょ、監督の器用さって。トラブルに見舞われても安心安全の品質保証、こう言っちゃ悪いけど日本にもこんな映画監督が沢山居たら安泰よ。

ということこの辺でお開きです。ありがとうございました。

第215回:今まで鑑賞した映画を数えてみた件

今回は本ブログ史上最もどーでもいいことを書いていきます。

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↑ネタとは関係ない写真ですが、雪深い神社って良いよね

10年間の歴史

私、我ながらマメな人間なもので日頃から鑑賞した映画のタイトルをルーズリーフにメモってるんですね。それを2013年から続けているので去年で丁度10年間が経過しました。うわー10年も経ったのかぁ、歴史ですよ。そんな区切りの良さがあったので、果たして何本観て来たのかメモの集結を取ってみようと思い立ちました。厳密には11年の記録になりますが、カウントしたところ総計…

 

2047本

…おおぅ。同じ作品の繰り返し鑑賞もあるので作品数にすると体感値1800~1900タイトルになるかと思います。世間一般のアベレージのような比較対象は当然ないので何とも言えませんが、人と話していても「最近観たい映画ないんだよねぇ」とか「最後に映画館行ったの何年前だ?」なんて事を聞く機会も多いので明らかにトチ狂った本数でしょう。では、何故そんなに観てしまうのか?考えてみると2つの事が思い浮かびました。

狂ったように観る理由

1守備範囲の拡大

メモを見返して気付いたのが観ているジャンルの拡大でした。元々ハリウッド系列の洋画大作を中心に観ていたのが、年数が経過するごとに邦画や様々な国の作品の本数も増加傾向に。とりわけコロナ禍で外出が憚れた期間に動画配信サービスに加入したのも大きかったような気がします。レンタル店だと洋画と邦画でだいたいコーナーが分かれていたりするので、洋画ゾーンのみ漁って終了がほとんどだったのですが、配信サイトのホーム画面は結構ごちゃごちゃ挙がっているせいで、別に観ようと決めていなかった作品を観ちゃったりするんですよね。「映画」と一括りにいってもとにかく幅広いので、良くも悪くもテリトリーが広がってしまいました。

2これだけ観てもまだ観ていない作品がある

そうなんです。どれだけ観てもまだまだ観た事のない作品が存在する事が私を狂わせます。いわゆる名作扱いをされている作品も世間的に人気のある作品に至るまで多数。以前どこかにも書いたかもしれませんが『風の谷のナウシカ』や『サウンド・オブ・ミュージック』を観た事ないっていうと驚かれますもん。きっかけやタイミングの問題なのよぉ~。ってな感じで一生かけても観てない作品が存在するのは間違いないという現実。恐ろしいちゃありゃしないぜぇ。

本数マウントってさ

こうした鑑賞本数の話になると、”年間○○本以上観てないと映画好きじゃない”や”○○本観てればシネフィル” みたいな謎の基準で数マウントを取ろうとする発言がSNS上で定期的に散見されます。で、今回数えてみてそれが不毛な事だと改めて思いました。

だってどれだけ本数こなしたって観た事を忘れてる作品ばっかりになるもの…。これはメモを見返して実感しました。「もしドラ」の映画?ホントに観たのかよ!『エクトプラズム/怨霊の棲む家』とか『陰謀のスプレマシー』とかそんな映画もあったなぁ、内容覚えてねーよ!こうなるから感想をブログやSNSになるべく残すという事にしている訳ですが、去年観た映画ですら”えっと…たったしかに観たぞぉ!”みたいなあやふやな作品もあるぐらい。これが大量消費社会の良くない部分なのでしょう。

しかし、本数をこなさい限り自分の心にジャストミートする作品に出会えないのも事実ではあります。正直、ネット上や周囲の人の評価や口コミで観る作品を選択してるようじゃ甘いと思います。”ちょっとでも気になったらとりあえず観る!”の精神です。当たって砕けろじゃないですが、数撃ちゃ当たるので。ちなみに私のマインドは、オールタイムベストである『マッドマックス 怒りのデス・ロード』を超える、あるいはそれと肩を並べる感動に出会えるかを基準に作品を漁ってます。そんなのあるかねぇ~でもあるかもしれない。私に課せられた世知辛い運命です。

まとめ

以上、我ながらキモい戯言でした。

キモいとはいえ、これからも金と時間が許す限り漁り続けますしメモも欠かさず残していきますよ。次の10年後は果たしてどれだけの本数を積み重ねているでしょうか…。10年後とかあんまり想像したくねーな。俺にあるのは”今”だけだ!

ということこの辺でお開きです。ありがとうございました。

第214回:映画『エクスペンダブルズ ニューブラッド』感想と考察

今回は現在公開中の映画『エクスペンダブルズ ニューブラッド』を語っていこうと思います。毎度ことながらややネタバレ注意です。

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イントロダクション

アクションスターが一同を介する映画界隈じゃアベンジャーズ以上にアベンジャーズな事になるお祭り映画シリーズ第4弾。

CIAから依頼される汚れ仕事を命懸けで遂行してきた傭兵軍団 エクスペンダブルズ。そんな最強軍団を率いるバーニー・ロス(シルベスター・スタローン)は、相棒のリー・クリスマス(ジェイソン・ステイサム)を筆頭にした新旧メンバーとテロリストが強奪した核兵器を奪還するミッションへ乗り出す。

監督はスコット・ウォー。『ニード・フォー・スピード』(2014年公開)等を手掛けているみたいです。あれっスタローンが監督じゃないの?と思って調べてみるとスタローン自身が監督したのは1作目だけだったんですね、お恥ずかしい。

スタローン、ステイサムの他にシリーズレギュラーキャストはドルフ・ラングレンランディ・クートゥアが出演。あっ僕にAA-12の凶悪さを教えてくれたテリー・クルーズが不在…悲しい。1作目では大活躍だったのに、2作目でシュワにAA-12を借りパクされ3作目では序盤でメルギブに狙撃され入院生活。なんかアンギラスばりに可哀そうじゃん。

新メンバーにはミーガン・フォックストニー・ジャーアンディ・ガルシアが出演。そして今回敵役はイコ・ウワイス。ネット上では何かと人気の超ハイカロリー映画「ザ・レイド」シリーズでお馴染みの方。ハイカロリーでいえば『シャドー・オブ・ナイト』(2018年公開)も凄い。ってかイコ・ウワイス出るならヤヤン・ルヒアンも出て欲しかったよね。

これエクスペ?

率直に言ってこれです。期待してエクスペンダブルズシリーズを観に行ったけど何か違うものを見せられいる違和感。そう思った物足りないポイントが主に3つありました。

肉密度が足りない

ひとことで言えば肉密度が落ちシュッとした消耗品軍団。皆さんしっかり着こんじゃってパンパンの腕や隆起する肩の露出が少ない。冒頭のバーのシーンが一番シリーズっぽい雰囲気だっのは残念でした。またアクションスタイルにも肉密度の不足が見受けられました。ステイサム、イコ・ウワイス、トニー・ジャーとスピード系のスターが暴れるのは良しとして、例えば1作目のスタローンvsオースチンのような筋肉と筋肉のぶつかり稽古のようなパワーファイトが一切無かったのは不満です。みんなお年を召されたから仕方ないのかもしれませんし、パワーファイトよりスピードファイトが好まれる風潮もありそう。アクションスタイルの変化はある意味ニューブラッドに感じました。

”エクスペ”ノリが足りない

筋肉てんこ盛り以外の本シリーズといえば、シリーズ特有のノリです。とは言ってもシリーズを重ねるごとに薄くなっている要素ではあります。

アメリカ映画らしい皮肉でお互いをおちょくり合ってニヤニヤするおじさんたちの仲良しっぷり。あのノリが観ていて好きなポイントだったんですけどね。現実にいたらちょっと嫌だけどw。まぁ私ですらそう思うので、今の時代じゃああいうノリはホモソーシャルとかいって叩かれるのかな。そもそもジョークのキレがあまり良くなかった気もします。

お祭り感が足りない

これに関してはキャストを見た時点で薄々感じてはいましたが、やっぱりちょい役でもシュワ、ウィリス、フォードがいると空気が違います。そのちょい役でもしっかり華を添えるタイプのゲスト出演がなかったのは物足りなさを感じる点でした。予想以上にスタローンの退場が早かったのも痛手だったでしょう。えっ?飛行機に乗ってるだけで終わり?せめてバーニー名物”早撃ちリボルバー”が観たかったですね。

それにガルゴの息子とは?普通にアントニオ・バンデラスを出せなかったのか。常に化粧ゴリゴリなミーガン・フォックスも別に悪くはないですが、もっと張り合いのある姐御肌な人じゃないと薄くない?ミシェル・ロドリゲスとか前作のロンダ・ラウジー続投とはいかなかったんですかね。こうしたキャスティングの馬力がいまいち足りず、おまけにステイサムが無双するシーンがほとんどを占め、各キャラの見せ場にバラつきがあるのも問題だと思いました。


以上を踏まえると、今回観たのはステイサムワンマンプレーの映画になります。ゆえにいつものステイサム映画として観れば満足、エクスペとして観ると微妙、そんなとこです。

まとめ

以上が私の見解です。

消化不良な結果とはなりましたが、トニー・ジャーは良かったぞ。封印したスキルを発動しちまったら…みたいな変な事言ってたわりにあっさりスキル発動。カッコよくククリをぶん回してました。ステイサムとの相性抜群のアクションも魅せてくれたので続編があれば続投で。

そんな5作目があるなら、テリー・クルーズを復活させておくれ!あとちょい出しで良いからシュワ&ジェット・リー コンビも。それで新メンバーにマ・ドンソクとデイブ・バウティスタ。ボス敵はジェイソン・モモアorスティーブン・ラングで、そのサイドキックにジョー・タスリムでいきましょう!いや、敵をドンソクにしてスタローンとのボクシングファイトってのもアツくないか?妄想が絶えない、これぞエクスペの醍醐味ですな。

ということこの辺でお開きです。ありがとうございました。

第213回:映画『PERFECT DAYS』感想と考察

2024年一発目は、去年の最後に映画館で観た作品『PERFECT DAYS』を語っていこうと思います。毎度のことならが、ややネタバレ注意です。

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イントロダクション

渋谷区がデザインに力を入れている17か所の公共トイレたちを舞台にしたドラマ作品。去年のカンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品され、主演の役所広司が日本人俳優として柳楽優弥以来(2004年公開『誰も知らない』)2人目となる男優賞を受賞しました。柳楽優弥の受賞って確か最年少記録とかでしたよね?そう考えるとやっぱ凄いな。

東京 渋谷でトイレ清掃員として働く平山(役所広司)。彼の日常は、昔からカセットテープで聴いている音楽やフィルムカメラで撮る何気ない写真、毎日夜に少しずつ読む古本屋で買った文庫など一見淡々としているようで小さな幸せに満ちていた。そんな日常に現れる人々によって彼の過去が見え隠れする。

監督はヴィム・ヴェンダース。『ベルリン、天使の詩』(1987年公開)や『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』(1999年公開)で有名ですが、うーん私1作品も観てなかったぞ。『パリ、テキサス』(1984年公開)はロードムービーですよね、観よう。

主演は役所広司。去年は別班をモチーフにしたドラマなんかにも出ていましたが、もう日本を代表するレジェンド役者といった感じです。個人的には『CURE キュア』(1997年公開)や『降霊〜KOUREI〜』(2000年公開)が印象的。また黒沢清作品に出ないかなぁ。『孤狼の血』(2018年公開)や『十三人の刺客』(2010年公開)も最高。やっぱり名作多しの邦画業界を支えてる感が半端ないです。

日本人は幸福か?

年の瀬って世の中全体がいそいそとします。このクリスマスから大晦日にかけての忙しなくなる様が好きだと言っていた友人も居ましたね。確かにちょっと分かる。そんな時期にゆっくり観るのに丁度良い作品でした。公開時期はそれを見越していたのかな?どうやら企業案件(ユニクロ、ローソン、ダイワハウスTOTOが関わってるっぽいぞ)の作品ですが、そうとは思えない仕上がりです。

清掃員の平山さん。基本、近所から聞こえる箒の掃く音で目覚め、缶コーヒー飲んで仕事へGO。仕事から帰ると行きつけの銭湯&飲み屋、そして寝る前に古本屋で買った文庫を読んで寝るのを繰り返す日々。多少ルーティンが乱れるちょっとした変化はあれど、大きな事件が起きるでもなく進む時間。それでも見入ってしまうのは、役所広司の俳優力とベンダース監督の手腕による賜物なのでしょうか。2時間ちょっとがあっという間に感じてしまう魔法です。

しかしこれを観て”質素な暮らしでも文化を嗜んでいれば幸せになれる”と思うのは少し違うかもしれません。映画業界でも低予算の大ヒット作品がもてはやされる風潮がありますが、お金はあるに越したことはないですしそういった貧乏性マインドが社会で蔓延するのは決して良いことではないでしょう。

なんせ当の平山さん、どうも裕福な家庭で育った模様。明確には言及されませんが、家族特に父親との軋轢によって今の生活を選択しているのだと伺えます。育った環境、残念ながらこれが文学や音楽、写真を嗜めている理由だと感じました。いわゆる文化資本って育った環境や受けてきた教育に比例すると思うんですね。子どもの頃からどんなものに触れて蓄積されてきたのかってこと。本当は全ての人にいきわたるべき文化芸術ですが、音楽に聴くにしても絵画を見るにもお金が掛かりますからね。映画だって値上がりを続け決して安いものでは無くなっています。そうなると生活する上で二の次になって当然です。

結局、幸福になるのは金なのか…。平山さんの同僚(柄本時生)が”お金がないと恋愛も出来ないのか”と嘆いていましたが、まるで今の日本を象徴しているように感じますし、日本人は幸福なれるのか?をつい考えてしまいます。

まとめ

以上が私の見解です。

ちょっと穿った見方もしちゃいましたが、とりあえず映画館の暗闇でじっくり観るにはとても贅沢な作品でした。

それにしてもなんで渋谷区はやたらトイレを洒落乙にしてんだろ。街全体がアーティーにならないと、トイレだけ浮いちゃう気もするけど。あのスケスケトイレとか誰の発想よ、使用中にシステムがぶっ壊れないかヒヤヒヤして出るもんも出なくなりそうっすね。それに恵比寿駅前のところや渋谷駅と原宿駅の中間地点ぐらいにあるトイレとか見覚えあった。言われてみれば凝ったデザインだったような。ちょっと聖地巡礼じゃないですが、トイレ巡りしてみても面白いかもしれません…いやそれは単なる変態かw

ということこの辺でお開きです。ありがとうございました。

第212回:2023年ベスト映画(後編)

それでは後半は様々な「ベスト」から2023年の映画を振り返っていきます。ちなみに配信サービスの作品や地上波TVドラマの話も含むかもしれません。また、ややネタバレがあるかもしれないのでご注意を。

↓前編の内容はこちら

captaincinema.hatenablog.com

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↑今年買った前売り券たち。グッドデザイン賞ジョン・ウィックかな。ネクタイが弾丸砂時計になってるのが洒落てる。

うーんな作品賞

去年はあまりに頭を抱えた作品が多かったため切り出して行ったこちらの企画。今年はそれほど空振りをしなかった…とはいえ看過出来ない4作品の愚痴を書き殴り今年の禊を完遂しましょう。容赦なくいくんで夜露死苦

・『ボーンズ・アンド・オールド』

人肉欲が抑えきれない若い男女を描いた恋愛ロードムービー

見た目だけで中身スカスカじゃないか映画でした。ルックは良い感じなんですよ、80年代アメリカンな田舎な感じ。でもほんとそれだけの印象でした。ロードムービーって主人公の成長や変化が垣間見えるものだと思っているのですが、それらが感じられません。だって同じ境遇のイイ感じのイケメンに出会って結ばれただけにしか見えないぞ。結局マーク・ライランス演じる不気味なおっさんは何だったの?まぁ出会いはそれはそれで収穫でしょうけど、観てる側としてはたいして面白くないです。そもそもカニバリズムと純愛の食い合わせも悪い気もしましたね。殺人カップルとかの方がまだ良さそう。カニバリズムというテーマで言えば、前編でもご紹介した『食人族』(1980年公開)の方がエンタメ性然り、人間の心理を付いた内容だったと思います。

ティモシー・シャラメ出演させときゃ良いってわけじゃねえからな、覚えとけ!

・『ハロウィン THE END』

私にとって今年度のワースト作品となったホラー映画「ハロウィン」シリーズの最新作。

なんと言ってもスラッシャー映画なはずなのに人が死なな過ぎる。序盤のダルい青春グラフティーなんてさっさと済ませておくれ。『首』のたけしじゃないですが“さっさと死ねよ!バカヤロー!”が頭を巡ってなんともイライラさせてくれました。そして満を持して登場のブギーマンさんがまぁーみっともないこと。不死身要素は何処へ?ブギーマンを通して『LOGAN/ローガン』(2017年公開)でもやりかったのか、だとしたら失敗でしょう。

同監督が手掛けた今年公開の『エクソシスト/信じる者』も大概しとけって作品でした。デヴィッド・ゴードン・グリーン監督、貴方にとっての居場所はホラー映画ではないのでは?不発ばっかりなのでジャンルを変えてみれば?という余計なお世話でした。

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・『アステロイド・シティ』

あるアメリカの砂漠都市で繰り広げられる洒落乙群像劇。

今年の見た目だけで中身スカスカじゃないか映画第二弾。こちらもルックは良い。パステル調の様式美はウェス・アンダーソン監督ならではの世界観。ただ全体的にのぺーっとした感じ。天才たちの孤独や愛した人を失った悲壮感といった様々な心情は汲み取れますが、どれも印象が弱い気がしました。セリフにしてもそれっぽい事を言っているだけ感が否めません。

それにやっぱり宇宙人やらUFOってなったらケレン味とでも言えばいいのか、もっとサービス精神たっぷりなアホっぽくても良いんじゃないかと。似たような事をやっていた去年公開の『NOPE/ノープ』の方が倍増しで面白かったと思いました。

・『ゴジラ-1.0』

世間的には絶賛っぽいですし、アメリカでも大当たりしているとか。しかしここはあえて言わなくてはならない。怖気づいて逃げてはいけない正念場です。

まず作品として好きなんです。だってゴジラはとっても良いので。各国の映画祭で技術部門の賞を貰うのも分かります。しかしゴジラ登場以外のシーンは擁護し難い。オーバー&いちいち心境を口に出す違和感たっぷりな登場人物たち。戦争や国家を批判したいのか賞賛したいのか微妙なポジショニングで展開する物語。大衆受けを狙ったのか無理やり感動の幕引きにするラスト。映画の良くない要素が色々見受けられたと思います。

それとアメリカで当たった事を免罪符にするのも良くないと思いますよ。なんていうか今作は『インディペンデンス・デイ』(1996年公開)や『アルマゲドン』(1998年公開)的な路線じゃないですか。国民の威信をかけて頑張るぞ!みたいな。だからアメリカで当たったんじゃないかと思うのです。別に今挙げた2作品を批判してるわけではないですが、ダメだった部分はちゃんと表明するのがファンってやつだと思うぞい!

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※ちなみに

現在公開中かな。現代から戦時中にタイムスリップしたJKが特攻隊員と恋に落ちる邦画。あれ予告の時点でちょっと…本編未見ですけど匂います、美化した内容だってことが。特攻隊がどういう状況下で編成されたか理解してるのかが疑問。『ゴジラ-1.0』で描かれる「戦争」だって比較的小綺麗してるように見えて引っかかりましたけど、あれは…もう…あぁぁ…力が出ない…。ある一定層には「戦争」を語るツールとして機能するのかもしれませんが、そもそも意図として死ぬ運命にある青年とJKの恋愛が描きたいだけで、特攻隊や戦争にはあまり興味がないのでは?今なお世界各地で戦争が起きているってのにそれで良いのかと鼻白んでしまいます。とはいえ未見で批判するのもポリシーに反する。配信サイトで見かけ次第チェックしましょう。

ベストアクション賞

はい、本性剥き出しの性格の悪いパートはここまで!こっからは褒めちぎりますよ。

まずは数々のベストアクション振り返る性癖ゴリゴリコーナーになります。

総合部門

スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』

こちらに関しては前編のNo1で挙げ、充分語ったので良いでしょう。ただアクションの観点でいえば、アニメーションだからこその強みを遺憾なく発揮した肉体での再現不可能な離れ業アクションが展開されていました。ほんと映像革命だと思うぞ、あれは。

格闘部門

ジョン・ウィック:コンセクエンス』よりケインさん

では肉体で表現の出来るアクションの限界値と言えそうなのはどうか?今年の作品ならドニー・イェン演じるケインさんではないでしょうか。年齢を感じさせない(あれで60歳は超人だって)超高速モーションに加え、目が見えていないからこそのトリッキーさもプラス。こんな表現が出来るのかと感心してしまいました。人を感知して音が鳴る人感センサーの使い方も面白かった。それに戦闘開始前に腹ごしらえなのかラーメン食ってるシーン良かったよね。いや蕎麦?うどん?実はフォーとかだったら笑うねw。

射撃部門

『ロングショット』より競技用ピストルで殴り込み

実は今年は私の中で銃撃戦不足だった気がしています。観に行く作品のチョイスが良くなかったのかな?そもそもガンアクション映画自体が年々減ってる気もするんですけどね。

そんな中でチョイスしたのは東京国際映画祭で鑑賞した作品。耳の障害が理由で射撃の選手生命を絶たれてしまった鉄工所の警備員が主人公の中国産クライムサスペンスです。

サスペンス系の映画なので銃撃戦自体は終盤にしか登場しませんが、これが凄い。まだ日本での正式な上映が決まっていないようなのであんまり言うのもアレかもしれませんが、アサルトライフル(あれは中国だし56式とか?)やショットガン(オーソドックスにレミントンかな?)を持った連中に対して競技用ピストルって無茶すんな!一発装填、しかも競技用なので弾薬のパワーも低い。しかし重要なのはモノではありません。使用している人間の腕です。辞めたとはいえやはりプロの射撃選手、命中精度がえげつない。言うなれば素人のチンピラがプロボクサーに拳で挑んだといった構図です。プロを相手にした瞬間、死が確定してしまうという事ですね。皆さんも気を付けてましょう。

大砲部門

『ナポレオン』よりアウステルリッツの戦い

いや、他に大砲が登場する作品があったかと問われるとないのでシード権でそのまま優勝みたいになります。しかしこんなボンボン撃って人間がぶっ飛んでいく映画なんてないですよ。とくにアウステルリッツの戦いの凍った湖面を大砲で割り、敵兵を冷たい湖へ突き落としていくシーンは凄まじかった。無慈悲にも程があるぞ。大砲映画といっても過言ではない作品でした。

ベストアクト賞

お次は今年印象に残った役者の皆さんをピックアップ。一番を決めるのはハードなので片っ端から列挙します。

『SEI SEID/シー・セッド その名を暴け』より

ジャーナリズム魂を見せつけた新聞記者さん キャリー・マリガンゾーイ・カザン

『ソフト/クワイエット』より

気迫と根性フルパワーなレイシスト軍団最年少さん オリヴィア・ルッカルディ

『after sun/アフターサン』より

妙に心に残る繊細で儚いお父さん ポール・メスカル

グランツーリスモ』より

夢を捨て切れなかった胸アツコーチ デヴィッド・ハーパー

(『バイオレンス・ナイト』のサンタさんも良かったぞ)

『首』より

尾張弁でがなる生まれた時から全て遊びな信長 加瀬亮

『正欲』より

「正義」を振りかざす空っぽな男 稲垣吾郎

『PERFECT DAYS』より

多くを語らず「人生」を体現する清掃員 役所広司

なお、TVドラマ『いちばん好きな花』の出演者全ても印象深い。多部未華子松下洸平今田美桜神尾楓珠の4名がメインどころでしたが、その他キャストもほんとに良かったと思いました。”このキャラクターにはこの役者さん”がバッチリだったのでしょう。適材適所のキャスティング、一般企業的にいえば的確なアサインというのがその人を魅力や特性を存分に引き出すのだと改めて思いました。

ベスト予告編賞

お次は心に残る予告編です。

『SISU/シス 不死身の男』

映画館で観るたびに笑ってしまった予告です。「彼は”一人殺戮部隊”です」や「世界一幸せな国・フィンランドの爆風マッド・エンターテインメント」。そんで最後は「俺に死んでる暇はない」。字面が面白過ぎます。宣伝だから煽ってるのかと思いきや、まったく噓付いてないのも好印象です。確かにあの爺さんに死んでる暇はなかった。

それに銀河万丈の壮絶で迫真なナレーションが予告を味わい深くしています。昔の木曜洋画劇場のCMっぽさを感じてテンションあがったのは私だけ?アクション映画の予告が全部あんな感じだったら最高なのに。

↓せっかくなのでURLも載せておきましょう。何度見てもオモロいぞ。

www.youtube.com

ベスト井口理賞

って何だよ!と我ながら思ってます。でも何とか井口理初主演映画『ひとりぼっちじゃない』をねじ込みたかった、それだけです。今年は呪術廻戦のテーマ曲にもなった「SPECIALZ」を始めとした曲を収録したアルバム「THE GREATEST UNKNOWN」の発表もあったKingGnuのボーカル。今後はどのような作品に出るのかが楽しみです。役者の経験が恐らく歌唱の表現力にも結び付いているはずなのでじゃんじゃん出て欲しいところ。でもまぁダダ滑りなコメディ映画とかベタ過ぎるラブストーリーは私のテリトリー圏外なの避けて欲しいぜ。あぁ来年のドーム公演、楽しみだなぁ~。

↓作品について、詳しくはこちら

captaincinema.hatenablog.com

流行語大賞

最後に発表するのは個人的流行語大賞になります。

クリード 過去の逆襲』よりSHIN JIDAI

「ロッキー」シリーズを継ぐ「クリード」シリーズの3作目。そのエンドクレジット後に日本限定でわざわざ用意されていた謎のアニメーション短編が『クリードSHIN JIDAI』です。映画館のスクリーンにデカデカと映し出されたあれは一体何だったのか?そもそも本当に目撃したのでしょうか?…私の中で迷宮入りの難解なミステリーと化しています。

そんなわだかまりを抱えてしまったのが影響したのでしょう。事あるごとに"SHIN JIDAI"を連呼しまくった2023年。語尾に元日本ハム監督のトレイ・ヒルマンの「シンジラレナ~イ」っぽく「SHIN JIDA~I」を付けるとそれっぽくなるんですよ。”紅白歌合戦SHIN JIDA~I”とかね。今年の世間的な流行語大賞の「アレ」より汎用性が高いので是非使ってみて下さい。

まとめ

以上、今年の締めくくりとなる2023年映画の諸々のベストでした。

よし、今年は去年比べ割とスムーズにベスト選出が出来ました。良いのか悪いのはさておきもうちょっと悩む時間を楽しみたかったかも。なにせ来年は『マッドマックス:フュリオサ 』があるんで。もう観る前からボルテージが違います。早く公開日決まんないかなぁ~。前売り券出たら走って2~3枚は買いに行こ。

という事で今年はこの辺で。ありがとうございました。

第211回:2023年ベスト映画(前編)

ついにこの時がやって来ました。2023年の総決算、ベスト映画を決める運命の季節です。今年私が映画館で鑑賞したのは全95作品。全タイトルがこちらになります。

  • 非常宣言
  • ファミリア
  • SHE SAID/シー・セッド その名を暴け
  • グッドバイ、バッドマガジンズ
  • ノースマン/導かれし復讐者
  • イニシェリン島の精霊
  • FALL フォール
  • バイオレント・ナイト
  • バビロン
  • コンパートメントNo.6
  • 別れる決心
  • アラビアンナイト三千年の願い
  • ボーンズアンドオール
  • 逆転のトライアングル
  • エンパイア・オブ・ライト
  • フェイブルマンズ
  • エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス
  • ホーリー・トイレット
  • ひとりぼっちじゃない
  • シャザム! 神々の怒り
  • ベイビーわるきゅーれ2ベイビー
  • マッシブ・タレント
  • ベネデッタ
  • エスター ファースト・キル
  • オオカミ狩り
  • ザ・ホエール
  • AIR エア
  • 聖地には蜘蛛が巣を張る
  • ハロウィン THE END
  • ダークグラス
  • ヴィレッジ
  • レッド・ロケット
  • ガーディアンズ・オブ・ギャラクシーVol.3
  • EO イーオー
  • フリークスアウト
  • TAR ター
  • ソフト/クワイエット
  • after sun/アフターサン
  • クリード 過去の逆襲
  • 怪物
  • THE KILLER 暗殺者
  • スパイダーマン アクロス・ザ・スパイダーバース
  • ザ・フラッシュ
  • プー あくまのくまさん
  • To Leslie トゥ・レスリー
  • リバー、流れないでよ
  • マルセル 靴をはいた小さな貝
  • インディ・ジョーンズと運命のダイアル
  • Pearl パール
  • 君たちはどう生きるか
  • マッド・ハイジ
  • ヴァチカンのエクソシスト
  • ミッション:インポッシブル デッドレコニング Part1
  • イノセンツ
  • 神回
  • 658km、陽子の旅
  • バービー
  • クライムズ・オブ・ザ・フューチャー
  • トランスフォーマー ビースト覚醒
  • 春に散る
  • 君は行く先を知らない
  • ステロイド・シティ
  • オオカミの家
  • グランツーリスモ
  • ジョン・ウィック:コンセクエンス
  • ミステリと言う勿れ
  • PIGGY ピギー
  • コカイン・ベア
  • イコライザー THE FINAL
  • ハント
  • キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン
  • カンダハル 突破せよ
  • ザ・クリエイター 創造者
  • ロングショット(TIFF)
  • 開拓者たち(TIFF)
  • エクソシスト/信じる者(TIFF)
  • SISU/シス 不死身の男
  • ザ・キラー
  • ゴジラ-1.0
  • 愛にイナヅマ
  • こいびとのみつけかた
  • 正欲
  • デシベル
  • ロスト・フライト
  • ナポレオン
  • VORTEX ヴォルテックス
  • TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー
  • PERFECT DAYS


再上映作品

はい、今年もギリギリ100本には到達せず。ひゅ~(汗) 映画評論家の柳下さんかな?映画館鑑賞の100本の壁があるんだ的な話をしていたの。それを超えると歯止めの効かなくなるみたいな。この理論だと私ももう少しで領域展開に陥ってしまう…。

さて、それは置いといてこの中から感動と興奮に苛まれた10本を選出し傍若無人にランク付けをしていこうと思います。例年通り再上映作品はランキングからは除外。また東京国際映画祭(TIFF)で鑑賞した作品、『ロングショット』と『開拓者たち』も今後公開予定の可能性を鑑みて対象外とし、あくまで劇場で一般公開された新作のみを対象にします。毎度のことながら、ややネタバレ注意です。

↓去年の内容はこちら

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↑今年入手したパンフレットたち。どれも良いデザイン。

その前に

トップ10発表の前に再上映は含めないとはいえこちらの作品には触れて置かなくてはいけないと思いました。それが『食人族』。1980年公開の大問題作。こちらが4K無修正版というとんでもないバージョンで劇場公開となりました。私、初見だった事もあって途轍もない衝撃にブチのめされました。どう考えても倫理、道徳に反する描写の数々。しかし困った事にこれが滅茶苦茶面白い。好奇心を掻き立てる巧妙な構成と演出に脱帽です。登場キャラクター、映画の作り手、そして鑑賞者全てが野蛮で狂暴な人間に感じる背徳映画でした。きっとこんな映画が生まれる事は今後ないでしょうね。そう考えると奇跡ですし、それを映画館で観られたのは貴重な体験でした。

↓詳しくはこちら

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第10位

それではランキングの発表にいきましょう、第10位は...

 

『PIGGY ピギー』

 

いじめっ子たちが拉致されるのを目撃した少女の最高じゃないスペイン産青春グラフティ。

自身を苦しめる加害者が転じて被害者となった姿を目撃したら人はどうするのか?というセンセーショナルなテーマの時点で良作確定。いじめへの断罪と同時にだからといって犯罪や暴力の黙認をしても良いのか?良心のグレーな部分を刺激してきます。

ただこれだけにとどまらないのがまた面白い。思春期ならではの鬱屈した思いやルッキズムとの格闘、さらにどす黒い欲望も。藤井風の『青春病』って曲に「青春はどどめ色」という歌詞が出てきますが、まさにそんな映画でした。決して綺麗じゃない青春、実はこういうのが心にクリーンヒットする人が多いのでは?少なくとも私はそうです。だって思い返せば綺麗な思い出ばかりじゃないはずですから…。

それとラストが超カッコイイ。今年のベストラストシーンかも。『悪魔のいけにえ』(1974年公開)よろしくな赤銅色の朝焼けに心ときめきます。

第9位

第9位は・・・

 

『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』

 

殺しを生業とする凄腕女子2人組による日常を描くアクションコメディ。前作観てないしぃ…という理由で観に行かない選択をしなくて良かった。ナイス俺!

恐らく現邦画界における最高レベルのアクションを堪能する事が出来ます。格闘、銃撃どれをとってもキレ味抜群。着ぐるみファイトとかいう面白アイディアなアクションも楽しいです。そんなアクションとは対照的な社会に馴染めず悪戦苦闘する2人をオフビートに描いた日常。シャープさとダウナーさでバランスを取った殺し屋映画なんてそうお目にかかれるものじゃないですね。

これがきっかけで阪元祐悟監督という今後追っていきたい監督ができました。恐らく本作を観てなければ2021年の前作を始め、『ある用務員』(2021年公開)や『最強殺し屋伝説国岡』(2019年公開)等々もチェックしていなかったでしょう。何ならU-NEXTに登録してたかどうかも怪しい。ありがとうベイわる!来年公開予定の新作も楽しみにしてます。

第8位

第8位は・・・

 

『SHE SAID/シー・セッド その名を暴け』

 

#MeToo運動の火付けとなったハーベイ・ワインスタインの性的暴行問題を暴いた新聞記者を描いた社会派ドラマ。性加害に関しては今年日本でも旧ジャニーズ事務所の問題が明らかになり、多くの人が考えたのではないでしょうか。

映画そのものはアポとってインタビューしての繰り返しなので単調で地味なのですが、それが寧ろ映画全体を強靭なものにしておりジャーナリズム映画として素晴らし仕上りになっていたと思います。この単調で地味というのが昨今のメディアに必要ではないでしょうか?極論、ジャーナリズムにエンタメなんて要らないんですよ。政治や権力に対して常に監視の眼差しを向けていく、そして間違った方向に行った/行きそうなら修正をかけるよう促す。この繰り返しを地道にやってかなければならないと思います。今年は私人逮捕なんて言葉も出回りましたが、そんなに悪を糾弾したいならジャーナリストなれよ!暴力じゃなく公的な言葉で潰せ!そんなジャーナリズムはこうであって欲しいという私の願いも込みでランクインとしました。

それと主演の一人であるキャリー・マリガンが良い。先日観たブラッドリー・クーパー監督作『マエストロ 音楽と愛と』にも出演してましたが、やっぱりこの方上手いよね。感情を表に出したチャーミングな表情も出来れば、怒りや使命を内側に秘めさせた抑えめの表情も。諸々の感情を自由自在に操ってる感じがします。

第7位

ラッキーセブンですよ、第7位は・・・

 

『オオカミ狩り』

 

凶悪犯たちをフィリピンから韓国へ移送するための貨物船で巻き起こる凶悪犯vs警官vs怪物の三つ巴バトル映画。

本年度ベストスプラッタ映画であるのは間違いないでしょう。老若男女、美男も美女ももれなく血塗れと去年公開の『哭悲 TEH SADNESS』ばりにドバドバじゅるじゅる。個性的なキャラクターも多数(中でも一番は女刑事さんだな)登場するご機嫌な内容でした。

それに今の韓国映画が8~90年代のハリウッド大作らしいザ・エンタメ映画を積極的やろうとしていると感じさせました。本作で言えば『コン・エアー』(1997年公開)にユニバーサル・ソルジャーが殴り込んできた景気の良い映画でしたし、その他私が鑑賞した作品でいえば『ハント』や『非常宣言』、『デシベル』もスケール感がひと昔前のハリウッド的で、様々な作品を彷彿させるどれも楽しい映画でした。今一番ド直球のエンタメ映画が撮れるのは韓国なのかもしれませんね。いつからそうなったんだろう?

ちなみに今作での映画館体験もなかなか興味深かった。従来こんなバイオレンス作品に人ってそんなに集まらないと思うんです。しかしこの作品は違った。登場人物の一人 人殺し大好きなイケメンチンピラを演じたソ・イングクさんのファンの方々と思わしき女性陣で映画館は満席。それにこの映画について書いた回のアクセス数も結構伸びたようで。ほんと凄いっすよ推し活パワーは、日本経済の救世主は"完璧で究極のアイドル"なのかもしれません。

第6位

第6位は・・・

 

AIR エア』

 

バスケシューズにしてファッションアイテムとしても名高いエア・ジョーダン誕生を描くお仕事映画。

私、バスケについて全く存じ上げない弱者。今年は沖縄でバスケのW杯があったらしく(そもそもバスケにもW杯があったのか)、何だか日本も頑張ったっぽいですね。ボク八村塁しか知らんからなぁ…。かと言ってスニーカーが好きってわけでもないんですよ。足のサイズが微妙な人間なので、なかなか合う靴が見つからんしさぁ。

それでもこの映画は面白かった。業績が落ち込むナイキを立て直すため、まだ無名時代のマイケル・ジョーダンと契約を結んでシューズを作ろうという博打におっさんたちが奮闘。奮闘といっても基本電話。電話ばっかりしてるのに見入ってしまうのは俳優力に尽きるでしょう。マット・デイモンジェイソン・ベイトマンクリス・タッカー、そしてベン・アフレック。根拠のない情熱で突き進む姿を観ていると何だか“さぁ!頑張ろう~ぜぇ~♪”な気持ちになってきます。今年は『グランツーリスモ』や『カンダハル 突破せよ』のような、おっさんたちのアツきお仕事映画が豊作だった気がしますね。元気が出る映画ってこういう事ですよ。Just Do It!

第5位

ランキングも半分まできました、第5位は・・・

 

『別れる決心』

 

夫殺しの容疑を掛けられた女性と事件を追う男性刑事によるラブサスペンス。

先程の7位で韓国映画はハリウッド的エンタメやってんな と書きましたが、私の好きな監督パク・チャヌクは変わらずパク・チャヌクやってました。

とはいえ今回は他作品に比べるとケレン味たっぷりな作家性は落ち着いていたでしょうか?いやそんな事もないか。寧ろエロさに関しては磨きがかかっていたかもしれません。直接的な描写は封印、しかしそれがなくとも思わずドキッとしてしまうシーンは多かった印象です。だってさ、何で取り調べ室で2人が寿司食ってるだけでエロい画が撮れるのよwリップクリームの使い方もエグい。相変わらず視線や息づかいのやり取りにも色艶があり品のあるエロスが匂い立っていました。監督、やっぱエロいぜ!

と「エロい」ばっか言ってると変なアカウントから連絡が来そうなので、真面目な視点を。話の本筋自体は典型的なノワールタイプのサスペンス。しかし物語が進むにつれて容疑を疑われている女性視点の心情を入ってくるので、男性視点と女性視点が交差するちょっと変わったノワールものになっているとは思うんですね。こうした複雑怪奇なストーリーってのもチャヌク監督作品の面白さでもあると思いました。

第4位

第4位は・・・

 

『逆転のトライアングル』

 

階級社会やダイバーシティの矛盾を痛烈に皮肉る逆転に次ぐ逆転ブラックコメディ。

まるで昨今の多様性だの平等主義に中指を立てるかのような今年度ベスト意地悪映画。結局、安息地からギャーギャー申し立てたって仕方ない。いざ自分の置かれた社会的/経済的立場が揺らぎ、反転するような事があれば人はどうなるかを嘲笑う性格の悪さが滲み出ていて最高でした。映画だから許されるっていうか、こうしたアイロニーは文化芸術に必要な要素だと思います。これがカンヌでグランプリってのも加点ポイント。いや選考委員の皆さんどんな気持ちよw 

また今年、というより定期的にネットで話題になるデート代の奢り奢られにおけるある種のアンサー的な描写も面白かった。これ万国共通のモヤモヤなんですね。もう面倒くさいから、稼いでほうが払え!同じぐらいなら仲良く出し合え!以上!

第3位

ここからはトップ3。見事銅メダルに輝いたのは・・・

 

『首』

 

北野武が仕掛けるコント”本能寺の変”。

おふざけが強いコメディ映画は大半受け付けない私ですが、これはストレスなく面白く観られました。おふざけはおふざけでも合戦シーンや衣装/装飾がリッチに仕上がっているので、TVやネット動画の程度の低いバラエティっぽさを感じなかったからかもしれません。思えば9位の『ベイビー~』もコメディ映画でしたが、あれだってアクションの質が高いからチープさを感じずに気持ちが冷める事なく楽しめたんだと。

ともあれ私の中で冬眠していた戦国オタクの血が覚醒!よくある勇ましく美しい英雄伝ではないタカが外れた連中による血と泥の権力闘争が描かれていました。だって考えてみて下さいよ。敵国や主君と家臣で争うどころか親子兄弟でも家督を巡り殺し合う時代。一国の主に留まらず全国を権力下にしようなんて相当狂った人間じゃなきゃ出来な芸当でしょ。だからそこ、こういう戦国が観てみたかった。個人的な願望が叶いましたし、山崎の戦い以降の流れを描いた続編があってもええんやで。

ちなみに鑑賞したちょっと後に秀吉が大規模な花見をした事でも有名な京都の醍醐寺へ行きました。桜ではなく紅葉が見頃の時期でしたが、しっかり聞こえてきましたよ。「花見してぇんだ、バカヤロー!さっさと植えろよ!」の声が。

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第2位

お次は準優勝作品、堂々の銀メダルに輝いたのは・・・

 

『SISU/シス 不死身の男』

 

伝説の元軍人爺さんとナチスの戦車隊が爺さんの掘り当てた金塊を巡って争うフィンランド産バイオレンスアクション。

実は私、日本公開が決まる以前に偶然YouTubeで予告を見ておりまして、陰ながら公開を待ち望んでいた作品でした。昨今の舐めてたおっさんがヤバかった系痛快アクションなんだろうなぁと。そんな期待は思い切り超えてくる快作でした。

今年はこの舐めてたおっさんがヤバかった系映画は『ジョン・ウィック:コンセクエンス』(もはやその枠ではない?)や『イコライザーTHE FINAL』とありましたが、本作はどちらかといえば「マッドマックス」タイプ。っていうかやってる事が『マッドマックス 怒りのデス・ロード』(2015年公開)というまさかのFR魂の継承作品だったのです。そりゃもうテンション爆上げですよ。7位に挙げた『オオカミ狩り』同様、無駄な贅肉が一切ないストイックな純エンタメ作品。こちらの方がよりストイックに絞っている印象を受けました。PascoのCMじゃないですけど”余計なものは入れない”の精神は非常に大事なのです。

この作品から得られる大事な精神はもう一つ。死なないと心に決める事、「決める」のが大事です。かの「元気があれば何でも出来る」と同じで死なないと決めれば何とかなるんです。世の中にはすぐ「死にたい」なんて口走る人も居ますが、死にたくなったら思い出しましょう。死なないSISU爺さんの事を。

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第1位

それでは第1位。2023年の玉座に鎮座す栄えある作品は・・・

 

 

スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』

 

イエ~イ!

2018年公開『スパイダーマン:スパイダーバース』の続編。この2018年の作品も革新的でしたが、今作はそれをも凌駕するもう本当に凄いもん目撃したっ!という衝撃。今後アニメーション映画の歴史を語る上で重要な作品になってもおかしくないのでは?

冒頭、グウェンとバルチャーのグッゲンハイム美術館での戦闘シーンの時点で腰抜かすかと思いました。キャラクターごとに絵のタッチや色彩がまったく異なる、しかもそれを疾走感マックスのハイスピード映像で魅せるという神作画。いちいち面白い色彩や動きがあるので、人間が1度観て処理が出来る脳のキャパを優に超えてきます。映像表現の限界値、そんな映像体験をさせて貰いましたし、まだまだ映画にも可能性があるように思えてなりません。

また映像表現だけが突き抜けているわけではなくストーリーも野心的でした。今まで描かれてきた「スパイダーマン」の固定観念を覆すかのような展開は激アツ。ラストの終わり方もズル過ぎる。映像や音楽といった技術面と物語やメッセージ性のバランスの良さといった点でも今年トップレベルの大傑作だったと思います。

完結編となる『ビヨンド・ザ・スパイダーバース』の公開が未定となってしまいましたが(何だか制作スタッフが相次ぎ“こんな熾烈な現場やってられっか!”と離脱したとか)、頑張って公開して欲しい。公開したら走って観に行くんでお願いします。

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まとめ

以上、全細胞おろか全DNAまで結集させて選び抜いた至極の10+1作品でした。マイベストにおいてアニメーション映画が1位となるのは史上初。珍しくコメディ系統の作品も複数入っており"SIN ZIDAI"の到来を予感させます。

その他『after sun/アフターサン』グランツーリスモ『バイオレント・ナイト』『イノセンツ』も大変素晴らしかったのですが、惜しくもランクインさせる事が出来ず。これらもオススメですから観てない人は観てね。

という事でいつも通り長尺なってきました。映画でも長尺はブーブー言われますし一旦お開きにします。後編では印象に残った役者やアクションシーン、そして個人的に頭を抱えた作品について言及します。それではありがとうございました。